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24.よっぱらいにじんりんをとくのはふもう。

「……昨日から、おれ、こいつの反吐の始末ばっかやらされている気がする……」

「ほれ、ちゃんと顔をこっちにむけて。

 まだ顎のところについているから」

「マスター、悪いけどお湯換えて。

 それから、新しい布も」

「いいけど……シナク、なにも、お前が掃除からなにからすることはないだろう?」

「かといって、マスターに押しつけるのも気が引けるしな。

 当の本人は、このありさまだし……」


 「……ず……ずびばぜん……」


「病人は寝てろ。

 っていうか、こんなに体調が悪かったらわざわざ来るな」


 「……うううっ……」


「そういじめてやるな、ぼっち王。

 こやつにしても、悪気があってのことではなかろう」

「いや……そういうあんたがこいつの肩をつかんでがこがこ揺さぶったのが、最後のだめ押しになったんだが……」

「それはそうと、この紙よりも白い顔をして横になっているのが、噂の塔の魔女ということでいいのだな」

「うん。そう。

 このマグロ化しているのが塔の魔女で間違いない」

「顔色は悪くて背が高すぎて胸が大きすぎるきらいはあるが、美形ではあるな」

「そぉかぁ?

 他の要素が濃すぎるんで、容姿のことなんかあまり意識する余地ないんだが」

「微妙に残念なことに、わたしの好みからいえば少々育ちすぎだ」

「だれもあんたの好みなんか聞いてねーよ。

 ん?

 でも……あんた、バッカスのかみさんなんだよな?」

「あれもな、その昔はおぬしに負けず劣らずの美少年だったのだぞ。

 今はかなり育ちすぎているが、その分、回数と持続力も育ったのでまだ離縁はしていないが」

「オヤジキャラの人妻剣聖ってどうよ?

 それはともかく……なんだか、バッカスのやつが可哀想になってきた……。

 いやまあ、夫婦間のことに口出しする趣味はございませんがね」

「おいよ。

 仮面兜、洗っておいたぜ」

「ありがとよ、マスター。

 本当に悪かったな」

「いいってことよ。お前さんに礼をいわれる筋合いでもないような気がするし、しっかり掃除しておかないと、店の中にいつまでも匂いが残るしな」

「あとは……だ。

 さて、このマグロ魔女。

 どうしたもんかなぁ……」

「しばらく、このままにしておくしかないんじゃないか?」

「だよねー。

 まだ気持ち悪いみたいだし……」

「そうするしかないか。

 こいつが落ち着いたら、おれが責任持って持ち帰りますんで……」

「ぼっち王、なに、この魔女のおぬし、そういう関係なの?」

「そういう関係ではないですが、この人の尻拭いはだいたいおれがやることになっているんです」

「はなせば長くなるんだけど、シナクくんとこの人ともいろいろあったのだよ!」

「ほう。

 それは面白そうだ。詳細を求む」

「わはははは。

 それはおれも興味があるな。かーちゃんのお産とか挟んでて、まだ詳しいこと聞いてないし」

「決まりだな。

 今夜はぼっち王と塔の魔女のなれそめを酒肴にすることにしよう」

「……この前も説明したばかりな気もするけど……ここまでくれば隠す意味もねーし、まあいっか」


「……と、いうような次第であるわけです、はい」

「こういってはなんだが……つくづく、おかしな関係だな、おまえら」

「関係がおかしいというより、このおかしな二人だからこうなったって感じだね!」

「こいつはともかく、お、おれはそんなにおかしくはないっ! ……と、思うぞ。

 な、なんだよお前ら、その変な目線はっ!」


 「本気で自覚がないのだっったら、それはそれですごいな」

 「あの迷宮でぼっち王やってるのがまともだとか……」

 「わははははは。

  古参の冒険者の間でも一目置かれているのになあ」

 「特殊なアイテムやスキル、補正体質でもないのにアレって、十分変態の域に入っているよねっ!」

 「シナクの膝の上、心地よい」


「な、なんで遠ざかって内緒ばなししはじめるのかなー、お前らっ!」

「まあまあ、シナク。

 こういうときはな、飲め飲め。こいつはおれの奢りだ」

「ありがとう、マスター。

 マスターだけがおれの味方だ。

 ん?

 マスター、これ、なに?

 甘くておいしいんですけど?」

「気に入ったか?

