98.なびず。
(おぼえたのではないかなー)(データベースに直結しておりますなー)(ピス族の機械、きぼりんの魔法、ぼくたちの生物資源ー)(三重バックアップとかー)(おぼえるというより、コピペと検索ー)(日々これ参照ー)(個体数が多いほど単位時間当たりの情報処理量が増えますなー)(繁殖すればするほど頭よくなるー)(ネットワーク知性ですからー)(個体の能力はあまり意味ないしー)(リアルタイムアップデイトですがなー)
「……折衝官、彼らのいっていること、理解できます?」
「半分くらいは。
若干、意味不明な単語が頻出しますが……彼らがとても便利だ、ということは理解できました」
「よかったな。
帝国の人たちも取り引きしてくれるそうで」
(便利重要、ちょー重要)(お買い得ですがなー)(これも餌と繁殖のためですからー)(共存共栄まんせー)(コスパ高いよー)(すでに翻訳者として活躍ちゅー)(おもに元魔王軍兵士居住区でー)
「あとは……ギルドの方は、どうなっているのかな……」
(すでに契約の詳細を詰めている段階ですがー)(マッピングデータや、ランク、報酬金額の変動までも即時計算ー)(転移札も張れるから、後始末のバックアップ人員が大幅に削減できますなー)(通信やエマージェンシーコールも自動化ー)(旅のお供に、パーティーに一匹いかがでしょうかー)
「……手配、はえーな。
そんなにいろいろ手広くやって……お前ら的には、不満とかないのか?
働きすぎっていうか……」
(お互い様ですがなー)(水と食事をもらえますしー)(言葉や文化を教えてもらいましたしー)(外敵から守ってくれますしー)(衛生管理をおぼえただけで平均寿命むちゃ延びますしー)(数が多いから、実際に仕事するのは少数ですしー)(交代制ですがなー)(足りなくなれば繁殖しますしー)
「……問題、ないようですね。
となると……あと問題になるのは、正式な名称ですか。
公的な書類にいつまでも集団知性体とか書いておくわけにもいきませんし……」
「お前らの名前、ギルドとかその他の場所ではなんて呼ばれているんだ?」
(ネズミもどきー)(丸ネズミー)(歯車ネズミー)(時計直しー)(修理ならおまかせー)(生体通信末端ー)(なんとでも呼んでー)
「……と、いっておりますけど……」
「……あとで、他のみなさんの意見を聞いてから決定しましょう。
場合によっては、公募という線もありかと」
迷宮内、ピス族居住区。
ウィィィィン……。
『……これが、手持ちの中では一番威力がある対物ライフルになります』
「その……奇妙な甲冑は?」
『動力外骨格……動きを後追いして、重量物でも楽に扱えるようにするための骨格を着つけています』
「ははぁ……。
つまり、この対物ライフルは、重い、と……」
『現在確認されている、体表に金属装甲が施されているタイプのモンスターには、最低でもこれくらいの貫通力を持つものでないと弾丸がはじかれてしまうのではないかと』
「……持てるかな、これ……。
アイテムで筋力補正をかけて……と。
ちょっと、失礼します。
……むっ。
重いな」
『発射時の反動を押さえるために、故意に重くしている側面もあるのですが……どうです?
扱えそうですか?』
「持つだけなら、なんとか。
しかし……これに、発射時の反動が加わるのか……。
その反動も、機銃よりは強そうだし……連射は難しいかもしれないな」
『もしよろしければ、試射していきませんか?』
「実際に体験してみなければ、使えるかどうか判断できないか……。
試射が出来る場所は?」
『こちらになります』
迷宮内、某所。
ぐぉぉぉぉぉ……
「……このぉ!」
どごぉぉぉぉんっ!
「……はぁ、はぁ……。
うぉっ!」
がっ! がっ!
「ははぁっ!
無駄だ! 無駄である!
