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114.きょうれん、かいし。

 迷宮内、魔法関連統括所。

「ここが人であふれたのは、はじめて」

「でしょうねん。

 いつもはきぼりんちゃんくらいしか出入りしないんじゃない?」

「リンナもたまに来る。

 それに、商工会の人たちも、ときおり」

「それ以外は、用事がないから来る人もいない、か。

 ここのギルド、規模と比較して、魔法使いが少なすぎるからねん」

「それに、ルリーカも冒険者として迷宮に入っていることが多い。

 ここ自体が、留守がち。

 テオ族からの聞き取り調査をはじめたので、あと数日はここにいることになると思うが」

「それでは……ちゃっちゃとはじめてしまいましょうかぁ。

 時を操る魔法というのにも興味は多々ありますけれどもぉ、順番に、よく使う魔法から順番に、呪言をこの紙に書き出していってください。

 ナビズ族さん、ちゃんと通訳してねん」

(通訳してるー)

「……あら?

 テオ族の人たちは、ペンとインクは、使い慣れていないのかしらん?」

(もっと柔らかいー)(毛先のー)

「ああ。

 筆の方が使い慣れていたのねん。

 では、ちょっと調達してくるから、それまでの間は悪いけどそのペンを使っていてねん」


 迷宮内、某所。

「ふむ。

 これで、あとの手配はマルサスにやらせておけばよかろう」

『ティリ様。

 こちらの世界は、複雑なのだな』

「天地と動物だけがいるだけならば、世界も単純なのだがな。

 あいにくとこちらの世界には、複雑に利害が絡んだ大勢の人間たちがひしめいている。

 あるときは敵あるときは味方、ぐるぐるとめまぐるしく入れ替わって、利用し利用されて生活を全うしているわけだ、

 そちらの世界では、様子が違ったのか?」

『いや……。

 よくよく考えると、たいして違わないか。

 敵だといわれた連中が敵にはみえなかったり、昨日までの敵と次の日には肩を並べて戦ったり……。

 どこか上から俯瞰してみればおれたち魔王軍なぞひとかたまりの集団なのだろうが、その内実はといえば、やはりぐちゃぐちゃと複雑な要素が混じり合って、単純には色分けできないものだった』

「魔王軍ではなく、元魔王軍な。

 それに、今のおぬしは魔王軍兵士でもない。この世界のギルドの勢力によって魔王軍は解体された。

 さて、次は……」

『次は?』

「ナビズ族に約束した、大量のチーズでも買いつけにいくとしようか。

 迷宮から帰る馬車は大半が空荷だ。

 適当なのを捕まえて、近くの牧場まで往復してもらおう。

 金子をはずめば半日程度の寄り道を承知する馬車くらいは、容易に捕まえられることであろう。

 おぬし、ゼグスよ。

 山荘に出現したが、迷宮の外の世界はまだじっくりとみたことがなかろう。

 いい機会だ。

 こちらの世界をゆるりと見物していけ」


 迷宮内、増設少学舎。

「王子!

 男子の中に混じっている女子が、思いの外多く……」

「親族の知恵か、貞操を守るために幼い頃から男装させておったのだろう。

 すみやかに本人に安全だと言い含めて、女子部に移送しろ。王都とは違い、ここでは、女だからといって暴力にさらされるおそれはかなり少ない。

 なんだったら、ハスハ教官にでも頼れ」

「朝一番に到着した者たち、ほぼ全員の身支度が整いました」

「ほぼ全員、というのは?」

「体調を崩して伏せているものが若干名」

「精神的な緊張ゆえか、それともこれまでの劣悪な環境にすでに蝕まれていたのか……。

 ちゃんとした医者を手配して養生させよ。この少学舎で死者を出すことは、この余が許さん。

 そうさな。

 ……一度、整列させてみるか……。

 余も、全員の顔をざっと検分してみたい」

「はっ。

 おい!

 整列だ、整列!

