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134.きょういくようこう。

 迷宮内、臨時教練所。

「元魔王軍の人たちは、どうにも自分の身を軽く扱いすぎるなあ。

 捨て身上等というか、元の軍隊の性質がなかなか抜けきれないんだろけど……この傾向は、今のギルドの方針とは真っ向から対立する。

 これの矯正のために、なんらかの手だてが欲しいところだけど……。

 今の時点では、命大事にというモットーを地道に言い含めていくしかないか。

 おそらく、こっちの世界でいろいろな経験をして、自分の命を自然と惜しむようになれば、自然と改善されていくだろうし……。

 そのためには、こっちの世界を楽しんで貰わなければならないのか……。

 またマスターんところに繰り出してもいいけど、それだけだと能がないよなあ。

 うーん……。

 わからん!

 他のやつらにも相談して、後でゆっくりと考えよう。

 グガウ族に関しては、彼ら、連携が巧すぎ。

 あれでも完成しているようなもんだから、改めて手を入れる気が起きないっていうか……。

 でも、あの手の完成度の高さっていうのは、ちょっとした欠員でがらりと崩れちゃったりするんだよな。

 ことに、リーダー役がはっきりと固定されすぎているのが気になる。

 不意のアクシデントでそのリーダーが戦闘不能になったら、あっさり全滅してもおかしくはない。

 でも、それじゃあ……駄目なんだ。迷宮で生き残るためには、他のみんなが倒れても自分だけは無事に脱出できるくらいの気概と判断力を養わないと……。

 こちらの彼らも、長年、下手をすれば何世代もかかってそういう戦法を養い、実行してきているわけから、それを一気に崩すというのも酷だし難しいだろうなあ。

 でも、個々の人員の自主的な判断力は、最低限欲しいとことだし……。

 ここで一人で考えてもしゃーないか。

 これも、今後の課題、と」

(シナクー)(シナクー)

「……ん?

 なんだ、ナビズ族。

 またギルドの呼び出しか?」

(違うー)(ギルドではないけどー)(ティリ様が、今夜にでも時間とって欲しいってー)

「……ティリ様が?

 別に、改めて約束なんかしなくても、毎晩のように羊蹄亭で合流しているのに……。

 ひょっとして、なんかあったのか?」

(あった、あったー)(シナクにー)(教官役の心得とか教えて欲しいってー)

「……はぁ?

 ティリ様が、か?

 なんでそんなことに……」

(正確にはー)(ティリ様が頼んだ、少学舎の教官役ー)(ガールズパーティーにー)

「……なんでそんなことになっているんだよ……。

 誰か、順序立てて説明してくれ」


 迷宮内、羊蹄亭支店。

「……ふぅ」

「シナクさん。

 今夜はおはやいお着きで。

 どうですか? ひさしぶりの教官役は?」

「なんだ、レニーか。

 教官役は……まあ、相変わらず、気苦労ばかりが多い役割だなあ」

「ねえねえ、シナクくん!

 聞いたよ!

 今日も早速、元魔王軍兵士とかグガウ族と派手にやったみたいだね!」

「あのなあ、コニス。

 あんな模擬戦では派手にやったうちに入りません」

「おや?

 シナクさんにとって二百名以上を相手取って全勝零敗に終わったあの華々しい成果は、派手なうちに入らないのですか?」

「あのなあ、レニー。

 そういうことではなく、あれはあくまで必要だから行った手順でしかなく、そんなに喧伝するようなこっちゃないってことで……」

「謙遜ではなく本気でそう思っているらしいところがシナクくんらしいね!」

「ああ、もう。

 なんでもいいや。

 マスター、いつもの」

「はいよ」

「それで、お前らの方はどうなんだ?

