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127.そなえ。

 迷宮内、臨時教練所。

「元魔王軍兵士二百名とグガウ族、それに半熟教官たちをごっちゃにしてパーティ組ませて、迷宮に送り込んだわけだが……。

 さて、どうするよ。この資料の山。

 事務員さんたちに分類して索引とかつけて整理をして貰っているけど、量的にみてこれ全部覚えろってのは酷だし、どうみても現実的ではないよなあ。

 元魔王軍兵士やグガウ族向けの教程に関しては、これから基本的な部分を構築するにしても……迷宮のモンスターは、日々新手のが出てくるわけだし、そのすべてに対応出来るようになってから放免してたんじゃあ、いつまでたっても現場に入れやしねーし……。

 一番いいのは、あれだな。

 ある程度基礎が出来上がったら、すでに稼働して実績のあるパーティに一人とか二人づつ預けちまって、現場で学習していただくってことだな。

 あとは……現場に出てからも、なにかあったら教練所に帰ってきてこの資料をあたったり、技を磨いたり体力を養ったり……といったことをしやすい環境を作る、ってことか。

 放免したらそれでおしまい、ではなくて、教練所のシステム全体を循環型にする。

 必要な単元は細分化して、誰でも受講しやすくする。

 いや、今までだってそういう方向へ組織化してきたつもりだが、どうにもイマイチうまく活用されていないっていうか……。

 一度、放免になって冒険者やっちまうと、それ以降、教練所に足を向けないやつの方が大半だし……。

 少学舎経由でやってくる人数も、これからどかどか増えていくってはなしだし、まあそっちは王子様の領分だからこっちは口を出さないにしても……教えられる側の人数が増え続けていき、教える側の負担が増していくってのは、避けられない傾向だよな。

 それに加えて、教えなければならない事項も、どんどん増していく。

 時間が経てば経つほど事態が悪化する、悪循環だ。

 元魔王軍兵士はこれ以上、増えないからまだしもなんとかなるとは思うけど……現状を放置しておけば、絶対どっかでパンクするぞ。

 あー。

 頭いてーなー……。

 どっかに、根本的な解決策は……。

 ん? んん?

 以前にはなかった要素……ナビズ族!」

(なにかなー)

「お前ら、種族全体だと、とんでもない記憶力を持ってたりするよな?

 見聞したことを忘れないとか」

(そうですがなにかー)(それも個体数によりますがー)

「それじゃあ、さ。

 冒険者一人一人に張りついて戦績とかをすべておぼえて集計していく、ってなことも……出来る?」

(理論上は可能ですがー)(でも、もっと繁殖すること推奨ー)(数が多いほど処理能力に余裕が持てますゆえー)

「うん。

 その辺のところは、ギルドにいってなんとかする。

 食料とかを継続的にもっと分けるように手配すればなんとかなるだろ?」

(出来ますがー)(むしろ歓迎ー)(繁殖は正義ー)

「冒険者一人一人の集計と記憶、だけではなしに、助言とか出来るかな?

 いや、お前らナビズ族が直接助言するってわけではなく、特定の条件を満たした冒険者がいたら、たとえば、しかじかのところで行き詰まっている冒険者に対して、教練所のどこそこにいけば問題が解決しますよー、とか告げるだけなんだけど。

 あるいは、冒険者のだれそれのパーティに合流させて貰って、技術を盗むなり習うなりした方がいいよー……とか」

(その程度ならー)(おやすいご用でー)(フラグ管理ですなー)

「そうか……ならば、やりようは、あるか……。

 その線で、教練所全体の改修案をまとめて、ギルドに提出しておきますかね」


 迷宮内、増設少学舎。

「……寝具が足りない、と?」

「ええ。

 寝台は、こちらからも人手を出して急ぎ作らせているのですが、備蓄分の毛布や布団などは元魔王軍の方にほとんど取られてしまったもので……。

 ギルドの手配も間に合いそうもなく……」

「宿舎にいる冒険者に片端から声をかけて、使い古しの毛布でもなんでも、一枚でも多くかき集めろ。

 謝礼も多めに用意しろ。

 後輩たちのためだといって、説得して回れ。

 ギルドへは、新しい寝具を一日でも早く調達するよう、重ねて要請を」

「はっ」

「仕事の手配はどうなっておるか?」

「昨日、到着した者たちは、ほとんどが裁縫や寝具の作成に回っています。

 慣れない仕事なので、お世辞にも効率がよいとはいえませんが……」

「そんなものは、続けてやっていけばすぐに慣れる。

 しかし……やはり、ほとんどがすぐに収入に結ぶつく仕事を選択したか。

 その方が、こちらとしても助かりはするのだが。

 仕事の合間に、無理にでも教練や座学は受けさせておけ。

 細かい積み重ねは、あとで絶対に効果を現す」

「はっ」

「自主的に教練や座学に向かった者は、名を控えておけ。

 もしそれが続くようなら、そいつらを重点的に指導する。

 こちらにしても、冒険者として独り立ちする者が早くでるのに越したことはないからな」

「はっ」

「今日の出迎えは順調か?」

「昨日とほぼ同じ流れですから、受け入れる側も多少は慣れて来ています。

 ただ、これが毎日続くとなると、正直、今の人数では……」

「人数なら、これからいくらでも増えるではないか。

 ある程度読み書きをおぼえた者を勧誘し、世話係に回せ。

 冒険者の育成と同じく、そちらも時間との戦いになるな。

 どちらも、資質ややる気を見極めるのことが肝要となるぞ。

 心してかかれ」

「はっ」


 迷宮内、教練所。

「誰もが師となり弟子となる、か……」

「ええ。

 ギルドに持って行く前に、こっちにもはなしを通しておこうと思いまして」

「やはり、同じような結論になるのだな」

「ということは、こちらでも?」

「ああ。

 日々強化していくモンスターに備えて、こっちの教官たちも交代でパーティーを組んで迷宮入りよ。

 そうでなくては、現場で通用する教練をつけられん」

「結局、そこにいくんですよね。

 現場の実態にあわせた教練をしようとすると……」

「ああ。

 現役の冒険者をしながら平行して指導していくのが、やはり一番だな」

「では、この案もそんなに突飛な思いつきというわけでもないんですね?」

「そうなるな。

 いや、むしろ、教える側がこれ以上の負担が増えるのに耐えられないのも事実であるし……これ以外の方策はなかろう」

「個々の冒険者の戦績や状態を記憶していくナビズ族の存在があってこその案ですが……」

「一歩間違うとギルドによる監視にもなるのだが、冒険者の報酬は完全に出来高制だ。

 勤怠状況を確認されても、問題にはなるまい。

 それよりもナビズ族によって詳細に一つ一つの戦闘行為を観察、記録されることによって、その経験を広範囲に生かせる途がつくことの意義を考慮すると、恩恵の方が大きい」

(ボクら、個体の生死はあまり深く考えませんしー)(ギリギリまで現場にいても問題ないよー)

「だからといって、あえて危ない橋を選んで渡るような真似をするなよ。

 行動をともにする以上、お前らも仲間みたいなもんなんだからな」

(わかったー)(シナク、やさしー)

「そんなんじゃないって。

 お前らみたいな小動物がぼこぼこ潰されて死んでいくのを見たら、こっちの気分が悪くなるってえの」

(でもー)(偵察くらいは出来るからー)(チーズの恩もあるしー)

「チーズかよ。

 軽いなあ、お前らの命」

(一体あたりの命はねー)(集合知性ですからー)

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