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126.ずのうしゅぞくのはなし。

 迷宮内、魔法関連統括所。

「ということで、テオ族の何名かに頭脳種族について詳しいことを聞かせて貰いたいのだが」

「当事者であるテオ族が了解するのならば、こちらは別に構わない」

「どうしますん? みなさん」

「質問。答えるだけ?」

「そう。

 こちらの問いに答えてくれればいい。

 同じ内容を複数人に聞いて回ることになると思う。煩雑だと思うがこれは情報の精度を高めるための処置だ。理解して貰いたい」

「情報の精度?

 わたしたちが、口裏を合わせないようにするため?」

「そちらの世界ではどうなのか知らないが、こちらの世界では奴隷という言葉はひどくネガティブな響きを伴っていてな。

 元の主人にあたる頭脳種族を不利な立ち位置に導こうと画策することも想定できる。

 ギルドや帝国的にはどちらに不利とか有利とかではなく、なるべく公正な立場で事実関係を把握したいのだ。

 拘束する分の謝礼も用意しているから、どうか順番に相手をしてはくれないか?」

「理解しました。

 魔法使いと帝国の博士も、それでよろしいのですね?」

「いい」

「四十人からのテオ族に総出で協力していただいているわけですしねん。

 こちらとしては、こっちの仕事ばかりを優先させるほどの強制力もないし、いい息抜きになるでしょうしねん。

 あ、お茶でもいれますかねん」

「ご協力、感謝する。

 それで、こちらにいるのがゼグスという冒険者、ある事情があって未知の言語でも完全に理解し交渉することが可能な能力を持つにいたった者だ。

 もうこちらの言葉でも簡単な受け答えは出来るようだが、やりとりの正確さや誤解を恐れてあえて同伴してきた。

 こちらの問いかけに答えるときは、好きな言語で答えてくれてかまわない」

『あなた、本当にこの言葉が理解できるの?』

『問題ない』

『まあ! 本当!』

『おれは、あくまで通辞役だから、そのつもりでいて欲しい』

「ゼグス、なんだって?」

『おれが本当にむこうの言葉を操れるのか、確認されただけだ』

「そうか。

 では、早速。

 誰でもいいのだが、二、三人、こちらに来てくれるかな」

『誰でもいいの?』

『誰でもいい。

 どうせ順番に、似たようなことを聞いて回る予定だ』

『面倒なことをするのね』

『同感だ。

 が、裏を返せばそれだけ面倒な真似をあえてするのは、どの種族も大切にしようとするこちら側の姿勢のあらわれでもある』

『あなた、面白い考え方をするヒトね』

『おれ自身も、いろいろあったんでな』

「前置きはもういいか、ゼグスよ。

 では、最初の質問。

 ドラゴンのコインが奴隷種族とか頭脳種族とかに訳したカテゴリは、そちらの世界ではどのような意味や由来を持つものなのか、それを確認したい」

『奴隷種族や頭脳種族は、いつからそのように呼ばれはじめたのか?

 また、その二種の間にどのような隔意が存在するのか、出来るだけ具体的に説明して欲しい』

『種族の意味?』

『由来とか歴史?』

『よくは知らないけど……』

『君たちは頭脳種族に押しつけられた言葉でだけではなく、自分たちが昔から使っていた言葉も持っているわけだよな?

 そうなったのはいつから?

