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122.しなくのたいおう。

 迷宮内、羊蹄亭支店。

「……リンナさん、来るそうそう転移しちゃったなあ……」

「大丈夫かしらぁ?」

「いや、大丈夫そうでなかったら、助けを求めてくるでしょう。

 リンナさんも転移魔法、使えるわけだし」

「それもそうじゃな。

 しかし、即断先行。

 あの決断力と行動力だけは、評価に値するの」

「それが裏目に出ないといいんですけれどね。

 なにせ、接触したばかりの種族が相手だから、あれでなかなかデリケートな側面もあるし……」

「問題になったらなったで、それはあの魔法剣士が負うべき責任であるしな。

 誰に命じられたわけでもなく、あれが単独で判断したのじゃから、責任の転嫁先もなかろう」

「……そうならないといいですね……」

「ところでぼっち王先輩。

 今日のお仕事は、もうお済みになったんですかぁ?」

「……なかなか区切りどころが難しい仕事だからなあ。

 まだまだ書類の山が片づいていないんだけど、いつまでもダラダラ続けてても効率が落ちる一方だから、適当に切り上げてきた」

「シナク。

 こっちに座る」

「おお。

 ルリーカか。

 いいけど……またおれの膝の上に、ルリーカが座るの?」

「ルリーカの指定席」

「……はいはい。

 で、こちらの異族の方々は?」

「別の世界の魔法知識を持っていたから、しばらく魔法統括所で預かることになった」

「なるほどね。

 知識を持って……ってことは、魔力を持っているタイプではないってことか……」

「そう。

 特殊な状況下で魔法は使えるけど、自力だけでは使用不能。

 テオ族という」

「そうかそうか。

 こっちにもグガウ族とかいう人たちが来てたけど、異族もどんどん増えるなあ。

 最初の交渉のとき、ちらりと顔を合わせた気もするけど、あのときは頭脳種族とかいう人たちとしかはなしていなかったからなあ。

 どうも、改めまして。

 冒険者のシナクです」

「あ、ああ。はい」

「ど、どうも。

 テオ族、です」

「あ。もうこっちの言葉をおぼえはじめている。すごい。

 で、ルリーカが、この人たちをここに引っ張ってきた、と?」

「いろいろ聞きたいことがあったから」

「そっか。

 あ。

 先生も、どうも。

 ご無沙汰しています」

「同族くん、どうもぉ。

 お互い忙しい身の上だしねん。ご無沙汰にもなりますわん」

「ところでシナクよ。

 例のセーフハウスの件なのだが……」

「ああ。

 昨日、そんなこともいってましたね。

 ま、良さそうな物件を気長に探して……」

「いろいろ検討した結果、この者らの狙撃銃試射場に便乗させて貰い、新築することにした」

「……もう決まったんですか? 昨日の今日で?」

「決まったな。昨日の今日で。

 この手のことは、ぐだぐだ時間ばかりかけても意味がない」

「そういうもんですか?」

「そういうものじゃ」

「一任した以上、細かいことに口をつっこむつもりはありませんけどね。

 リンナさんがどういうか……」

「ナビズ族に言づけて、ことの次第は簡単に知らせているはずなのだが……。

 シナクよ。

 まるで聞いておらぬのか?」

「聞いていませんね」

「さては……シナクなら子細を問わぬと決めつけて、あえてなにも伝えなかったのか、それとも……」

「それとも?」

「単に、伝え忘れているだけか?」

「……どっちもあり得ますね。リンナさんの場合」

「そのリンナなのだが……本当に大丈夫なのか?

 発見されたばかりの種族のところもに単身で殴り込みにいかせて?」

「今までなんの連絡もない、ということは、うまくいっているんでしょう」

「……いや。

 殴り込みが成功したらしたで、いろいろと困るのではないかな?」

「では、ティリ様があの鉄砲玉止めますか?

