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116.うたのしゅぞく。

 迷宮内、魔法関連統括所。

「……はーい、休憩。

 お茶にしましょう。

 あんまり根を詰めても、かえって効率がおちるわよん。

 頭脳労働をするときは適度に休憩をいれて、甘いものを補給しないと。

 はい、どうぞ。

 テオ族の方々にも。

 こちらのお茶とお菓子が、お口に合うかどうかわかりませんが。

 あと、はい。

 ナビズ族の子たちにも。

 余分に用意してきたつもりだけど、足りる?」

(足りるー)(甘いの、好きー)

「……甘い」

「そうなのよん、ルリーカちゃん。

 この駄菓子、なんか少学舎の方でどっさり買い込んでたからお裾分けしてもらったものなんだけど……。

 今度からはもう少し上品な、帝国風の焼き菓子でも用意しておくわねん。

 今日はいきなりの召集だったから、こんなもんしか用意できなかったけど」

「す、すいません」

「……あら。

 こちらの言葉、もうおぼえたの?」

「少し、少し。

 単語、いくつか」

「それでも、この短時間で……。

 発音も、ほぼ問題がないレベルだし、耳がいいのね。

 あ!

 物理的にではなく、細かい音をよく聞き分けられるな、と……」

「ええ。ええ。

 き、気にしない。気にしない。

 ここの人、親切。

 これ、お菓子、甘い」

「こちらの食べ物は、お口にあいますか?

 ご希望があったら、早めにいっておいた方がいいですよん」

「た、食べ物、いい。こちらの。

 えと。

 いろいろ持ってきてくれて、それ、自分で選んで食べる。

 食べられないもの、取らない」

「ああ。

 食堂に持って行くのを、取り分けているのねん。

 もう少しこちらに慣れたら、直接食堂にいって食べた方が、早いと思うけど」

「それ。もう少し慣れる。から」

「そうねん。

 慣れてから。

 この迷宮は異族が多いし、他の場所と比べると差別意識も薄い方だと思うけど、ヒト族しかいない土地から来た人の中には、異族の姿を見かけると露骨にへんな顔をするのも少なくはないし……。

 正直なところ、差別意識って完全になくことは難しいのよねん」

「あ、あなた、異族、ですか?」

「あらん?

 この耳?

 そうねん。

 半分は、異族」

「そうなの?」

「そうよん、ルリーカちゃん。

 でも、ヒト族とも普通に交配は可能だから、その意味では同族であるともいえるし……。

 亜種っていういい方、わかるかな?」

「家畜の、品種のようなもの?」

「そうそう。

 それとも、ヒト族の場合は、人種っていういい方をするべきなのかしらん?