 どんなきっかけがあって、そうなったの?』

『遠い昔、何十だか何百世代も昔に大きないくさがあって、それに勝利して以来、頭脳種族が他の種族を従えた……と聞いているけど』

『でも、昔の出来事を書き記して残すことは禁じられているので、はっきりしたことはなにもわからない』

『わたしたちは、おばあさんのおばあさんの、そのまたおばあさんの世代から、奴隷種族だったし……』

『彼らの世界では、大昔に種族間での戦争があったらしい。

 その勝者が頭脳種族、それ以外が奴隷種族になったとか。

 記録に残すことが禁じられていたそうで、加えてなにぶん大昔のことなどで漠然とそう伝えられている、程度のことしかわからない』

「重ねて、奴隷種族とはどのような暮らしをしていたのか、訊ねてみよ。

 暮らしぶりとして、頭脳種族とはどれほどの格差があったのかを確認してみたい」

『来歴については一応、理解した。

 次は、きみたちの普段の暮らしぶりを確認したい』

『暮らしぶり?』

『頭脳種族によって、極端に貧しかったり苦しかったりする環境や待遇を強いられていなかったのか、ということを訊きたいらしい』

『ああ。

 そういうこと』

『どうなんだろ?』

『こちらの暮らしぶりも、決して楽とはいえなかったけど……』

『こういってはなんだけど、頭脳種族だって、そんなに豪勢な生活をしていたようにも見えなかった』

『うん。

 あの人たち、いつも偉そうな態度をとるけど、そうするだけの結果を残そうと努めていたことは、確かだよね』

『……そうなのか?』

『支配をする側の矜持、とかいって、最低限の物資だけ残してあとは共同体の共有にしていたし』

『それくらの姿勢を日頃から見せておかないと、人数的に圧倒している奴隷種族が反抗しかねない、って事情もあったんだろうけど』

『頭脳種族よりも優れた戦闘能力を持つ種族も、いっぱい従えていたしね』

『頭脳種族は、意外に質素な生活をしていたそうだ。

 他の種族にいうことを聞かせるための方便として、そのような芝居を日頃からしていた可能性もあるが』

「なるほどの。

 では……過去に、頭脳種族への反抗運動などが起こったことはないのか?」

『頭脳種族の支配を覆そうとした者は、現れなかったのか?』

『反乱なら、昔はよく起こったそうだけど……』

『反乱があったのか?

 それが成功しなかったから、今でもきみたちは奴隷種族と呼ばれているんだろうけど……。

 過去の反乱がすべて失敗したのは、なにが原因だと思う?』

『反乱が失敗した原因、って……そんなの決めっているじゃん』

『冬将軍には、誰にも勝てないから』

『……冬将軍?』

『こちらには、冬とか寒さはないの?』

『元の世界は、一年を通して寒冷だった。

 仮に反乱が起きて一時的に勝利できたとしても、その土地へ通じる道を外部から閉鎖してしまえば、半年もかからずに全部飢えて凍えて、すべてなかったことになる』

『反乱が起こった土地は、反乱が発覚したと同時に隔離される』

『隔離された土地が出現すれば、そこにいくはずだった食料や物資が分配されるから、みんな歓迎する』

『喜んで隔離する』

『……と、いっているが……』

「ちょっと待て……そちらの世界は……ひょっとして、慢性的に食料が不足しがちであったのか?」

『そうだけど?』

『だって、一年中冷たくて寒いし』

『収穫できる作物だって、かなり限られてるし』

『彼らの世界は一年を通して寒冷で、食料の量が絶対的に不足しがちだった、といっている』

「そんな世界で、身を寄せ合うようにして生きてきたわけか……。

 では、仮に元の世界で、頭脳種族とか奴隷種族とかの区分がなかったとしたら……どんな風になっていたと思うか、聞いてくれ」

『頭脳種族が頭脳種族として振る舞わないでいたら? ですって?』

『あのいばりんぼさんたちが、他の種族のようにしているところは、ちょっと想像がつかないんだけれど……』

『そんなことになったら、各種族間で物資や食料を強奪しあって、収拾がつかいないことになっていたでしょうね』

『下手すれば、地域ブロック単位ではなく世界中が無法地帯になっているかも』

『そうなると、わたしたちテオ族みたいに力が弱い種族はいいカモね』

『頭脳種族がいなかったら、種族間の抗争が激化して共倒れになっていた可能性が大きい、といっている』

「頭脳種族があえて強権を持って他の種族を締めつけることで、なんとか全体を生かしていたわけか。

 はなしを聞く限り、物資や食料の分配権を握っていたから、なんとかやっていけた感じだな」


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