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113.ひかげのじゅごん。

 迷宮内、帝国折衝官省分室。

「テオ族の時間操作魔法は本物。

 効果を確認してきた」

「では、本国から魔法関係の研究者も何名か呼び出して、詳細な検証作業を行う手筈を整えます。

 それで、よろしいですね?」

「それでいい。

 しかし、テオ族はまだここに漂着したばかり。蒐集した語彙数はまだ少なく、日常会話程度ならばともかく、専門的な抽象概念を含む説明をすぐに行えるとは思えない」

「そこで……リリス博士」

「はぁい」

「こちらのリリス博士の専門は、言語学です。加えて、魔法に関する知識も一通り有していて、ご自分でも使いこなせます。

 事情をはなしてリリス博士の協力を取りつけましたので、これ以降、テオ族とのやりとりは彼女と一緒に行ってください。

 未発見の魔法体系には、それだけの価値があります」

「了解した。

 言語学と魔法の両方に精通した人材が手助けをしてくれるのなら、こちらとしても心強い。

 だが、元魔王軍兵士が使う諸言語の研究は、後回しでもいいのか?」

「後回し、っていうと語弊があるけどぉ。

 あっちはあっちで、うちの真面目で優秀な同僚たちが取っ組み合っているから、もう放っておいても大丈夫よん。

 それに、二十以上の言語とかいっても、半分以上は近似した構造をしていることが判明したわけだしぃ、あとはせっせと単語単位での対訳語を洗い出す根気がいる作業だからぁ、研究者としてはあんまりやりがいがないのよねん。

 ここには膨大な情報を短時間に処理できる便利なピス族の思考機械なんかもあるしぃ、あっちはもう時間の問題かなぁ、って。

 それと比べれば、こっちはまだまだ手つかずの言語だからぁ、大胆な仮説や推論がまだまだ必要されるわけでしょう?

 研究者としては、こっちのが断然やりがいがあるわけよねん」

「そういうものなのですか?」

「そういうものよん。

 あれ、たとえていうのならぁ、朝一番に、誰の足跡もついていないまっさらに雪原に自分の足跡をこれでもかとつけていく感じぃ? みたいな」

「こちらとしては、テオ族の魔法についての詳細が一刻でも早く解明されれば、それでいい」

「もー。やーねー、ルリーカちゃん。

 お仕事中はすっかり口調が硬くなるんだからぁ。

 それで、さっそくだけどぉ……テオ族の方々はぁ、自分たちの言語を書く習慣はおありなのかしらぁ?」

「言語を記す習慣はある。

 しかし、普段使用している日常の言語と、魔法関係の文章を記すときに使用する言語とでは、まったくの別系統であるらしい。

 文字も、それに、おそらくは文法からして、まるで違うように感じだ。

 朗読させた際にも、まるで抑揚が違う発音に聞こえた」

「なるほどなるほど。

 日常の場で使用する言語と、非日常的な場で使用する言語とは、別系統か……。

 こっちの世界でも、大陸共通語が普及するまでは、ま、そういう例も決して少なくはなかったんだけれどもぉ……。

 あの、失礼なことをあえて確認させてもらうけどぉ、ひょっとして、テオ族の方々って……普段は自分たちの言葉を封印されてたりしない?」

「言語を、封印?」

「そそ。

 支配階級が被支配階級の言語を取り上げて、自分たちの言語を押しつける……っていうパターン、意外に多いのよ。

 元魔王軍の人たちも、今はすっかり自分たちの言語の書き言葉を忘れさっているけどぉ、もともとは自分たちの文字を持っていたはずなのよねん。

 同音異義語の数とか抽象的な概念を示す単語数とかを調査すれば、その程度のことはすぐに推測できるの。

 で、そっちの人たちも、普段使いは押しつけられた支配階級の言葉を使わざるを得なくって、でも魔法とかに必要な力ある言葉は昔ながらの言葉をそのまま使わなくては効果を発揮しない……から、いまだに昔のままの形で残っているってことは、ないかなーって……」

「……どう?」

(たぶんー)(その通りー)(テオ族はー)(魔法を使うときの言葉をー)(祖先の呪言と呼んでるー)

「やっぱりぃ!

