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135.ていれいほうこく。

 ギルド本部。

「いつもの事ながら、今日もまた、報告書の量がすごいことになっていますね。

 フェリスさん。

 渉外さんたちからの提示報告はそちらで目を通して重要な物だけをこちらに流してください」

「はい。

 めぼしいものは……。

 あ。

 製油所建築予定地の土地買収と周辺地域への説得工作がほぼ完了したようです。

 こちらの準備が整い次第、いつでもはじめられるそうで……。

 精製設備以外の居住用家屋はすでに建築にはいっていて、数日中に完成の予定」

「あちらでは……もう完全に春になっているのでしたっけ?」

「ええ。

 こちらとは違い、元々雪が少ない土地柄ですから、今がちょうどいい季節になるかと」

「そうですか。

 原油の精製設備は……確か、もう完成したとかいう報告があがっていたはずですが……」

「組み立て式のが部材が仕上がっていて、あとは現地で完成させるだけになっているはずです。

 今から向こうで製油作業を開始できれば、こちらで雪が解ける頃にはそれなりの量の燃料が確保できるかと。

 ピス族の機械が迷宮外部でも広範に使用可能となります」

「ピス族の人たちからは、その機械もいずれ壊れて修理が出来なくなるものだから、あまり長期に渡って使用することは想定しないでくれと釘を刺されているのですが、それでも半年や一年ですべてが使用不能になるほど柔なものでもないでしょう。

 ピス族の人たちへの連絡は?」

「彼らも以前よりこの報告を待ちかまえていましたので、すぐにお伝えしてあります。

 今頃技師数名が出立の準備におおわらわかと」

「長いこと迷宮内で過ごさせてしまいましたからね。

 外に出たいという要求が強まっているのかも知れません。

 向こうの渉外さんのフォローも期待できますし、機材を抱えた集団で転移していくので、無用なトラブルは回避出来ると思いますが……。

 その現地では、異族は珍しい土地柄なのですよね」

「知的種族は、ほとんどヒト族しか見あたらない場所らしいです。

 しかし、交渉にあたった渉外さんが絵図なども使用してピス族の外観なども含めてどのような作業を行うのかも説明を済ませておりますので、おおむね心配はいらないかと」

「それでは、その件については、今の時点では問題はなし、と……」

「次に、各国王宮に配布を開始した機織機についてですが……」

「なにか反応がありましたか?」

「今の時点では、ほとんどありません。

 操作手順書とともに細かい構造や作動原理を解説した冊子も一緒に送っているのですが、どうも大半の場所であの機械の価値が理解できていないようで……」

「機械そのものが、こちらでは極めて珍しい存在ですからね」

「でも、若干……早速試用してみて、その生産効率に感嘆したり、詳細な質問状を送って来ているところもあるようです。

 質問状については翻訳をして、ピス族の技師に回答して貰っていますが……」

「そうした国々では、あの機械の原理を理解し、自分たちなりに改良を重ねたり独自の機械を開発したりするのかも知れませんね。

 いずれにせよ、具体的な成果が出来るまでには、長い長い時間をかけることになるはずですが……」

「今の鍛造技術では、あの蒸気機関に使用されているような高圧に耐えきれる部品は製作不可能だそうですから。

 こちらでも、地の民の助力がなければ不可能だったということですし……」

「寄贈した機織機を死蔵させようと活用しようと、それは向こう側の都合というものですからどうでもいいんですが……。

 こちらで技術を学んだ職人さんたちを外部に移住させる計画の進捗状況は、どんな感じですか?」

「まだ人数は多くありませんが、時計職人とか注射や点滴用の針を作る人たちが、多くの需要が見込まれる土地に乞われてそれに応じる形で、徐々に流出していっています。

 どうも職人さんたちにとって、最先端の技術が学べる迷宮はかなり居心地がよいらしく、なかなかここから離れようとはしないのですが……」

「次々に出てくる新しい技術を吸収することを優先するか、それも落ち着いた環境でじっくりと狭い領域のお仕事をするのか……という違いですか」

「そうなりますね。

 職人さんたちが迷宮から出て行くことを渋るおかげで、外部に行った人たちはおおむね破格とい

っていい待遇を提示されて、ようやく……といったパターンが多いようです」

「今の時点では、それでいいでしょう。

 引き続き、手に職をつけようとする人たちを募ってギルドぐるみでそれとなく支援をしてください。

 技術を持つ人たちが残ってさえいれば、迷宮が消えた後もその恩恵は長く享受できます」

「そこへいくと冒険者の方々は、迷宮の外へ行くとあまり仕事の口に恵まれませんからね」

「本当の応用力とか適応力に優れた人たちは、どこにいっても何とかやっていけると思うのですけどね」

「いずれにせよ、モンスターの倒し方よりも、懐中時計の修理とか注射針の精製の方がずっと需要があります。

 人材の育成といえば、少学舎の方からいくつか要請があがってきています」

「少学舎から、ですか?

 例によって、各種資材の不足をでしょうか?」

「寝具などが足りない……という声もありますが、これらはあらかじめ予想していた通りの流れなのですでに手配をして外部で買い集めている最中です。

 少し予想外だったのが、この企画書になるんですけど……」

「現役の冒険者を……教官として登用、ですか……」

「同一人物に毎日入って貰う……という形ではなく、パーティ内で一人か二人づつ抜けて、交代しながら継続的に面倒を見る……という形だそうですが……」

「いずれにせよ、少学舎の裁量内のことですね。

 いちいちこちらに了解を求めなければならない理由が理解できません」

「わずか数名とはいえ、現役の冒険者から戦力を引き抜くことになるから、一応、お伺いを立ててきた……ということでしょうか?」

「そんなところでしょう。

 無断でいきなり何十人もそっちに持って行かれたら困りますが、この規模ならまず問題はありません。

 そのまま認可をする方向で」

「では、そのように伝えます。

 同じく、少学舎からの要請です。

 迷宮日報なるものを発行したので、ついては大量の紙を手配して貰いたいとのことで……」

「迷宮……日報、ですか?

 なんですか、それ? 初耳ですけど」

「王子様がいうことには……攻略法を記した新聞、だそうです。

 次々に新たな特殊能力を持ったモンスターが出現する今日この頃、その対処法などをまとめて数枚の紙に印刷して廉価で販売する、そうで……」

「それは……ギルドの方針にも適っていますし、やってくださるんなら歓迎をするところですが……。

 彼らに、そんな事業をやりきれる人的リソースがあるんでしょうか?」

「この企画書によりますと、ナビズ族と連携して情報を収集、いち早く記事にまとめて新開発のロウ版印刷にかける……そうです。

 で、一番ネックになるのが、毎日消費されるはずの紙を定量的に確保できるか、ということで……。

 どのみち読み捨てになるものですから、紙質は問わないそうです」

「それで、ギルドに……ですか。

 紙の需給状況は、今、どうなっていましたか?」

「紙の工場をいくつか押さえた結果、かなり安定してきました。

 これ以上の増産にも耐えられるはずですが……」

「はず、では駄目です。

 各工場の稼働状況を確認の上、余裕がありそうだったら増産の手配を。

 日報とやらに許可を出すのはそれからのことになりますね」

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