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132.いしがまのせっちばしょ。

 迷宮内、臨時修練所。

「ええっと……これで、グガウ族の方々は全員、一巡したのかな?」

『確かに、一通り相手をして貰ったが……。

 解せぬ』

「解せぬ、とかいわれましても……。

 流石に異族といいましょうか、速度や敏捷性はヒト族の水準よりは遙かに上をいってます。

 それこそ、ヒト族よりはモンスターの方に近い。

 しかし、強いていえば動きが直線的で、それだけ次の手が予測しやすい」

『予測しやすい……のか?』

「ええ。

 そもそも、見ていますとどうも、みなさん一対一の対戦経験が総じて乏しくていらっしゃるようで……こういってはなんですが、駆け引きとかに慣れていらっしゃらない。

 やはりグガウ族のみなさんの方法論は、集団で統率の取れた連携をして、はじめて活きてくるものではないのでしょうか?」

『群れでの狩り……こそ、確かに、われらの本懐ではあるが……。

 仮に、集団で挑んだとして、おぬしはそれに対抗できるのか?』

「正直なところ……やってみないとわかりません。

 おれはあくまで報告書でそうと知っただけであって、みなさんの狩りの現場をこの目で見たわけではありませんので……。

 どうにも判断が出来かねる、というのが本当のところです」

『では……挑戦を受けてくれるか?』

「これからですか?

 いいでしょう。

 そちらの準備が整い次第、いつからでもどうぞ」


 迷宮内、某所。

「あれ……誰もいねーし……」

「旦那。

 どうしますか?」

「ああ。

 ちょっと待ってて貰います?

 なんだ、マルサスのやつら。

 留守にするんならするで、言づけるなり書き置きするなりしておけよな。

 えーと。

 あっちが試射場になって、こっちにいろいろと建物を普請する予定だから……。

 どうするかなあ。

 位置的には、入り口からそう離れていない場所に石窯を置きたいところなんだが……。

 そもそも、この転移魔法陣の位置も、仮設ではなくここで本決まりなのかな?

 ああ、もう。

 やつらに確認してみないと、何一つはじめられねーな……。

 石工さん。

 詳しい事情を知る者が今留守にしているようなんで、しばらく休憩していていいっすよ。

 なんだったら、ちょっとはやいけど今のうちに食事休憩に入っちゃってもいいし……」


 しゅん。


「……あらぁ? ハイネス。

 なに。羊蹄亭の方は、もう済んだの?」

「ああ。

 流石は本職っていうか、場所と大きさを指定したらあとはこちらが予想していた以上に手がはやかったよ。

 で、こっちの石窯もさっさと設えたいところなんだけど、どこに作りつければいいのかなーって……。

 お前らがいなかったから、判断がつかなかったところだよ」

「なるほどねえ。

 こっちは、迷宮に用事が出来たのでちょっと出かけてきたところなんだけど……」

「迷宮に用事?

