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78.せっとく(ぶつりてきな)

 迷宮内、某所。

 すっ。

「……お?

 おお……あっ。

 あれか……よく見えるな……」

「胡蝶が反応する距離よりも、さらに先って……たいがいよねぇ。

 この目と勘だけでも、いい買い物だわぁ……」

 とんとん。

「……ん?」

 ぱらっ。

『攻撃して、いい?』

「あ、ああ。

 いいけど……この距離から……」

「石弓、具現化!」


 どっ、ひゅゅゅゅーん……。


「……わっ」

「……術式の起動キーワードは、正確に発音出来るのね……」

 ぱらっ。

『練習した』

「……ずっと向こうで、何かがはじけたような音がしてたけど……。

 んー。

 ここからだと、なにがなにやら……」

「近づいて、確認してみましょう」

「そだな」


「……おー。

 すげぇな。

 この暗さとあの距離で、見事に命中……」

「頭が、こう、内部から爆散しているわねぇ」

「命中以上だな。

 これは……眼からかなり内部に入り込んで、そこで爆発したものと思われる」

 ぱらっ。

『爆裂弾』

「爆裂弾といっても、体表で爆発するのと体内で爆発するのとでは、効果的には大違いだからな」

「あの石弓の大きさからして、弾頭はスリング用のものよりも一回り以上大きいだろうしな。

 重くて、その分貫通力もある」

「戦闘だけなら、この三人でも十分にやっていけるものと思われる」

「迷宮でやっていいくための細かいコツとかは、おいおいおぼえてもらうさ」

「わたしたちもぉ、ちょうど後衛が欲しかったところだしぃ、ちょうどいい感じねぇ」

 ぱらっ。

『よろしく』

「よっしゃあ!

 これで戦力も倍増以上だぁ!

 この調子でどんどん先いくぞぉ!」

「ハイネスが軽いのはいつものことだからぁ、気にしなくてもいいのよぉ」


 迷宮内、臨時修練場。

「だいたいだなぁ。

 虫系ってのは出はじめると立て続けに出て来るんだよ! わんさかわんさか!

 そんなもんをいちいち相手にしてたら、あっというまに取り囲まれて袋叩きだぁ!

 薬物で減らすだけ減らして、それでも生き残っているやつだけを相手にする方がよっぽど手間が省けるってもんだろうがぁっ!」

「数を減らすことまでは否定してねーだろっ!

 あの虫除けな。確かによく効くわ。

 だけどな、同じ虫系でも図体がでかいのには効きが悪くなるんだよ!

 今以上に毒性の強い薬物を無分別に使えば、こっちにまでとばっちりが来るだろうがおらぁ!」

「虫系ってのは、あれだぞ。

 分類でいえば無脊椎だ。原始的な分、生命力が強くて生半可な攻撃では黙らせられないんだよぉ!

 多少攻撃力に自信があっても、人力であれを沈黙させるのには時間がかかるぞ!」

「多少じゃねーよ!

 絶大なる自信があるんだよ、こっちは!

 おめーみたいな軽戦士じゃねーしな!

 どんだけでかくてもたかが虫を潰すのにそんなに時間がかかるわけねーだろぉ!」

「戦闘に不慣れな新人さんにもおっさん並の攻撃力を期待しようってのか、ああんっ!

 絶対無理だろぉっ!」

「だから、新人の教育係なんて柄じゃねーっていってんだろうっ!

 さっきからぁっ!」

「…………おし。

 おーし。

 そんなら、勝負だ。

 いや、賭だ!」

「賭……だと?」

「おうよ。

 けん……じゃなかった。

 おれとお前が模擬戦をして、だな。

 おれが勝ったら、今後、大人しくこちらのいうことを聞いてもらい、新人さんの研修にも全力で協力してもらう。

 お前が勝ったら、この場で放免して今後この手の仕事に関わらないでいいようにしてやるよ」

「……ほぉー。

 面白い提案だが……ぼっち王。

 お前は軽戦士だ。

 ちょこまかと逃げ回ったら、いつまでも勝負がつかねーんじゃねーか?」

「だから、模擬戦っていってんだろ。

 ご自慢の攻撃力でおれをどうにかできたら、お前の勝ち。

 だから、お前の攻撃はことごとくまともに受け止めてやる。

 ただし……それでも無事におれが立っていられたら、そんときは反撃させてもらうぜ」

「一手づつ交互に攻撃を応酬するわけかっ!

 ははっ!

 いいだろう!

 それなら……重戦士のおれの方が断然有利だからな!」

「よし!

 はなしは決まった!