 生物学の方面はちょと疎いんで、厳密な用語の使い方にはちょっと自信がないけどん。

 とにかく、そんなもの。

 交配可能なおかげで今ではすっかり混血が進んじゃって、純血種は滅多にいないの。

 わたしとかシナクくんとかは、かなり珍しい例外になるわねん」

「風の民だけが住んでいる土地とか、ないの?」

「ないわねん。

 昔も今も。

 わたしたち風の民は、もともと定住する習慣がなかったのよん。

 数人から数十人の血族集団であちらこちらに渡り歩きながら暮らしていて、それで定住者たちからは風の民と呼ばれることになった。

 実はその歴史はかなり古く、定住者たちの間ではとっくの昔に忘れ去られた知恵や伝承、歌や魔法などを密かに伝えていたりするんだけど……」

「リリス博士も、そういう知識を持っているの?」

「多少はねん。

 とはいっても、わたしが知っていることなんて、風の民が本来持っていた英知の、ごくごくほんの一部でしかないんだけど……。

 ごめんね、ルリーカちゃん。

 こればかりは、風の民以外の人たちには教えてはいけないことになっているの。

 大学にも、伝えていないし……」

「別に。いい」

「お、同じ」

「テオ族の……」

「テオ族。ロメル。

 テ、テオ族、旅と歌の民。

 ひ、秘密の知識。伝える。それも、一緒」

「あらん?」

「ず、頭脳種族に、支配されるまでは……何人にも、支配されることがなかった。

 テ、テオ族。

 本来、誇り高い、民。

 ず、頭脳種族から解放されて、ここの人たちに、感謝」

「それも、かなりの偶然なんですけどねん」

「ぐ、偶然でも……。

 ここの、テオ族、四十四名。

 これだけいれば、子孫に歌を伝える、こと、できる。

 それ、テ、テオ族の、誇り。

 だから、感謝」

「長い耳つながりで、おまけに似たような種族だったわけねん」

「リリス博士は……風の民の知識を、伝えなくていいの?」

「それにはまず、伝える相手がいなくてはねん。

 せっかく見つけた同族くんも、子どもを作らせてくれそうにないし……。

 育てるのは、こっちだけできっちりやるのにねん。

 あの子はちょっと競争率が高そうだから、苦労するわん」


 迷宮内、臨時教練所。

「ほれ。

 一戦やらかした後だから、元魔王軍兵士たちもあれだけ気を入れて聞き入ってくれているわけでしょ?

 リンナさん」

「そう……なのであろうな。

 ナビズ族の通訳も、まだまだ完全ではないはずであるし……」

「こっちの説明役も、まだまだかなりたどたどしいですしね。

 みんな、人前でしゃべることに慣れていないっていうか……。

 ま、はじめてなら、こんなもんか」

「言葉が足らない分、身振りが大仰になる傾向があるな」

「多少でも手足を大きく動かしてくれると、特に言葉に不自由している人は、ニュアンスでおおざっぱに理解をしてくれるもんですしね。

 その意味では、タイミング的に、今日が顔合わせでちょうどよかったのかな?」

「そうなのかも知れぬな。

 説明する側がもう少し場慣れしていると、もっと言葉に頼り切ってしまうであろうし……」


 迷宮内、魔法関連統括所。

「う、歌は、魔法。

 歌を伴わない魔法は、は、発動しない」

「それが、テオ族の魔法の本質?」

「ほ、本質。

 同時に、極意。実体。

 音と曲がない魔法は、魔法ではない。

 た、単なる、言葉。

 う、うまく説明、出来ない。

 こ、こちらの言葉に、う、うまく置き換われない」

「置き換えることが出来ない、呪言ねん。

 音楽が言葉で、言葉が音楽。

 そういえば、テオ族の言葉は、やけに音楽的だな、とは思ったけど……。

 普段の言葉も、韻を踏んでいることが多かったしん。

 それは、時を操作する魔法も一緒なのん?」

「呪言、同じ。すべて」

「……楽器でも用意させようかしらん?

 リュートとか……」

「リュート?

 それ。なに」

「弦を張って、それをつま弾く楽器よん。

 持ち運べるし、こちらの世界の吟遊詩人がよく使っているわん」

「つま弾く、楽器。それ。いい。欲しい。

 演奏。呪言の効果。高める」

「では、手配をしておくわん。

 旅の吟遊詩人が持てるくらいにお手軽なもの

だから、入手するのはたやすいしぃ」

「魔法も、いろいろな形態が存在する」

「そうねん。

 テオ族のみなさんにいわせれば、こちらの符術とか想像できないかも知れないしん」

「符術? なに。それ」

「力ある言葉を紙に記して、特定のキーワードや動作を設定し、それにより発動させるタイプの魔法」

「書いた言葉? 魔法? それ」

「そう。

 これ」

「これが、呪言を記した、紙?

 使用、可能?」

「迷宮ならば、誰にでも。

 たとえば……」


 ぼっ。


「……あ。

 炎。鳥」

「そう。

 これは暗い迷宮の道を照らすため、使用者の前を明るくするための魔法。

 制精霊術系の魔法」

「はじめてみた。こちら。魔法」

「他にも、いろいろな系統の魔法が存在する。

 よかったら、おりをみて、教えてもいい。

 うちに帰れば、膨大な文献が存在する」

「魔法。言葉。未来に伝える。

 紙に記す言葉。便利。大事」

「そうねん。

 だから、テオ族の魔術も散逸しないように、しっかりと書き留めておかないと」


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