 こちらの指示した通り、立ってくれればいい。

 ここから順番に、並んで立ってくれ!」

「……ふむ。

 今一つ……こざっぱりとは、していないような……。

 ああ、そうだ。

 髪だ。

 大部分が、のばし放題で……ああ。

 これから床屋の手配をしても、この人数ではいかんともしがたいか……」

「おい! お前ら!

 今まで、髪がのびすぎたときはどうしてた?」

「自分で適当に切ってたけど?」

「仲間とか兄弟とかで、切り合ったり」

「あとで鋏を貸すから順番に短く切るように。

 切るのがいやだったら、紐かなにかで束ねて邪魔にならないようにしておけ。

 冒険者としてやっていくからには、現場では激しく動き回ることになる。

 とにかく、動くのに邪魔にならないようにしておけ」

「それでは……まず最初に、修練所の風景をみせておくか。

 ほら。

 余に、ついてくるがよい」


 迷宮内、修練所。

「……これから、ここで冒険者になるために必要な資質を養ってもらうわけだが……」

「……わぁ……」

「みんな、汗だくになって……」

「走り回ったり、素振りをしたり……」

「……ふむ。

 熱気にあてられたか。

 百聞は一見にしかず、だな。

 確かに、ろくに予備知識を持たない者が、この風景を目の当たりにしたら、気を呑まれることであろう。

 んん。

 いいか!

 よく聞け!

 このように激しい修練をくぐり抜けられた者しか、冒険者としてはやっていけん。

 仮に修練抜きで迷宮に入ろうとしても、ギルドも他の誰も止めはしない。そうした本人が勝手に犬死にするだけだから。

 それくらい、迷宮の中は厳しい世界だと、よく肝に銘じておけ。

 この風景を見て早くもやっていく自信がなくなった者は、すぐにでもその旨を申告するがよい。

 この迷宮には、冒険者以外にも厚待遇の仕事がごまんとある。本人の資質を見極めて他の仕事を斡旋するから、駄目だと思ったら無理をせず、すぐにこちらに相談しろ。

 決して、悪いようにはしない。

 今日は初日という事だから……そうさな。

 走り込みの班と素振りの班、半分にわかれることにしよう。

 走り込みは基礎体力を養うため、素振りは基本の動きを体にしみこませるために行う。

 どちらも、へとへとに疲れて立てなくなる限界まで、やってもらう。

 では、走り込みを希望する者は余からみて右側に、素振りをする者は余から見て左側に移動せよ」


 迷宮内、臨時修練所。

「……へえ。

 それじゃあお前ら、きめ細かい指導も出来るっていうのか?」

(出来るー)(こういう場合はこうする、ってマニュアルが完備していればー)

「……まにゅある?

 ああ、教本のことか。

 それは、今整備しているところだが……さて、こいつで本当に、うまく役に立つのかな……」

「発案した当人が自信を持たぬでどうする、シナクよ」

「いや、アイデア倒れっていうか、理屈ではうまくいくはずのものが、実際にはぜんぜん駄目でしたってことも、現実にはかなりよくあるわけで……」

「……わかるがな、そういいたくなる気持ちは。

 とはいえ、今さらっやってみたら駄目でした、では通用せんぞ」

「はいはい。

 では、本番の前に、少し試験運用をしてみますかね。

 おい、ナビズ族。

 元魔王軍の中で、ある程度戦い慣れている集団って、いたんだよな。

 そいつら、今、なにやってんだ?

 ここに呼んで来られる?」

(確認中ー)(今、暇を持て余しているー)(ギルドの許可、とったよー)(今すぐ、案内するー?)

「おう。

 何十人でも何百人でも、こっちに連れてきてくれ。

 今ここにいる連中が、今の時点でどれくらい指導出来るのか、先行試験ということでちょっこら試してみよう」

「おい、シナク。

 少々、はやすぎはしないか?

 いくらなんでも、昨日の今日では……」

「最初っからうまくいくとは思っていませんよ、リンナさん。

 むしろ、今のうちにどんどん失敗してもらいましょう。

 それから、元魔王軍の兵士たちも巻き込んで、みんなで一緒に最適な方法を模索していけばいい」

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