表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/550

109.あんちゅうもさく。

 迷宮内、某所。

「……はぁ?

 試射場を、事務所兼用のセーフハウスにって提案されたぁ?」

(そー)(ギルドの人にー)(いわれてたー)

「セーフハウス…ねぇ。

 正直、わたしたちは早すぎるっていうか……」

「セーフハウスを借りてるパーティって、まだ数えるほどしかないしな。

 おれたちの駆け出しには、ちょっと贅沢すぎるよな」

「ダントツトップのシナク先輩たちだって、宿舎や宿屋暮らしなのに……」

 ばら。

『問題、発生した?』

「問題発生……というほどのことでは、ないと思うけど……。

 例の、狙撃銃用の試射場を下見にいったら、事務所やパーティのセーフハウスと兼用にしてはどうか、と提案されたみたいで……」

 さらさらさら。

『……なに、ハウス?』

「セーフハウス。

 つまり、パーティ全員で一緒に住む場所」

 ぱら。

『了解』

「あ。

 なんか、三人で手話会議はじめた」

 さらさらさら。

『お金、そんなにかかるの?』

「お金は……場所代は同じ……だと思うけど……」

「そうなると、設備投資がネックということか?」

(紹介されたところが広すぎるからー)(有効活用しなくてはもったいないー)(そういわれたー)

「……なるほどねぇ。

 考えてみれば、迷宮内の部屋、ですものねぇ。

 しかも、狙撃銃の試射が出来る場所って前提になれば……かなり広い場所を紹介されるわけだわぁ……」

(あんまり狭いとー)(音が反響してやかましー)(そうもいってたー)

「どうせ借りる金が同じなら……って、発想か……」

「間仕切りをして、家具や事務用品も揃えて、お手洗いや浴室もあった方がいいだろうし……」

「確かに思わぬ出費になるけど、事務所も兼ねるわけだからなあ。

 その手の設備投資は、初回にどかっと入り用になるけど、一度支払えば長いこと保つわけだし……」

「ハイネスは賛成ってわけ?」

「消極的賛成、な。

 よくよく考えてみると、反対すべき理由がないかなー、って。

 その術式の販売も仕事にするんなら、事務所のひとつもあった方が便利だろうし……。

 なにより、おれたちがそれ以降も冒険者を続けるつもりなら、受付とか事務をする人の一人や二人は、雇わなければならないだろうし……」

「試射場も運営するとなると、どうしたって誰かが見張ってなければならないしね」

「そうそう。

 そっちの、常勤のインストラクラーも必要になる。

 どれくらい売れるのか今の時点ではわからないけど、何人かは絶対に必要になる」

「扱うモノがモノですものねえ。

 そうしたことを考えると……別段、大げさな提案というわけでもないのか……」

「術式を売ってハイ終わり……っていうわけには、いきそうにもないよな」

「扱いが難しい上、多大な殺傷能力を持つ術式ですからねぇ」

「それに……そのへんをうまくフォローできるかどうかで、実際には売れ行きも違ってくるだろうしな」

「ナビズ族。

 マルサスに伝えて。

 事務用品一式と、二十名前後が寝泊まりできる設備を揃えた場合の見積もりを、出してもらって」


 迷宮内、有機物廃棄場。

「………………臭い」

「ようするに……モンスターの内蔵をはじめとして、その他諸々の生ゴミをためておいている場所ですから……。

 もう何年かするといい具合に醸されて、それから落ち葉なんかと混ぜてさらに放置すると、いい肥料になるはず……なんですが……」

「そのためには、数年単位の時間が必要となる」

「ええ。

 そのように、聞いています」

「ここの時間を進めること……出来る?」

(やってみるってー)

「……本当なんですか? ルリーカさん。

 彼らが、時を操る魔法を使えるというのは……」

「わからない。

 だから、今、試している」

(今、やってるー)(ここの一角だけ、時間を加速ー)

