25.みしらぬてんじょう。
「う……ん……。
おも……ごっ!」
「重いとかいうなっ!」
「……あんたか……また、裸で人の上に乗って……。
おも……ごっ! ……から、退いてくれ」
「断るっ!」
「あっ、そ。
じゃあ、勝手に……。
え?
……なんで、ここにルリーカまで寝ているんだ?」
「昨晩、酔っぱらったお前さんが離そうとしなかったからだろう」
「……やっべぇー……。
ぜんぜん、覚えてねー……」
「慌てて自分の下腹部を確認しなくとも、なにもしてないぞ。
お前さんがいっこうに目を覚まさないので、ここに転がす際、服は脱がせておいたが……」
「なんで、脱がした?」
「服を着たまま寝たら、しわになるだろう」
「って、ことは……ルリーカも……やっぱり裸……。
こいつの家のじーさんに知られたら、殺されかねないな、おれ……。
で、おれの服は? それと、ここ、どこ? いつもの宿屋でないことはわかるが……」
「お前さんの友人夫妻の家、だよ。
服は洗濯するとかいって夕べのうちに召使いがもっていった」
「レニーとコニスの家、か。
そういや、あいつらの家に来るのもはじめてか。ってか、あいつら生意気にも使用人なんて雇ってたんだな。
ええっと……まあ、いいや。
とりあえず、このシーツを体に巻いて、っと……」
「トイレか? そのドアを出て右にいったところにある」
「ん。
まずは、顔洗って頭をしゃっきりさせてくる」
ばたん。
「……」
「……」
「お……」
「お……おはよう、ございます」
「おはようございます。
どうも、夕べからお世話になっています」
「よ、よく眠れましたか?」
「あ。はい。それはもうぐっすりと。たった今、目が覚めたばかりです」
「あっ……お手洗いはこちらを右側にいって……」
「突き当たり、ですね。
同室の者に聞きました。
それでは、失礼します」
ばたん。
「……すっげぇー気まずぃ……。
初対面のメイドさんと半裸なおれ、予告なしの遭遇。
……なんてー罰ゲームだよ……」
バシャバシャ。
「ふぅ。
すっきりした。
しかし、よくみると……洗面所自体も広いし、調度もいちいち豪華だし……。
レニーのやつ、いいところの出だっていうの、本当だったんだな。
まずは深呼吸だ。おちつけ、おれ。
よし。
まずは部屋に戻って、あいつとルリーカに服を着せて、おれの服も紳士的交渉してすみやかに返却していただく。
でも……あいつらの家、今、ヤンキーどもを何人か、居間で雑魚寝させてるとかいったけど、やけに静かだなあ……」
ばたん。
「今度は、誰もいませんねー……。
さっさとさっきの部屋に戻る」
ばたん。
「ふぅ……ん!」
「どうしたんだ?
はいってくるなりドアの方に向いたりして」
「あんたはともかく、ルリーカには何か着させろ」
「お前さんの服と同じ、この家の召使いがはぎ取って持って行ったきりなんだ」
「じゃあ、シーツでも毛布でも体に巻きつかせておいてくれ」
「と、いっているが?」
「わかった。
ルリーカ、シナクがいったとおりにする」
コンコン。
「うわっ!」
『今、よろしいでしょうか?』
「……びっくりした。
はいはい。今、開けます」
ガチャ。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
「お客様がたのお召し物はまだ乾ききっておりませんので、それまで代わりに着ていただけるものをお持ちました」
「これはこれは、ご丁寧に」
「皆様方にぴったりのサイズのものが当家にはございませんでしたので多少のご不便をおかけしますが、夕方までには乾きますので、それまではこちらでご勘弁のほどを」
「い、いえ。
ご配慮、感謝いたしますです」
「着替えて落ち着きましたら、階下にある食堂にいらしてください。主人がお待ちになっております。
それから……昨夜は、お楽しみでしたね」
バタン。
「……物腰はともかく、なんか威圧感があったな、あのメイドさん。
ということで、とりあえずこれ着てくれってさ」
「至れりつくせりだな」
「サイズからいうと、この男物があんた用だな」
「……ずいぶんと大きいな」
「不満か?」
「まさか。大は小を兼ねるというからな。着用できればなんでもいい」
「これは……ルリーカの、か?
ずいぶんとまたひらひらした……なんでこの家にこんな子供用のドレスなんてあるんだ?
まあいいや。ルリーカ、これ着て」
「わかった」
「って、っすっぱだかでトコトコこっちに歩いて来るなよ!
おれが持っていくから、しばらくベッドの上で毛布にくるまってろ!」
「で、残りが……。
って……をい……」
「お前さんのサイズにあうものが、他になかったのだろう。
覚悟するんだな。
たとえお前さんがいやがっても、二人がかりで無理にでも着させるが」
「……お前ら……完全に、面白がっているだろう?」
「大丈夫。
シナク、これが似合うことはすでに実証済み」
「まあ……いいか。これ以上の面倒はもうごめんだし……。
じゃあ、おれはこっち向いて着替えてるからな。終わったら合図してくれ」
「別に見ても減るもんじゃなし」
「シナク、気にしなくてもいい」
「おれは気にするの!」
「用意はいいか?
下の階の食堂だってよ。おれは寝てて道順がわからないから、お前が先導してくれ」
「わかった」
「多少広いとはいってもしょせん一軒家だ。適当に歩いてもそれほどかからずに階下にはいけるのだがな」
「はいはい。
とりあえず、この家の人をこれ以上待たせてはいけないから、さっさと歩きましょーね」
「で……ここが、食堂か。
今さらだが……豪華すぎないか? この屋敷」
「そうか?」
「住人のことを考慮すれば妥当」
「妥当、って……あいつら、前に聞いたときは町外れのボロ屋敷を借りてるとかっていってたように思うけど……あれ? おれの勘違いだったか?」
「ただいま主人たちが参りますので、おかけになってお待ちください」
「これはどうも、ご丁寧に。
ほら……使用人の人たちも、なんだか高級感が漂っているし」
「確かに、若くて美人ばかりだな」
「いや、そういう意味ではなくて……」
「わははははは」
「ふははははは」
「あっ。
あいつらも泊まってたのか……」
「ん? 泊まっていたのか、って……」
「シナク、たぶん、根本的な勘違いをしている」
「待たせたな、冒険者たちとその他一名」
「うちの子供たちがなかなか離してくれなくてな。
いい機会だから、メシの後にでも顔をあわせて遊んでやってくれ」
「どのみち、服が乾くまでその服では外に出られないだろ?」
「あ。ギルドには使いの者をやって、おれたち、今日は迷宮にはいかないと伝えておいたから」
「まあ、たまにはこういう休みもいいだろう」
「わははははは」
「ふははははは」
「あー……これは……」
「つまりここは、剣聖とその夫の屋敷だ、ということだな。
だから最初にいったであろう。
お前さんの知り合い夫婦の家だと」