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95.ちてきしゅぞく、それぞれ。

 迷宮内、某所。

「通訳が必要だと聞いてきましたぁー」

「おお、待ってたぞ、ぼっち王!」

「あれだ、あれ!」

「大きな……樹?

 こんな薄暗い、日光が届かないところで、よくもまあ……」

「そんなことよりも!」

「今は、あそこに囚われているんだよ!

 おれたちの仲間のハンスが!」

「ああ……なんか、蔦が、体中に絡まって……。

 火矢かなんか射かけて、焼いちまったら? あの樹」

「そんな簡単に解決するんなら、お前なんか呼ばねーって!」

「あの樹がただの樹じゃないから、おれたちだって手をこまねいているんじゃねーか!

 そうだよな! おい! ハンス!」

「ああ……そうだ。

 この樹が……なにか、伝えたがっている……」

「……どういうこった?」

「ああして蔦でくるんだ生物に、うっすらと自分の意志を伝える能力があるらしくてな」

「あの……樹が、か?」

「あの、樹が、だ」

「そんで……お前にあの樹がいいたいことを聞き出してもらいたいわけだ」

「なにか伝えようとしているってことは、あの樹も知的種族ってやつになるわけだろう?」

「ろくに動けない相手を討伐するのは簡単だが、なにも聞かずに問答無用でって、っていうのも寝覚めが悪いからな」

「本当かどうかはわからないが、あのままハンスの野郎を眠らせて永遠に目覚めないようにも出来るとかいっているし……」

「……ちょっと、待て。

 なんだ? その、永遠に目覚めないようにうんぬん、ってのは?」

「ああ、まだいっていなかったか」

「あの蔦にくるまれた生物は、すぐに深い眠りについちまうそうだ」

「おれたちはあの樹がそんなんだと知らなかったから、あの根本で休憩していたんだが、気がついたらハンスの体に蔦が巻きついていて、ぐーすか寝てた」

「で、目を覚ましたと思ったら、あの樹からの伝言がある……と、あのハンスがこういったわけだ」

「……それ、信じたのか、お前ら」

「蔦が自分で動いてハンスに巻きついたのは確かなことだしな」

「ハンスの野郎ががっと寝てがっと目を覚ました様もこの目でみているし」

「あの樹がただものではないってことは、確かだ」

「用心に越したことはない、ってか……。

 ま、念のためってこともあるしな。

 しかし……おれにしたって、植物にはなしかけるのははじめてのこった。

 うまくいくのかどうかまでは、保証できんぞ」

「なに、交渉決裂なら、そんときはあの蔦をぶったぎってあの樹を焼き払うだけのことよ」

「そういうこった。

 ハンスの野郎も、一応は冒険者だ。

 いざってときの覚悟は出来ているだろうよ。いやさ、出来てなくっちゃいけねえ」

「……ちょっと待てよ、お前ら!」

「ん、じゃあ……。

 あー。

 そこの樹、こっちがいうこと、聞こえるか? 理解できるか?」

『聞こえはしないが伝わっている。理解できる』

「……お。

 本当に、返答があった」

『言語とやらを構築する行為は動物とはまるで異なる生命体であるわれらにとっては煩雑な重労働だ。要件を手短に伝える』

「そちらの要求にどこまで応えられるかは保証できないが、とりあえずは聞いてみよう」

『われらは日光を所望する。この地では十全なる生命活動を維持できない』

「……そっちも、いきなりどこからか迷宮につれて来られた口か……。

 うーん。

 きぼりん、こいつをまるごと転移魔法で迷宮の外に飛ばすっていうのは……可能か?」

「可能か不可能かでお答えするのであれば可能でございますしかし転移した先での受け入れ体制を整えてからでないとこちらの植物も長く生きながらえることは出来ないのではないかと憂慮する次第です」

「具体的にいうと、なにを用意すればいい?」

「日当たりがよい地所がかなり広範囲にわたって必要となりますさらにいわせていただければ可能ならばそこの雪もどかして根を納めるための大きな穴を掘っていただければ最上と存じますもしそのような手配をするのでございますればわたくしの分身づたいにギルドに渡りをつけて手筈を整えますがいかがでございましょうか?」

「やってもらえるとありがたいけど……でも、そうすると……土地代とか穴掘りのための人件費とか、かなり入り用になるんじゃないか?」

「そのあたりのこともギルドに相談してみます知性があり対話も可能な植物とあれば学術調査の対象にもなりましょうから帝国大学からもいくばかの資金援助を期待できるかと」

「そっれで、どこまで必要経費をカバー出来るのか、おれにはよく判断出来ないんだけど……ギルドと相談の結果、やっていいとなったらやっちまってくれ。

 と、いうことだ。

 あんたの要求はそれだけか?

