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108.ときまどうし?

「文字通り、飴と鞭の見事な使い分け、お見事なお手前にございました」

「野生動物同然の者たち相手に、短期間で成果を出さねばならぬのだ。

 お上品な方法ばかりを採用していたら、効率が悪くなる一方である」

「それはいいのですが……このあとの予定は?」

「ギルドのセオリー通りに、身体能力の測定と冒険者への登録手続き、それが終わったら、希望者には即座に教練を開始する」

「着いた当日に、ですか?」

「今回ばかりは、慎重にことを運んでも利点がないからな。

 むしろ、早々に冒険者になるのは無理と向こうから判断してくれた方が、こちらにとっても都合がよい。

 それに、疲れさせておけば、それ以降、無駄に騒ぐ余裕もなくなってくるだろう。

 素振りや走り込み、あるいは乱取り。

 大人並みのメニューを一通り体験させてやれ。

 それでも最後まで食らいついてこようとするくらいの根性がなければ、そもそも現場で通用する冒険者にはなれん。

 ああ、それから、菓子の追加分も発注しておけ。量もだが、同じものばかりだとすぐに飽きるから、種類も多めにな。

 安価なもので構わない。とにかく、砂糖や蜜をふんだんにつかった、下品なまでに極甘のものを、かなり余裕を持って用意させよ。

 しごくのはかまわないが、健康管理にはとにかく気を使え。少しでも調子が悪そうな者を見つけたら、強制的に休ませろ。

 やつらが栄養状態的にも生活環境的にも、これまで最悪にして劣悪な場所で過ごしてきたことを、決して忘れるな。

 最初の数日は、体を動かし、食べさせ、眠らせる。

 この繰り返しだけでいい。

 まずは、やつらの体を人並みの健康状態にまで持って行かなくては、はなしにもならん。

 体を動かすことを嫌がる者がいたら、即座に座学に回せ」

「それでしたら……少なくともその最初の数日は、こちらの手間もあまりかかりませんね」

「ああ。

 その後から、だな。

 本当に、こちらの手腕が問われるのは……」


 迷宮内、某所。

「あの……ティリ様。

 この人は……」

「気にするでない。

 訳あって、うちのパーティで面倒をみることになった、ちょっと特殊な新人でな。

 早く迷宮に慣れるために、わらわに同行してもらっておるわけだが……なに、今日のところは報酬を受け取る頭数には入っておらぬし、見学者とでも思っておくがよい」

「それはいいんですけど……その、どうにも個性的な風体をしていますので……」

「別の世界から来た男だからの。

 少々、見た目的にわらわたちと異なるのもしかたがないところであろう」

「……別の世界から……ですか?」

『ああ。

 お前たちがいうところの、魔王軍の兵士だった者だ』

「……ひゃっ!

 しゃ、しゃべった!

 この人、こっちの言葉、しゃべれるんですか? それになんか、声が微妙にエコーかかっているし!」

『魔法的な処理をして、無理矢理こちらの言葉に翻訳しているそうだ。

 そのように、聞いている』

「……魔法的な、処理?」

「だから、訳ありだといっておろう。

 気にしたら、負けだ。

 それよりも、こんなところで足を止めていたら、貰えるはずの報酬も取りはぐれるぞ。

 先を急ぐがよい」

「は、はあ……。

 確かに、先に進まなければ、仕事にはなりませんけどね……」

「おい。

 ティリ様のおっしゃるとおりだ。

 この男、確かに妙な印象を受けるが……ティリ様が保証する通り、害はなさそうだし……おれたちはこのまま、おれたちの仕事をこなすべきだろう」

「そう……だな。

 では、先に進むか」


 迷宮内、某所。

「……広いな」

「ちょうど、手頃な広さの部屋がありませんので。

 大は小を兼ねるといいますし、なんでしたら余ったスペースは倉庫代わりの荷物置き場にさせてもらいますけど……」

「それで、賃貸料は割安になるのですか?」

「いいえ。

 実際に荷物を置かせていただいた場合には、ギルドからそれなりの使用料は支払わせてもらいますので、その分の払い戻しという形でいくらかは相殺されることになりますが……いってしまえば、せいぜいその程度です。

 でも、長距離用の狙撃銃、ですか?