 お前らも例によって、ギルドから新人さん、何名か押しつけられているんだろう?」

「ええ。

 ぼくらは、もともとそういうのに慣れていますから」

「レニーくんと分かれて、自分外は全部新人さんのパーティを組んでしっかりと指導しているよ!」

「そいつはまた……ずいぶんと、ギルドに協力的なことだ。

 そういえばお前ら、おれなんかよりもよっぽど人あしらいが巧かったもんな」

「いえいえ。

 一度に何百名も面倒を見ているシナクさんほどではありあませんよ」

「何百名っちっても、教えるべき事はだいたいが決まっているし……少なくとも、根本にある基礎っていうかポリシーっていうか精神っていうか、そういうものは意外にシンプルだったりするからな。

 そいつさえ弁えていれば、特に迷うことはないんだが……。

 それに、最終的にはいくら大人数になろうが、直接教えられる人数には自然と上限ってもんがある。

 だから、最初のうちこそ面倒を見るけど、ある程度方針が決まったら、後はやつら自身に自分や後続への面倒を見させるさ。

 今日だって、今、おれの教練に参加しているやつら全員に、これから二万人前後の元魔王軍兵士全員を効率よく冒険者にする方法を考えろって宿題にして帰って来ちまったし……」

「それを……そのまま宿題にしたんですか?

 シナクさんは相変わらず、大胆なことをしますね……」

「だって、おればっかりがいつまでも一人で悩んでいるのも馬鹿馬鹿しいだろう?

 なにかの拍子に、やつらから画期的なアイデアが飛び出して来ないとも限らないし……。

 それに、班分けして各自にディスカッションする方法はこれまでに教え込んで来たから、なんとかなるだろう」

「一方的に教えられるだけではなく、自分の頭で考えて判断できるのが本当の冒険者……というわけだね!」

「シナクさんが日頃から主張していらっしゃることをそのまま実践しているわけですね」

「そんな大げさなもんでもないんだけどな。

 で、今日のはなしあいである程度まとまったら、今度は実際にやつらに元魔王軍兵士を何十名かづつ預けて教練をやらせてみる。

 一番早く、多くの放免を輩出できる班はどこかなー、って競争になる。

 その課程で別の班のやり口を観察したり参考にしたりするだろうし、情報交換だって活発になる。

 今日企画書書いてギルドに提出しておいたから、追加の教練場所とかも成績優秀な班への報奨金とかも、そのうち用意してくれるだろうし……」

「見事な手抜きっぷりだね!」

「そこは合理的な判断といっておいてくれ、コニス。

 正気で考えればおれ一人で二万人なんて、とてもじゃないが面倒見られるわけがないんだから……」

「実践こそ最大の教育、ですか。

 実にシナクさんらしいやり方で……」

「半熟教官どもが仕上がってくれるのを、いつまでも気長に待ちかまえている余裕もないんでな。

 どういう風に考えればいいのかって根本の部分は教えてきたし、今後もやつらが迷うようならきっちりとフォローはする。

 でも、まずは自分たちであーでもないこーでもないと悩み迷いながら実際に試行錯誤を繰り返してみせるのが、一番早いって」

「今日はずいぶんと早くあがったのだな、シナクよ」

「ああ、ティリ様、どうも」

「「「「「「シナク教官、おひさしぶりです!」」」」」」

「はい、君たちも元気そうでなにより。

 まずは、これね」

「シナクよ。

 なんじゃ、これは?」

「今、レニーたちにはなしていた企画書の写しと、それを補足するためのいくばかのメモ書き。

 そういうのが欲しかったんでしょ?」

「ちょうど今、ピザが焼きあがったところなんだが……」

「ああ、マスター。

 それ、こっちにどんどん持って来ちゃって。

 あとティリ様と彼女たちにも、飲み物を」

「はいよ。

 では、ご注文をどうぞ」


「心得、っていってもなあ……。

 基本的には、教練のときに習ったこととか今の現場で必要だと思う知識を伝えれば事足りると思うけど……」

「自分らに、勤まるでありましょうか?」

「その点は、心配いらないよ。

 君たちだって、今で「はいよ。

 では、ご注文をどうぞ」


「心得、っていってもなあ……。

 基本的には、教練のときに習ったこととか今の現場で必要だと思う知識を伝えれば事足りると思うけど……」

「自分らに、勤まるでありましょうか?」

「その点は、心配いらないよ。

 君たちだって、今では立派な中堅パーティなんだから。

 でも……そうだな。

 ひとつだけ注意しておくとすれば……相手に舐められないこと、かなあ」

「舐められない……ですか?」

「相手は王都の浮浪児、極めて育ちが悪い連中なわけだ。

 特に君たちは、教えを受ける側と年齢もたいして変わらない女性ばかりなわけだから……最初に模擬戦かなんかでガツンとかまして、現役冒険者の実力ってのを思い知らせてやるんだな。

 そうしたらそれ以降は、おとなしくこちらのいうことに耳を傾けるようになるから」

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