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29.あんいにチートにたよらないりゆう。

「で、じいさん。

 なんだ、この玉は?」

「いうなれば、目潰しよの。

 今は空だが、本番のときにはこの殻の中に粉末状にした胡椒や辛子をいれておく。それで、勢いよく投げつけるとその殻が破れて中身が飛び散る仕掛けじゃ」

「なるほど。

 迷宮のモンスターも、どんどん強くなってくるからな。虫系とかには微妙かも知れないが、獣系にはそれなりに効果があるか……」

「以前、おぬしが長期戦が必須となる強敵にあったときは、まず目を潰すといっておったのを思い出しての。訪ねてきた指物師に相談したら、この玉をその場で作りおった。革を取り出して、みる間にささっと縫い合わせての」

「あのおっさんかな? これ、ちょっと試してみていいか?」

「おう。それはあくまで見本で、これで試してみて調子がよければすぐにでも数を揃えるとかいっていたから……まあ、大丈夫じゃろ」

「ん、じゃあ、まあ……。

 床にでも、叩きつけてみるかな?」


 パン!


「お。結構、勢いよくはじけるもんだな。

 これなら、中身がいい感じに飛び散るんじゃないか?」

「ん。

 中身の詳細とか重量の調整とかはこれから決めるそうじゃが、その殻だけなら簡単な造作だから、いくらでも弟子に作らせることができるといっておった」

「そいつはいいな。

 おれも使うけど、初心者用にも使いやすいだろう、これは」

「感覚器を真っ先に潰すのはシナクの常道」

「自分よりデカくて力が強くて早いのを相手にするんだ。知恵くらいは使わないと、どうしようもねーだろう」

「それから件の指物師は、こんなものも置いていったぞ」

「これは……矢、か? とくに珍しくもないような……」

「矢よりも、矢を納める矢筒の方に工夫があるらしい。一本一本が固定されていて、少し強く引かねば矢が抜けない構造になっているとか」

「……お。

 本当だ。

 でも、それにどういう意味が?」

「鏃に直接触れる機会が少なければ、強い毒も鏃に仕込めるであろう」

「……ああ。そういうことね。

 これ自体はまことに結構なんだが……最近は、そもそもその矢がまともに刺さらないのが多くて……」

「それも工夫しておったな」

「これは……矢、だけど……先端になんか仕掛けがあるのか?」

「先端に炸薬を詰め、その膨らんだ部分のしっぽに小さな火打ち石が仕掛けてあるそうじゃ。鏃に強い衝撃を与えると火打ち石がぶつかり合い、炸薬を爆発させる。その爆発力は矢の前方へと逃げるようになったいるとか……」

「そりゃあいい。

 地盤が緩いところとかは派手に発破使えないし、その仕掛けだと少ない炸薬で大きな効果が得られそうだ。表面が硬いやつでも、穴が開けられればそこから矢でも毒でも槍でも突きこめる」

「とはいえ、炸薬の量などもこれから調整するそうじゃから、実用できるものが実際に出来上がってくるのには、今しばらくの間が必要となろう」

「いいって、そんなもん。

 こっちとしては少しでも有利になりゃあそれでめっけもんってもんだぁ。

 しかしあの指物師のおっさんも、いろいろと考えてくれるよな」

「あの者が単独で、というより、近隣のその手の工房群が競うようにして、今までに構想だけにとどめておいたものをを一斉に実作しはじめたようじゃな。

 向こうにしてみれば、目新しい素材を次々に提供してくれる上、新製品の実験までしてくれるわけじゃから、迷宮様々といったところじゃろうな。最近、大きな戦がないから新兵器の開発も採算があわなくて大ぴらにできぬであろうし」

「で、おれら冒険者はその実験台、ってか?

 まあ、そんなところだろうなあ……世の中、持ちつ持たれつ、か……」


「待たせたな。

 ……思ったよりも長く話しこんじまった」

「ああ。それはよいのだが……。

 ふむ。

 このあたりは、妙に工房が多いな」

「わはははは。

 この町は、もともと鉱山で栄えてところだからなあ。最盛期は鉱石を精製する工房や鍛冶屋でひしめいていたそうだが、薪をとりすぎて何度か土砂崩れを起こして、結果、火力を使う工房は少し離れたところまで強制的に移動させられたそうだ。

 でも、建物自体は見ての通り石造りだから取り壊すのも一苦労。なんで、そのまま残されて、彫金や革製品とか、細かい加工専門の工房として使われているわけだ」

「ふむ。ずいぶんと詳しいな」

「わはははは。

 もともと、おれは地元だからな。もっとも、おれが物心ついた頃には山もめぼしいものはほぼ掘り尽くしてて、この町もだいたい今の形だったわけだが」

「あとひとつ、わからないことといえば……なぜ誰も、わたしの正体を知った上で、助けを乞わない? 悪名でもなんでも、塔の魔女はそれなりに知られた存在であるというのに、それを利用しようとする者が、今のところあらわれていない」

「ん?

 そりゃ、当然じゃないのか?

 確かにあんたなら、ぱぱーっと迷宮ごと消しちまうことはできるんだろうけど……そんなことをされたら、それこそおれたちもメシの食い上げだしなあ。

 確かに迷宮は驚異だけど、その迷宮があるおかげで、ここいらの景気が上向きになっている面もあるし……」

「そこまで根本的な解決を望まなくとも……さっき見せられたような小細工を積み重ねていくより、もっと高性能な武装の数々がわたしの塔に死蔵されていることは、おまえさんもその目でみてきたろう?」

「ああ、そういうはなしか。

 でもよう、塔の魔女さん。

 こういってはなんだが、あんたはおれたちなんかと比較することさえ馬鹿馬鹿しい……あー。一線越えてしまった存在だ。

 例えば、このルリーカにしたってこの年齢でかなり物騒な魔法を使いこなせる。これはこれで一般人と比較できない存在なんだが……あんたは、そのルリーカの億倍とかいうとんでもない存在なんだろ?

 そんな存在に安易に頼ってすがりついて、助けて貰う救っていただく……ってのは、なんか筋や順序が違っていやしねえか?

 おれなんかは一介の冒険者にすぎんのだが……そんな冒険者を束ねるギルドがあって、その上にお役所やら王国やらがあって、さらにその上には帝国だって控えている。

 今のおれたちには手が負えないと判断したら、ギルドの連中だって馬鹿ってわけじゃあねえ。上の方に順々と助けを求めていくんじゃねーのか? ギルドもいろいろ対策を講じはじめたところだし、それがどこまで成功するのか今の時点では読めきれないけど……外からみた感じでは、そこまで逼迫している様子もない。

 あんたのような一線を越えた存在に助けを求めるのは、おれたち凡俗がやるだけのことをすべてやり終えて、そんでももうどうしょうもないって追いつめられた最後の最後、でいいじゃねーかな。

 少なくとも、迷宮がおれたちにもどうにか手に負えている今この時点であんたに助けを求めていい理由ってのがおれには思いつかないし、ギルドのギリスさんたちだって、まだまだ自分たちでどうにかできると判断しているからあんたに声をかけないと思うんだけど……違うかな?」


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