 試しに作ってみたカクテルなんだが……」

「うん。うまい。一気にいけるし……。

 マスター、これ、もういっぱいっ!」

「おっ、おい……。

 大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫大丈夫。

 おれ、今まで酒をうまいと思って飲んだことなかったけど、これはいけるなあ」

「いや……作れといわれれば、作るけどよ……。

 ほい」

「よしっ。

 ……ぷはぁっ!」

「いっきにいったっ!」


 「ねえねえマスター、あれ……」

 「ああ。

  口当たりはいいけど、それなりに強いはずなんだけど……」

 「シナクくん、あんまり飲んだことないよね。ここでも」

 「体質的に弱いといってたし、あの三人組に無理に進められたときくらいだな。悪酔いするまで飲んだの」

 「そのときも、マスターと当事者以外、この店にいなかった。

  目撃者不在」

 「この店にも、飲みにくるというより、情報交換するために来ているようなもんだし……」

 「わはははははは。

  薄いお湯割りに、申し訳程度に口をつける程度だな、いつも」

 「これは、あれだな。

  本人も飲みたがっているし、今夜はとことん飲ませてみて、どうなるかみてみよう」


「マスター、おかわりっていってるのにぃ!」

「はいはい。

 ……いいのか? おれはしらねーからな、どうなっても……」

「ぶつくさいってないで、さっさと作る」

「わかったわかった。

 はいよ」

「マスター、今後、ぼっち王の杯が空になったら自動的に補充せよ。

 剣聖命令だ」

「なんだよ、それ。

 別に、逆らいはしませんけどね」

「いつまでそんな離れた場所に固まってるんだ? みんなこっちに来て飲めよ」

「わははははは。

 ここはまずコニスから……」

「い、いや。

 まずはいつもシナクくんにひっついているルリーカちゃんの出番だね!」

「ルリーカか、来い来い。

 膝の上でもどこでも乗っかっていいぞ」

「シナク、いつもはそんなこといわない」

「微妙に違和感を感じつつも、近づいていくのか」

「あっ。

 シナクくんが、ルリーカちゃんを膝の上に置いて抱きしめはじめたよっ!」

「わはははは。

 珍しいな。いつもはルリーカのしたいようにさせているだけで、自分からはいっさい手をふれないのに」

「……どうでもいいけど、お前らシナクのこと観察しすぎだ。

 今もだけど、普段から」

「いいではないか、マスター。

 マスターは黙ってシナクのカクテルを作っておればよい」

「おお! これは珍しい!

 ルリーカちゃんが困った顔をしているよっ!」

「わははははは。

 シナクがルリーカの髪の匂いをかぎはじめた」

「ぼっち王にも、十分、変態の素質があるようだな」


 「ルリーカだって普段いきなりおれに抱きついたりおれの匂いを嗅いだりしているんだから、おれがルリーカにそうしたっていいだろ別に」


「でた。

 これが酔っぱらい特有の屁理屈ってやつだねっ!」

「しかし、幼女を抱きしめながら酒をあおり続けるショタというのも嘆美ではあるが一周回ってシュールな域にはいっているな」

「ハーシェルさんもなにいっているのかぜんぜんわからないんだよ!」

「わははははは。

 酔いが醒めたあとのシナクをことを想像すると、かなり面白いことになっているな」

「明日までシナクくんが今のことをおぼえていればね!」


 「だいたいだなおれって元々流れ者の冒険者なわけでそんなに期待されても困るんだよ。いつ気まぐれを起こしてこの町を離れるかわからないんだし、それでなくてもロストする危険は常にあるわけだし。なんだってみんな、そんなにおれを頼りにするんだよ。とくにここ最近のギルド。そんなにおれに金をかけてもこれから先、それに見合う働きが出来る保証はどこにもないんだぞ。だいたいにおいて討伐賞金なんてエンカウント率に左右される代物だ。運だ運。本人の能力や意思とは関係ないところで決定される賞金王だといわれても、はいそうですかと自信なんかつくもんかい。おれより強いやつなんてこのギルドの中にだってごまんといらぁ」


「シナクくん、エンドレスで愚痴りだしました。ルリーカちゃん、シナクくんにだっこされたまま抜けだすに抜けだせず、かなり居心地が悪そうです」

「シナク……あいつ、あれで、最近、ストレスが溜まってたんだな」

「わはははは。

 酒でそれが吐き出せるのなら、上等というもんだな」

「このぼっち王というのも、これでなかなか面白い人材ではあるな」

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