 聞いての通り、こっちは可能な限りそちらの要求するところを呑もうと準備をはじめた。

 他になんかあったら、今のうちにいっておいた方がいいぞ」

『日光を浴びることが出来る地への転移。他の要求はない。

 無事転移することが出来たら、一定量の労働奉仕を約束する』

「労働奉仕だぁ?

 言葉で思考するのでさえ大儀だっていっているあんたがかぁ?」

『要求するところを供応されたら対価を支払う。それがそちらの社会のルールなのではないか?

 それに、光合成が可能な場所でならわれらももっと活発に思考することが可能となる』

「あー。

 そういう細かいはなしは、実際に外に出てから帝国のお役人とじっくり詰めてくれ」

「ギルドの許可がおりました今迷宮前広場の隅を人払いして雪をどけはじめたそうです必要な作業が完了するまでいくばかの時間を必要とします」

「……と、いうことだ。

 準備が出来てから、またここに来て転移作業に入る。迷宮の外に転移したら、またおれが通訳に呼ばれることになるから、そんときはよろしくな。

 そんじゃあ、おれたちは一時退散するとするか、きぼりん」

「その前にハンス様を解放させなくてもよろしいのですか抱き枕様」

「あ。

 忘れてた」

「忘れるなよー!」


 迷宮前広場。

「雪かきと、その後に穴掘りだってよ」

「今の時点では、元魔王軍兵士の人手が余っていますから、ちょうどいいといえばいいんですけど……」

「しかし、会話可能な植物……か。

 いろんなのがいるもんだなあ」

「ドラゴンのコインがなかったら、交渉もまともに成立しなかったでしょうけれども……。

 奥が深いですねえ、知的種族」


 迷宮内、帝国折衝官省分室。

「その後、拾ってきたのがこの人たちになりますね。

 なんでも、別の世界からやってきたドラゴンハンターの人たちと、あと、奴隷種族と自称する人たちになります。

 こちらは、いくつかの異族が混在している団体になります」

「……奴隷種族?

 ひょっとすると……」

「ええ。

 頭脳種族を自称していたボズ族たちとはぐれた人たち、らしいですね。

 別の世界にでもいったかと思ったが、まだこっちの迷宮をうろうろしていて、冒険者に発見されました」

「彼らは、ボズ族との合流を……」

「まったく、望んでいないそうです。

 ギルドや冒険者のはなしをしたら、そちらで働きたいと。

 彼らの身なりを一目みてもらえればご理解いただけると思いますが、実にお粗末なものですし、必要な食事なども、どうみてもどうみても与えられているようにはみえない。

 虐待とまではいいませんけど、ボズ族のもとで、彼らは、不遇な扱いを受けていたのではないかと……」

「厳格な階級社会を構築していたようですね、彼らの世界では……。

 可能な限り、彼ら個々人の希望に添えるように手配をいたしましょう」

「で、こっちのドラゴンハンターの方は、みての通りヒト族らしいです。

 とはいえ、別の世界のヒト族ですから、詳しく調べると細かい差異が出てくるのかも知れませんが……。

 こちらの方々は、先にドラゴニュートのギダイさんが接触、交戦のあと無力化され……その後、ギダイさんの通報を受けてギルドの人たちが拾ってきました。

 彼らは……ええっと、亡命とかいうのを、望んでいるそうです」

「亡命、ですか?」

「どういう意味ですか? その、亡命って」

「祖国を捨ててこちらに帰属します、という決意表明になりますね。

 主として、政治的な用語になります」

「政治的な用語、ねえ。

 世界をまたいでも、元の世界と政治的な概念を同じくするとか、本気で思っているんでしょうか?」

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