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110.げっとだぜ。

 迷宮内、帝国折衝官省。

「別の世界の、未発見魔法……ですか?」

「そう。

 時を操る魔法は、こちらでは実在が確認されていないはず。

 帝国大学を通じてこの術式を公開したい。

 その手続きをするための助力をお願いしたい」

「彼らの名前と権利を保護した上で、ね。

 しかし、ここまで応用範囲が広い術式になりますと……専門の研究者を呼んだ方がいいでしょうね」

「……非公開指定に、する?」

「小官は、その判断をするだけの知識を持ち合わせていません。

 まずは、大学に問い合わせてみますので、少し時間をください」

「わかった。

 では、彼らから時魔法についての詳細を聞き出して書き留めておくことにする」

「あ。

 その……彼らの種族名は、なんといいましたっけ?」

「テオ族」


 迷宮内、某所。

「……大丈夫なのか?

 暗い中、こんなに早く走って……。

 彼らグガウ族は、ヒト族でいえば弱視程度の視力しか持たないようだが……」

(かわりにー)(鼻も耳も、びんかーん)(目に頼らないから、かえってあんしーん)

「……そんなもんか。

 それにしても、早いな。

 縮地の術を使って、ようやく引き離されないくらいの速度だ」

(モンスター)(はっけーん)

「……なに?

 もう……か?

 魔王軍との衝突以来、迷宮が騒がしくなっているとは聞いていたが……」

(せっしょーく)(戦闘開始ー)


 ざっ。ざじゅっ。ずしゃっ。ざぐっ。


「こ、これは……一方的ではないか。

 あれほどの巨体に……統制の取れた連携で……あんな……短剣一本しか持たず、防具もほとんど身につけていない状態で……。

 これは、まぎれもなく軽戦士の戦いよう。理想的といってもいい……」


 迷宮内、某所。

「明かりだ! 明かり!

 暗くて、敵の姿が確認できない!」

「いや……壁の向こうに、隠れてるんだ!

 ここは……壁面が、こう、ひん曲がって向こう側が見渡せないから……」

「……攻撃をしてくるんだから、向こう側にいるってのは確実なんだろう!

 術式しかけるぜ!

 瓜坊、いけぇ!」

「ぶぎぃ!」


 どどーん。


「……やったか?」

「思ったよりも、遠くで音がしたな」

「慎重に……いいか、慎重に、前進だ。

 やったのかどうか、確認。

 とどめが必要なら、全員で……うわぁっ!」


 がごん!


「バクロ!」

「馬鹿!

 自分で慎重にといっておきながら……」

「バクロ! バクロ!」

「目をまわしてるんなら、脱出札すぐ使え!

 悪いが、今のおれたちにはそいつを介抱している余裕はねー!」

「今の……頭部に一撃、だったな」

「兜に当たっても、気絶させているんだ。

 さぞかし、強烈な一撃なんだろうよ」

「それよりも……やつはまだ、健在ってことだ」

「今の一撃は……確かに、弱っているようには思えないな」

「そもそも、攻撃が見えなかったからな。

 暗いし動きが早すぎて、なにがなんだか」

「かなり遠くから攻撃が届いてくるってことは……いったい、どんなモンスターなんだろうな?」

「このままいけば、いやでもお目にかかるさ」

「それまでに、おれたちが全滅しなければな」

「ダズリとバグロ……六名中、二名が脱落。

 戦力は三分の二に低下、か……」

「……ティリ様、なにかご助言は?」

「いや、今のところは、なにも。

 多少のあらはあるものの、今のところは、なかなか的確な判断と行動をしておるぞ、おぬしら。

 ただ……あと一人やられたら、全員で脱出札を使って撤退することを強く推奨する」

「……そりゃ……」

「いわれるまでも、ありませんやね」

「パーティ全体で手に負えない相手に、戦力が半分になってもかかっていくってのは……そりゃ、あまりも無謀ってもんでしょう」

「だが……せめて……やつの正体だけでも……」

「ああ。

 引き上げる前に、見極めておきたいものだな」

「正体がわからないでは、対策の立てようもないしな」

「……よし!