チート能力の持ち主である余を食らうことなぞできぬわ!
機銃、具現化!」
ダダダダダダダダダダダダダ……
「……はぁ、はぁ……。
ゼロ距離……というより、口腔内連射は効果的だが……美的な問題があるな……。
内部から爆散してミンチになっておるから、具体的に描写しようとするとグロ規制を憂慮せねばならん……。
ともあれ、これで、ここの部屋も攻略完了、か……。
以前よりモンスターとのエンカウント率があがっておるが、ソロでもなんとかいけそうではないか。
どれ……一度戻って、もうひと頑張り……」
迷宮内、臨時教練所。
「どうですか?
こっちの様子は?」
「おお、シナクか。
どうした? もうそっちは終了か?」
「今のところは、一応打ち止めみたいです。
今日発見された種族の中に、とても便利で頭のいい種族がいまして、緊急時以外の翻訳業務も、今後は大幅に減りそうな……」
「その、とても便利で頭のいい種族というのは……ひょっとして、この玉ネズミのことか?」
(シナクー)(さっきぶりー)
「……あれま。
こっちにも来てたか」
「いつの間にか紛れ込んでいてな。
見ての通り、事務員やら反省会やらの手伝いをはじめた。
最初のうちはみなも戸惑っていたが、一度聞いたはなしは何度でも反復できるし離れてた場所にいる別の個体が見聞きしたことも聞き返せるしで、そばにいるとなにかと便利でな。
今では事務員も冒険者も、あの種族を介して話し合いを進めたり記録を残したりするようになっている。
特に冒険者どもは午前中にかなりしごいたので反抗する元気も残っておらず、いつの間にやらあの種族が司会役をつとめていることに特に疑問を抱いている様子もなく、ごく自然に受け止め、宇受け入れておるわ」
「あー……いい傾向、なのかな?」
「いい傾向、ではあるのだろう。
知っての通り、古参の冒険者といえばなにかと我の強いのが揃っているわけだが……それが、あの種族が提案することは不思議と素直に受け入れる。
あれの口から出てくる意見が過去の記録から導き出された客観的な結論であるため、ということが大きいのであろうが……それとは別に、あの種族の外見も、一因であろう」
「確かに。
……あれに向かって本気で怒ったり反発したりする気には、なりませんよね……」
「この場だけではなく、だな。
シナクよ。
あの種族は……おぬしが以前よりいっていた、冒険者間の情報共有化についての、切り札になるかもしれぬぞ。
稼働中のパーティすべてにあの種族がついてくれば、遭遇したモンスターやリスク、それらに対する有効な対処法について、即時に知らせあう事が可能となる」
(危険をおしらせー)(そーゆーの、とくいー)(まかせてー)(口を出すだけならいくらでもー)
「似たようなことは、おれも考えていましたが……。
しかし、そうすると……残る問題は、こいつらの種族名ということになるな……」
「なんだ? まだ聞いていなかったのか?
ここでは、この種族のことを案内ネズミ……略して、ナビズと呼んでおるが」
「ナビズ……ねえ。
まあ、短くて呼びやすくて、いい名前ではありますな」
(ほめられたー)(短いかー)(いい名前かー)
「しかし、ピス族は鳴き声からだし……ここのネーミングで、結構安易なところからつけられているような気が……」
「多少、安直なくらいでちょうどよかろう。
おぼえやすいのが一番ではあるし……」
迷宮内、ピス族居住区、射撃場。
どぉぉぉぉぉぉんっ……。
「……うぉぉぉ……。
音と、反動が……」
『小口径の機銃術式とは段違いでしょう?』
「ええ。
修練は必要となりそうですが、使えないこともなさそうですね」
『では、これにしますか?』
「一発当たりの威力で、これよりも大きな銃器はないんでしょう?」
『有効射程距離も、これが最長になります』
「では、これにしましょう。
さっそく、正式な権利契約書を……」