102.さびしさのていぎ。
「な……な……」
「顔役、などいってもピンキリでな。
根っからの悪党から義侠心にあふれた者まで、その実体は人によりかなりの差がある。
いらぬ苦労してきた者も多いから、前途ある若者たちを堅気にするための事業に賛同してくれる者は、以外に多いはずだ」
「普段、どういう人種とつきあっているんですかあんたはぁ!」
「そこはそれ、蛇の道は蛇というやつよ」
「今のおはなしで、このクエストの有用性はある程度保証されたと思います。
カスクレイド卿。
お手数ですが、これからでも王都ににいって……」
「職にあぶれた若者たち子どもたちを集めて一括してこちらに送ればいいのだろう」
「ええ。
資金が足りなくなったら、うちの渉外さんに声をかけてくだされば……」
「わかっている。
しかし……数十人数百人単位の転移魔法がギルド持ちとはな。
これまた、剛毅なはなしだ」
「その十倍くらいは、毎日迷宮からの転移魔法で移動してくださっていますので。
その程度の負担は、ギルドとしましても痛くも痒くもございません」
「それではおれは、これで失礼する。
これよりしばらく、王国内の各地を巡る旅の空。
ルテリャスリ王子よ!
達者で暮らせよ!」
「と、いうことで……王子様?
聞いていらっしゃいますか?」
「……あ、ああ……」
「王子様は王子様で、やることが山積みですよ。
明日からでも、毎日、何十人何百人という単位で小学舎で面倒をみなければならない子たちが押し寄せてくるんですから……。
小学舎の受け入れ体制は、万全ですか?」
「なに……小学舎で教えていることは、あくまで基礎の基礎でしかないからな。
成績優秀だった者を確保しておけば、教師役についてはまず不自由することはないし、最近では帝国大学からのバックアップも期待できるようになってきたし……。
まて!
毎日、何十人何百人単位だと!」
「そうなりますねえ」
「まてまてまて。
教員はどうにかなるにしても……教室や教材、机や椅子は!」
「それらは、出来る限りですが、ギルドで手配をさせてもらいます。
よほど予想外に大勢集まらない限り、まず大丈夫だと思いますが……。
それよりも、もっと前の段階が、少し心許ないかなーっと思うのですが……」
「もっと前の段階……だと?」
「今までの流れでいいますと、これからこっちに移送されてくる人たちというのは、ほとんど宿無しなわけですよね?」
「あ……ああ」
「お風呂は、既設の簡易浴室をそのまま使ってもらうにしても、清潔な衣服は必要となりっますね。
あと、彼らに迷宮内施設の使用法やルールをレクチャーする人たちも……。
現在のギルドは、正直いっぱいいっぱいでそこまで面倒をみている余裕はないのですが……」
「……小学舎の生徒たちをかき集めて、面倒をみさせることにする。
場合によっては……例の機織機を使わせてもらうことになると思うが……」
「普段着用の布地なら、あれで十分ですものね。
あの機械を動かせる人をそちらで用意していただけるのであれば、必要な燃料や糸はこちらで用意いたします」
「つまり……おおざっぱにいってしまえば、必要となる物資はだいたいギルド持ち。
そのかわり、人手に関しては、こちらで面倒をみろと……」
「はい。そういうことになりますね。
今回だけではなく、ギルド内外の各種派生業務を継続的に小学舎の出身者で引き受けていただくと、ギルドとしても、ものすごぉーく助かったりするんですけどぉ……」
迷宮内、臨時修練所。
「……魔力剣、だぁ?」
『ああ。
体内の魔力を使用して攻撃するとか、そのように聞いている。
厳密にいうのなら、刀剣の類ではないそうだが……』
「とにかく、魔力を利用した武器というわけだ。
いまいち、ピンと来ないな……。
ひとつ、試しに使ってみるか?」
『いいのか?』
「ここは、もとより修練するための場所だ。
ゼグスくんだけ例外ってことはない。
あの藁人形に、打ち込んでみようか?」
『壊してしまうことになるが?』
「いいよ、べつに。
高価なものでもないし」
ざぁ……ひぃんっ。
ばさ。
「なに……今の。
変な色の光が……こう、波打って……」
『だから、厳密にいえば、刀剣の類とはいえないといった』
「刀剣というよりは、鞭に近い動きだったな。
それは、伸縮自在なのか?」
『魔力が切れない限りは……どこまでも延ばすことが出来る、というはなしだった』
「あの魔女……思いっきり、ケレン味たっぷりの武器を押しつけてきやがったな」
「だが、余りある魔力を持ち、魔法の知識を持たないためにその魔力を有効活用出来ないこの者にとっては、最適な武器であることには変わりない。
この選択は、決して間違ってはいないと思うが」
「……うっ……。
そういわれると……」
「おい、ぼっち王!