「……あ、あ……あそこの一角だけ、湯気が……」

「加速が本当だとすれば、発酵熱が発生しているのだと思う。

 これだけだと、単に加熱しているのと区別をつけるのは難しい」

「加速って……何倍くらいまで可能なんですか?」

(理論上、無限大ー)(そこに近寄らないでー)(近寄ると、早く年をとりますー)

「……は、はい」

「止めて」

(止めたー)

「近寄っても、大丈夫?」

(大丈夫ー)

「……あっ。

 ルリーカさん!」

「……確認して。

 ここの一角だけ、臭いがしてない」

「……あ」

「発酵が進んで、成分が入れ替わっている。

 ……おそらく、すでに肥料として出荷できる段階。

 彼らの時魔法は、本物。

 こちらの世界にはない、術式。

 大発見。

 帝国大学の魔法学部に、連絡した方がいいレベル」


 迷宮内、修練所。

「新手の異族、か。

 ほう。

 身体能力は、視力以外はおおむね、Aランク相当。

 つまり、ヒト族よりよほど優秀に出来ているわけだな。

 いいぞいいぞ。

 ここでは、異族だろうがヒト族であろうが、待遇に関係はない。

 実際の仕事の場で役に立つか立たないかだけが、問題とされる。

 ナビズ族、ちゃんと通訳してくれてるか?」

(してるー)

「戦闘経験はあるのか?

 とくに、対モンスター戦の有無を確認したい」

(みんな、あるー)(集団で狩りをするー)

「種族名は?」

(奴隷種族ー)

「いや、それは、種族名というよりは階級であろう。

 そうではなくて、だな。

 ないのか?

 おぬしら、犬顔の種族の名とか。

 同じ奴隷種族でも、耳が長いウサギ顔の種族もいただろう?

 あれらとは、区別をつけて呼び合うことはないのか?」

(審議中ー)(強いていうならー)(グガウ族だってー)(集団で狩りをする種族ー)(頭脳種族の衛士ー)

「そうか……グガウ族、か。

 武器は、その手持ちのものでいいのか?

 よかったら、これからでも迷宮に入って、お手並みを拝見させてもらいたいのだが……」


 迷宮内、某所。

「本当に、見ているだけなんだな。

 あの元魔王軍兵士」

「最初から、そういっているだろう」

「少なくとも、おれたちが文句をいう筋合いではないよな」


『……ティリ様。

 本当に、彼らを手伝わなくてもよいのか?』

「捨て置け。

 少なくとも今日一日は、おぬしは見学だけにしておけ。

 おぬしが出張ったら、おそらくあいつらの出番がなくなってしまう」

『そうか』

「なんだ?

 出番がないと寂しいか?」

『寂しいというよりは、気が引ける』

「あとで、わらわたちだけのときに、大暴れさせてやる。

 それまで我慢をしておけ」

『我慢とか、そういう問題でもないのだが……。

 あ』

「どうした?」

『かなりの大物が、近づいてくる』

「わかるのか?」

『なんとなく』

「……ふむ。

 おい、おぬしら。

 この近辺は道が曲がりくねっており、見通しが効かぬようだからな。

 くれぐれも、気を引き締めていけ!」


「「「「「おう!」」」」」


「……さて……。

 一応、警告はしておいたが……。

 このような、相手との距離を取りづらい場所で予想外の大物に遭遇すると……」

『いざというときは……手を出しても、かまわないのだな?』

「むしろ、頼む。

 命あっての物種だからな。

 むろん、そのときはわらわも打って出るが……」


「……わっ!」


 ごがんっ!


「ダリズの野郎が倒された!」

「なにかいるぞ!」

「明かりだ!

 明かりをもっと!」

「いや、一度後退して体制を立て直せ!」

「ダ、ダリスを……。

 こいつ、一発で気を失っているみたいだし……」

「そんなもん、さっさと脱出札でも張りつけておけ!」

「あ……ああ」


 ごがんっ!


「うぉっ!」

「ドグゼ!」

「大丈夫だ!

 コケただけだ!

 楯に重いの食らっただけだ!」

「……脅かすな、ばかやろう」

「攻撃されるばかりで、本体が見えないのが……な」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