 では、作業の流れとしてはぁ、祖先の呪言の解析を優先としまぁーす。

 そっちの日常使用の言語は、頭脳種族やグガウ族も共通して使っているわけだしぃ、そっちでいくらでもサンプル蒐集できるから後回しぃ。

 では、さっそく……そうね。

 魔法関連統括所で、テオ族のみなさんに魔法に関して知っていることを、一切合切、紙に書き出していただきましょうか。

 そちらの魔法体系を知るための資料にもなるわけだしぃ、一石二鳥。

 それがすんだら、一つの単語ごとに適切な翻訳をして、対訳の辞書を丁寧に作っていきましょう。

 これだけの作業でもかなり時間がかかると思うからぁ、すぐにでもはじめてしまいましょう」


 迷宮内、某所。

「つまり、ここに泊まり込んで、ごく短期間に狙撃銃の扱いに慣れさせる、と」

「事故防止のためにも、それがよかろうと思うが」

「……です……ね。

 いわれてみれば、そうするのが合理的だ」

「となれば、五十人や百人が宿泊できる設備は用意しておいた方がよかろう。

 それ以上に人が来たら、順番待ちにするか、別の場所に試射場なり宿泊施設なりを増設すればよい。

 百人程度の宿泊施設を作っておけば、とりあえず合宿場としての格好はつく」

「逆に、それ以上の収容人数にしても、設備投資が大きくなり過ぎますしね」

「そういうことだな。

 合宿所については、男女別に分けた簡素な寝台と浴室程度を作っておけば、とくに問題はないと思う。

 別料金上乗せで個室を用意するという手もあるが……」

「そういうオプションは、最低限用意すべき設備が固まってからにしましょう。

 合宿所の方はそれでいいとして……あと、おれたちやそちらのパーティのための設備として、なにか必要なものはございますか?」

「あるな。

 こちらも、狭くてもいいから個室をいくつか……五から十も作っておけば、十分に間に合うだろう。

 わらわたちもギルドが用意した寝台暮らしが長くなってな。

 あれはあれで決して悪くはないのだが、落ち着いた環境が欲しくなってきたところだ。

 その個室以外に、身内のみが集まれる、奥まった大部屋が欲しいな」

「奥まった大部屋……ですか?」

「具体的にいうのなら、ある程度の人数が集まることが出来る、中の物音が決して外に漏れない部屋だ。

 ぶっちゃけていってしまえば、密談用の部屋だな。

 シナクも……あれは、どうも自分の立ち位置を理解しているのかいないのか、見ての通り、どうしようもなくのん気構えておるわけだが……これからは、内々の会談が必要になってくると思う。

 これについては、とくに内装などに凝る必要もなく、三十人ほどが入れる部屋を、出来れば外部からはそんな部屋があるとは気づかれないように隠して、設えてもらえばそれでよい。

 防音に不備があるようだったら、魔法剣士あたりになにか細工でもさせる」

「ははあ。

 つまりは、秘密の会談所を……」

「そういうことだな。

 パーティのセーフハウスなどというのは、この会談所の隠れ蓑であるといっても過言ではない」

「いや、わかります。

 羊蹄亭とかでおおぴらに出来ない会話も、今後増えることでしょう。

 それに、隠れ蓑というのなら、この狙撃銃の試射場はうってつけになりますな」

「わらわたちが共同投資している術式狙撃銃の試射場に自分らの住処を併設しても、誰も不自然には思わぬ。また、いつ誰が出入りもしても、不審には思われぬ」

「まさしく、まさしく」

「それ以外に、な。

 わらわたちのパーティがここに住むようになると、そちらの事業にとっても好影響を与えることになるぞ。

 こうみえてもわがパーティは長期間、ギルドで一番の討伐成績を保持しておる。

 そのわらわたちが、狙撃銃の術式に投資しているとアピールすることにもなる」

「新術式への、信頼度が増しますな」

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