今のはなんだ!」
「そいつは?」
「ああ。
今のは、塔の魔女謹製の魔法剣で、こいつはおれが面倒を見ることになった、かなり特殊な新人さんだ」
「お前が……直接、新人の面倒をみるのか?」
「ああ。
ちょっと……いや、かなりの訳ありなんでな。
それに、ギルドからの指示でもあるし……詳しい事情ははなせないが、いろいろ、扱いが難しいやつなんだ」
「なんだか……いろいろ、ややこしそうだな」
「ああ。
かなりややこしいよ」
迷宮内、羊蹄亭支店。
「で……この子たちがやってくれることになったわけぇ……」
(なったわけー)(わけー)
「そういうことになった。
理論上は、可能だそうだ」
(可能だー)(理論上はなー)(今もやっているしー)
「理論上……ねぇ」
「こうみえてもおれは魔法に疎いのでな。
どこまで本当かどうか、判断がつかなかったぞ」
「いちいち断らなくったって、その程度のことはみんなわかってるってーの、マルサス」
さらさらさら。
『狙撃銃、出来そう?』
「ああ。
大丈夫。問題ない。
だけど……威力が大きい分、かなり重たくて、反動もすごかったからな。
女性が扱うのは、少しきついのかも知れない」
「だったら……今の内に、試射が出来る場所を確保しておかないとねぇ。
どのみち、今のはなしを聞く限りでは、一定の修練を積まなければ命中しないみたいだから、専用の射撃場も手配しておかないとならないみたいだしぃ……」
「ああ……そっちの仕事も、残っているのか……」
「でもよ。
迷宮の中で、まだまだ使ってない空間は滅茶余っているってこったから、ギルドに掛け合えばどうにでもなるんでねーかい?」
「場所は確保出来るだろうが……また、金がかかるな。
それも、今度は、恒常的に出て行く金だ」
「うちのギルド、迷宮内の空間は賃貸するだけで、分譲はしてくれないもんねぇ」
「でも、このネズミにやらせるってことで、術式の開発費は予想よりも安くあがりそうなんだろ?」
「それはそれ、これはこれだ。
第一、多少、予想より安くなったとはいえ、開発費は一時的な出費、射撃場の家賃は慢性的な出費。
性質がまるで異なるし、単純に比較することは出来ない。
しかし……迷宮内の空間を、借りることになるのか……。
相場とか、まるで予想がつかないな」
(問い合わせてみるー)(ギルド本部へのホットライン、繋がっているけどー)
「いいや、いい。
明日にでも改めに、打診してみるさ。
別段、今すぐに必要ってわけではないし……」
(そうかー)
「だけど……あっちこちにいる子たちと常時繋がっているっ……今までピンと来なかったけど、それなりに便利そうねぇ」
(これが当たり前なんですがー)(むしろ、スタンドアローンタイプの知性、想像しづらいー)
「……すたんどあろーん?」
(孤独で、意思や情報の疎通に齟齬がある知性っていうかー)(ぶっちゃけ、きみたちみたいな知性体のことー)(ねーねー)(いつも繋がってないのって、寂しくないー)
「そういわれても……こっちは、それが当たり前だしねえ。
それに……あなたたちだって、今まで、自分しかいない状態だったんでしょ?
今まで話し相手もいなくて、寂しくなかった?」