 さっさと装備を調えろ!」


「……あのー……。

 リンナさん。

 いいですか? 止めなくて……」

「まあ、古参の誰かがいつかは暴発するものと予測していたからな。

 シナクがやらなければ拙者がやったところだ。

 それにな。

 あの手の単細胞には、理屈ではなく体で格の違いをわからせた方が、断然手っ取り早い。

 それよりも、ほれ。

 そちらの帽子を持って隣に立ってろ」

「え?

 ええ?」

「さーさ、突発的にではあるが、こうして模擬戦がはじまったわけだ!

 どちらが勝つにせよ負けるにせよ、このあとは恨みっこなしで飲み会なぞを催そうと思っている。

 ただし、その料金はシナクとゴドラ、両名のどちらかを応援したか、その敗者を応援した者に負担をしていただこう!

 シナクが勝つと思う者は拙者の兜に、ゴドラが勝つと思うものはこちらの……あー……」

「カラス、です」

「カラスが持つ帽子に、それぞれの掛け金……ではなかった、応援する意志を示して金子を投げ入れよ!

 拙者は、シナクの勝ちに金貨三枚を投じる。

 さあ、張った張った」

「……ぼっち王に金貨だ!」

「いや、あえて攻撃を避けないってことなら……ゴドラの目も十分あるぞ!」

「本命、ぼっち王に金貨!」

「おれは、ゴドラにしておく!」

「ゴドラだ。

 ぼっち王ってやつ、いつも両脇に女をひきつれて、前から気にくわないと思ってたんだよな」

「おれもゴドラだ。

 タフさと力なら、断然ゴドラだろう」

「おじさんは趣味じゃないから、ぼっち王さんに銀貨!」


「準備はいいかぁ!

 ぼっち王!」

「さっさとしろや! 短足おやじぃ!」

「ぬかせぇ!

 機銃、具現化ぁ!」


 ……ダダダダダダダダダダ……


「……え? ええ?

 いいいい、いいんですか、あれ!

 リンナさん!」

「よくみていろ、カラスとやら」

「……あ……。

 平然と……」

「特注の複合防御術式は、伊達ではないわ。

 あれは、特に飛翔体避け性能に優れているからな。

 弾道を逸らすなぞは、造作もない。

 また、あの程度の負荷に耐えきれぬようでは、実戦でも使い物にならん」


「わははははは。

 どうした、ゴドラ!

 それで終いか?

 なら……おれのターン!」


 ひゅんっ。

 ごどぉっ!


「……え? え?」

「見えなかったか?

 シナクが、投げ短剣を投じ、ゴドラの兜に直撃した。

 鋳物で切れ味はないが、大きさの割に重量はあるからな、あれは。

 頭部に直撃すれば、たとえ兜ごしであっても無事では済まないはずだが……」

「あ……ゴドラさんが、尻餅をつきましたね。

 頭を振って、立ち上がろうとしています」

「……普通は、脳震盪を起こしてそのままダウンする流れであるが……。

 流石は重戦士、タフなことよ……のっ!

 凍結銃フリーズ!」


 だんっ!


「……ひっ!」

「一対一の勝負の場で、無粋な真似をするな!

 他にも邪魔立てをするものがあれば、容赦なく呪術銃で精神凍結をかけるものと思え!

 肉体に悪影響を与えるものではないが、精神体に直接作用する呪術を込めた弾丸だ!

 それも対モンスター用に調整してあるから、ヒトがまともに食らったら数日は前後不覚になるぞ!」

「……リ、リンナさん……。

 ゴ、ゴドラさんが……立ち上がりました」

「……なんとまあ。

 そのまま寝ていた方が、いいものを……」

「ゴドラさんが……あんな大きなメイスを振りかぶって……」

「あんな大振り、避けるのは簡単なのだがな……」



「……うぉぉぉぉぉっ……」


 ごっおっっっっんっ……。


「おらよ。

 予告通り、頭でまともに受け止めてやったぜ」


「……シナクさん、無事……なんですか?」

「兜の性能もあろうが……メイスの動きにあわせて、膝やら背筋やらを微妙に動かして衝撃を吸収したようだな。

 すべての力を逃せるわけではないが、来るタイミングが見えているのなら、それに合わせて肉体で緩衝するのは難しいことではない」


「ん、じゃあ……。

 今度は、こっちの番……だなぁ!」


 ごずんっ!


「……ゴドラさんの胸元を捕まえて……。

 兜対兜の、ヘッドバッド……。

 ゴドラさん……今度は膝を折って崩れ落ちたまま、動きません」

「兜の中で白目を剥いて、目でも回していることであろう」

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