 それこそ、力づくで?」

「……なにか問題があらば、ギルドより連絡があるじゃろう。

 それまで、待ちの一手で」

「ですよねー……。

 で、ゼグスくんは冒険者初日、どうだった?」

『どうといわれても……今一つ、実感が沸かない。

 このティリ様のあとをついて、あちこち歩き回っただけだし……』

「そうそう、ぼっち王先輩ぃ。

 この子、先輩のコインと同様の能力を、あの魔女さんに与えられているみたいでぇ。

 うちの子たちなんかと平気で会話しているんですけどぉ……」

「……へえ。

 いや、今まで言葉が通じてきたことを考えると、別に予想外ということもないのか?」

(連絡ー)(ギルドより連絡ー)(呼び出しー)

「あ」

「来たか。

 なに、リンナさんと頭脳種族の件?」

(そー)(なんでこうなったのか、説明して欲しいってー)(あと、頭脳種族との通訳も頼むー)

「……そうさな。

 ちょうどいいといえば、ちょうどいいのか。

 ゼグスくん。

 ご足労だが、ちょっと行ってきてくれ。

 リンナさんの件に関しては、なんでリンナさんんがあんなにいきりたったのか、おれにもよくわかってないし……。

 先にこの場にいた人たちの方が、説明しやすかろう。

 あと、通訳も出来る人となると……ギルドに期待されているのはおれなんだろうけど……」

「最初からはなしの流れを聞いていて、翻訳も行える能力もあるゼグスがいくのが最善であるか?」

「ま、そういうことです。

 あと、これから一緒に組む仲間である、リンナさんのこともこの機会に把握しておいて欲しい、ってのもあるし……。

 終わったら、またなんか奢るからさ」

『いろいろ世話になっているし、構わないが……ギルド本部に赴けばいいのか?』

「呼び出しはギルド本部でいいのか? ナビズ族」

(ギルド本部ー)(ギリスが呼んでるー)

「そーかそーか。

 では、ルリーカ。

 悪いけど……」

「転移する」


 しゅん。


「通訳業務の、いい練習台になるだろう」

「それで済めばいいけどの。

 ところでシナクよ。このチーズを食べないか?」

「チーズ?

 では、いただきますけど……どうしたんですか、こんなにいっぱい」

「なに、所用があって少し多めに買い出しをしてきての」

「買い出しって……ティリ様ご自身がわざわざ出向いたってんですか? なんでまた……」

「いろいろあっての。

 これから世話になりそうだから、このナビズ族への心づけのつもりで荷車一台に積めるだけ積み込んできたわ。

 大部分はナビズ族へ、ほんの少しをこの場とマスターに残しての」

「まあ、チーズは嫌いではないですけど……ティリ様、いったいなにをはじめようって魂胆ですか? あんまり大事にする前に、おれに一言相談してくださいよね。いきなりなんかおっぱじめられると、こっちも対応するのが遅くなるんで……」

「勝手に動くな、と牽制しないあたりがシナクらしいの」

「そのへんのことは、もう諦めました。

 無駄っていうか、下手に止めてもかえって拗れるパターンが多そうんなんで、せめても、事前に知らせて欲しいかなー、って……」

「……ふむ。

 チーズか? いいな、チーズは……」

「おや、王子様。

 どおうも、お疲れのご様子で」

「疲れもするわ。

 躾もろくに出来ていないガキどもなど、野生動物にも等しい。

 それがいっぺんに百名以上もだ!

 しかもこれが何日も何十日も続く見込みとか!

 今日だってな、便所の使い方から食器のあしらい方までいちいちつきっきりで教えてやらねばならなかったのだぞ!

 ……ここ、座らせてもらうぞ。

 しかし、チーズか……」

「この近辺、牧畜はそれなりに盛んですから、直接牧場と掛け合えばお手軽に手に入れられますよ」

「いや、そうであったな。

 チーズといえば……この世界に、ピザという料理はあるか? あるいは、別の名称かも知れぬが……」

「ピザ……ですか?」

「ピザ。あるいはピッツァ。

 小麦粉を練って薄くのばした生地の上に、チーズや野菜、肉などを乗せて石窯などで香ばしく焼き上げた料理だ。

 シンプルに作れるが、とくに出来立てのアツアツは、想像する以上にうまい」

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