 みんな、用意はいいか?」

「ああ、いつでも」

「まずは、やつを倒すことではなく、相手の正体を確認することを目的にする」

「その判断を指示ずる。

 それから、対策を立てて出直しだ」

「そのためにも……ランタン用の油があったろ。

 一瓶、曲がり角の向こう側に投げつけて、火をつけろ」

「おうよ」


 がちゃんっ! ぼぉっ。


「……これで少しは、明るくなっただろう」

「楯をしっかり構えて……前進!」

「あの角に気をつけろ!

 今まではあそこを曲がろうとした途端、一撃を食らっているんだ!

 やつが待ちかまえている可能性がある!」

「おうよ!

 だったら……楯だけを、出して……」


 がごん。


「……っとぉ!

 はは。

 ビンゴだ。

 お前の推測あたりだぞ、ダズロ!

 しかしまあ、すげえ力だ」

「そんなことより……もう一度、今の出来るか?」

「一撃を出してきた瞬間を狙うか?」

「ああ。

 やつが出してきた手を狙って、攻撃してみる。

 こちらがタイミングを制御できれば、攻撃することは可能だろう」

「では、バロスが続けて楯をだし、他の三名で攻撃してきたのを迎撃。

 そうした手順でいいな?」

「それでいこう」

「それしかなかろう」

「では……いくぞ!」

「それっ!」

「やっ!」


 がごん。ぶん。ごん。


「がっ!」

「ごっ!」

「……まずい!

 さがれ!

 意識のあるものは、意識のない者に脱出札を!」

「……あっ……」

「だ、脱出札ぁ……」


 しゅん。しゅん。しゅん。しゅん。


「全員、自力脱出したか……」

『ティリ様。

 なぜ、彼らを助けなかった?』

「あれはあれで、なかなか的確な判断をしていたと思うぞ。

 わらわの助言を必要とはしないくらいにはな」『……ティリ様が早めに加勢していれば、はなしは違ってきたのではないか?』

「過ぎたことをいいあっても詮無きこと。

 どうじゃ?

 ゼグスよ。

 おぬし……やつらの食べ残しを、平らげてはみぬか?」

『それが目的か。

 あなたは、予想以上にわがままな人だ』 

「ふふん。

 どうとでもいうがよい。

 ゼグスよ。

 わらわは、この目でおぬしの戦いようを見てみたいのじゃ」

『あまりいい趣味ではないな。

 だが、世話になっている身だ。

 ご要望には応えてみよう』

「手伝いはいるか?」

『必要ない。おそらく。

 では……』


 ごがん。


『……早速、昨夜用意してもらった楯が役に立った』

「なにをしておるのか?」

『力を、確認したかった。

 次は、捕らえる』


 しゅっ……がっ。


「……なんと!」

『捕らえるといった』

「それは……舌か?」

『舌……らしいな。

 このように舌を延ばして補食する生物は、別に珍しくはない』

「解説するよりも、はやくそやつをどうにかしてみせい!」

『では、引きずり出そう』


 ず、ず、ず、ず、ず……。


「こ、これは……なんと……」

『おれから距離を置くことを推奨する。

 こいつらは……跳ねるぞ。

 もっとも……』

「……小屋ほどもある、カワズか!」

『跳ねる前に、叩き潰すが』


 ぐしゃっ。


『……表面の粘液に、弾力のある体……。

 打撃も、おそらくは刃物も通用しにくいのか……』

「例の、魔法剣とやらは?」

『そんなものを使うまでもない』


 ぱしぃっ。


「右手を体表に叩きつけて……おぬし、なんとするつもりじゃ?」

『……汝、わが隷となれ』


 どさ。


「お? お?

 今、なにをした?

 いきなり、モンスターが気落ちしたように見えたが……」

『右手に食わせた』

「食わせた?

 いったい……なにを?」

『多くの魔獣を従えた魔王の力の一端。

 この右手には、魔獣の本質を吸い取り使役する能力があるらしい。

 そう、塔の魔女がいっていた。

 ちょうどいい機会だから、実際に出来るのかどうか試してみた』


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