 救援要請か?」

「わたしたちに、ではなくぅ、ティリ様にねぇ。

 わたしたちは、おまけっていうか見学っていうか……おかげで、珍しいものが見れた訳だけどぉ」

「そういうはなしは、あとでゆっくりしようや。

 まずは、石窯だ。

 で、そこの出入り口の魔法陣は、動かさないという前提でいいのか?」

「はいはい。

 それでいいのよぉ。

 マルサスがいうには、ここから……ここいらまでをオープンスペースにしてぇ、椅子とテーブルだけを置いて誰でも休憩できる空間にする予定なんだってぇ。

 迷宮内だと気候の変化とかを無視できるのがいいわよねぇ。

 で、こっからこっち側に建物を建ててぇ……」

「あの、旦那……。

 本当に、おいとまを頂いても……」

「ええ、結構ですよ。

 もう少し、打ち合わせが必要みたいですから。

 食事が終わって十分休養したら、また来てください。

 そのころにはおそらく、こちらの打ち合わせも一段落して石窯の位置も明確になっていることでしょう。

 別にここで弁当を使ってもいいですし……」

「ごめんなさいねぇ、職人さん。

 準備不足なところに呼んでしまってぇ……」

「いえいえ。お気になさらず。

 それでは少々、休憩に入らせて貰います」

「お疲れさまでございます。

 休憩が終わったら、改めてよろしくお願いします」

「そういや、マルサスとティリ様たちの姿が見えないようだけど?」

「マルサスは、縄張りを決める職長さんを手配しにいったわぁ。

 ティリ様とゼグスくんはぁ、迷宮にいってからしばらくは別行動。

 今日はこちらに帰ってくるのかこないのか、それさえも不明」

「ま、ティリ様たちは、はやく狙撃銃の試射をしたいとやってきただけだもんな」

「必ずしも、そうとばかりもいえないんだけどねぇ。

 特にティリ様は、お金を出してくださる分、いろいろ意見をくださるようでぇ……」

「マルサスがいってたやつか?

 あの程度なら、別に目くじらをたてるほどでもないだろう。

 おれたちの初期案だと、もっと簡素っていうかぶっちゃけしょぼい構想だったし、ティリ様がいろいろアイデアを出してくれたおかげで、かなりいい感じになってきた部分もあるし……」

「それはいいんだけどぉ……だからこそ、最初の段階でティリ様抜きではじめると拗れるじゃんあいかなぁ、って……」


 しゅん。


「待たせたな。

 こちらはどこまで進んでいるのか?」

「まだ全然。

 石窯を設える石工さんが来たけどぉ、正確に場所を決めておかなかったおかげでぇ、先に休憩に入ってもらいましたぁ」

「なんと。

 まだ石窯の位置取りもしていなかったのか?

 マルサスはなにをやっておる」

「縄張りを決める職長さんにはなしをつけにいっておりますぅ」

「そうか。

 さぼっておるわけではないのであれば、それでよい。

 で……今話題になっておるのは、石窯を置く位置でいいのか?」

「ええ。

 その通りでございますぅ、ティリ様ぁ」

「あの転移陣は、動かす予定はないのだな?」

「あの隅のままで、返る必要もないでしょう。

 建前がはじまったりしますと、あれとは別に資材搬入用の転移陣を増設する必要があるのかも知れませんがぁ……」

「そのへんの判断は、職人どもに任せるとしよう。

 それで、わらわは、あそのこ転移陣からこちらに降り立った客人の目線にぱっと入ってくる場所がよろしいと思う」

「石窯のはなしですかぁ?」

「他になにがある?

 そうさな。

 転移陣の付近はなにかと人が込み合うであろうから、少し離れた場所の……石窯を置く場所は、やはり家の近くの方が都合がよろしいのだろうか?」

「必ずしもそうとは限りません。

 石窯といっても、ピザを焼くだけのものですから。

 生地や具を運ぶだけなら、さほど手間もかかりはいないでしょう」

「しかし、そのさほども手間も毎日のように積もりつもれば苦痛の種ともなりうる。

 やはり厨房から近い方が便利なのでは……」

「いや、ちょっと待ってください。

 ピザの生地や上に乗せる具を用意したり……といった程度の手間なら、なにも厨房でやらなくてもいいのではないでしょうか?」

「なにぃ?

 どういうこと、ハイネスぅ」

「だから、さ。

 食材の置き場と、生地をこねる場所。

 それに飲み物を用意したり洗い物をしたりする水場くらいなものだろ?

 必要なのは?」

「まあ……あんまり本格的な厨房っていうのは、必要はないわよねぇ」

「その程度だったら、石窯の近くに簡単な厨房を作ってしまえばいいんじぇね?

 この一角は誰もが出会い出来る開けた場所にするとかいってただろ?

 だったら、厨房だって外から丸見えでもいいんじゃね?

 どうせ全部迷宮の中で、完全な野外というわけではないし、衛生的にも問題はないと思うけど……」


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