 それの試射場にするという用途でしたら、この程度の広さがあってもいいと思うのですが?

 あんまり狭い場所にしてしまうと、かえって音が反響して、やかましいことになってしまいますよ?」

「……それも、そうか」

「あと、必要なのは……。

 標的一式と、間仕切りと、什器……なんかも必要ですか?」

「ああ。

 将来的には、簡単な事務仕事も、発生するだろうからな。

 事務に用いる机と椅子が二、三セットと、それに、商談用の応接セットも必要になるのか」

「家具や水回りの整備はどうします?」

「家具?

 水回り?」

「これだけの広さがありますから、マルサスさんたちのパーティ用の、セーフハウスと兼用にしてしまうことも十分に可能だと思いますが。

 それに、たとえ試射場としてのみ使うにしても、給湯設備やざっと汗を流せる場所くらいは設置しておいた方がいいと思うのですが……」

「……ああ。

 そこまでは、考えていなかったな……。

 すいません。

 設備に関しては、一度仲間や出資者と相談してみてから、改めてお願いするということで……。

 しかし、そこまで揃えるとなると……予算的に、どうなるか……」

「そうですか。

 今の時点では、急ぐ話でもありませんしね。

 それに、今回の事業に関しては、迷宮攻略にも貢献するとギルドでは判断しておりますので、必要な経費をギルドから借りるという手もあります」

「……そういう可能性も含めて、一度持ち帰って相談してから決めさせてください」


 迷宮内、管制所受付。

(冒険者ー)(登録ー)(お願いー)

「はい。

 ……あ。

 昨日、発見された……」

(そー)(通訳、まかされたー)(この人たち、衛士ー)(戦う方法、知っているー)(登録して、修練所へー)

「では、こちらの書類に、サインを……といっても、こちらの文字は、書けませんか……」

(音を拾って、なるべく近い発音の字でよければー)(代わりに、書くー)

「い、いえ……。

 代筆は、禁じられているんですよ。

 あくまで、自筆でないと……。

 そうですね。

 では、こちらの紙に、まずナビズさんにみなさまの名前を書いてもらって、それを真似て正式な書類に署名して貰えますか?

 ええと……。

 あれ?

 十名、ですか?

 奴隷種族の方、全員ではないんですか?」

(あとはー)(別の場所ー)(あの人たち、魔法使いー)(別の世界の、魔法使いー)


 迷宮内、魔法関連統括所。

「別の世界の、魔法使い?

 一度に……こんなにたくさん。

 でも、あなた方からは、そんなに魔力は感じない」

(この人たちー)(迷宮のような環境でー)(体の外の魔力を使うタイプー)

「……なるほど。

 そちらの世界では、魔力はありふれたものだった?」

(やっぱりー)(特殊な場所にしかないってー)

「それでよく、環境依存の魔術が発達したものだという疑問」

(この人たちー)(世代を越えて知識を継承する種族ー)(その知識の中にー)(特殊な環境でしか使えない、特殊な魔法も含まれてたー)

「……つまり、彼ら自身は、魔法を使えないと?」

(使えるー)(きぼりんと同じー)

「きぼりんと同じ。そう。

 異族と養子縁組をしないですんだ。

 これは、いいことなのか悪いことなのか?」

(さー)

「ナビズ族。

 きぼりんが持つ魔法知識と、彼らの知識を照合。

 なにか、目新しい術式は、ある?」

(照合、今やってるー)(おおむね、こちらの魔法とだぶりー)(でも、ちょっとだけ、こちらにはない種類があるー)

「それは?

 具体的に、いって」

(時間を操作する魔法ー)

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