23.けんせいはふらちなよるのじょおう。
「……疲れた」
「シナク、今日は死んでる」
「ルリーカか。
しゃべって、体中の寸法採られて、しゃべって、走ってタイムとられて……やっている最中はどうってことなかったけど、この店に入ったとたん、どっと疲れが……」
「ルリーカも、今日は一日、あちこちに転移陣を設置してきた。
迷宮内の移動を効率的にするとかで……」
「そっちもおつかれー。
あれだな、普段やりなれてないことばっかやらされると、いろいろと来るものがあるな……」
ぞくっ。
「……なんだ、これ?」
ブオンッ!
「捕まえそこねたかっ!
さすがはぼっち王と呼ばれるだけのことはあるっ!」
「なっ! なんだよっ! あんたっ!
人がくつろいでいるときに、いきなり……」
「ふははははっははっ。
知らないか? 知らないのか? このあたしを知らないのか?」
ブン! ボォンッ!
「知らねーよ!
いきなり後ろから抱きついてくる痴女に知り合いはいねーよ!」
「……おーい、おまえらー。
お願いだから、店内で追いかけっこするのはやめてくれー……」
「そういうことは、マスター!
この痴女にいってくれ!」
「ふはははっ。
さすがにはっしっこいなぁ、ぼっち王!」
「うしろから、いきなりシナクに抱きつくのはちじょ?
ちじょってなに?
ルリーカも、ちじょ?」
「あと何年かしたら、詳しく解説してやるから!
ルリーカ、まずはこの痴女をなんとかてくれー!」
「いい加減、勘弁してやれや、ハーシェル」
「ハーシェル、ひさしぶり」
「うむ。
息災であったか、ルリーカ、マスター。
ようやく医者から許可がでてな、今宵はひさかたぶりに飲みに来た」
「……はぁ、はぁ、はぁ」
「それで、ハーシェル。
その後の経過はどうなんだ?」
「みてのとおり、無事といえば無事。
もとより、これで三度目になるが、出産というのはいくら経験してもたいへんなもんだな。
なにしろおま(piiiiii)が裂けて赤子が出てくるわけで、まだ縫い合わせた糸も抜けていないわけだが、こちらも禁欲生活が何ヶ月も続いた後なのでいてもたってもいられず……」
バタンッ!
「……マスター、こっちにうちのかーちゃん来てないかっ!
まだ安静にしてろっていわれているのに行方不明に……」
「おう。
来てるぜ。見ての通り、ここに」
「かーちゃん! いきなり消えるなよぉ!」
「はぁ……はぁ……。
バッカス?
え? ……ってことは……この痴女が?」
「うむ。
こちらはさんざん噂を聞かされているのだが、実際にあうのはこれがはじめてとなるな、ぼっち王。
我が名はハーシェル・ガダラス。
一応、剣聖の称号をいただいている」
「ほう……。
今代の剣聖ってのは、初対面の男に背後から襲いかかるのか……」
「……かーちゃん……」
「そんな情けない顔をするなよ、とーちゃん。まだ本番は無理だけど、あとで出来る範囲内で可愛がってやるから。
しかし、いわれていた通りの男だな、ぼっち王とは。
見た途端、思わず押し倒したくなるタイプの美形であった」
「だからって……いきなり、実践しようとするなよ……」
「このあたしから何度も逃げおうせた者がなにをいうか。
とーちゃんの友人でなかったら即座に決闘を申し込んでいるレベルだぞ。
ふははははっははっ……」
「フリーダム、かつ……はた迷惑なやつ……。
おい、バッカス!
おまえ、もうちょっとこの人の手綱、ちゃんと握っておけよっ!」
「わははははは。それは無理だ。
おれ、完全にかーちゃんの尻に敷かれているからな!」
「そこで胸を張るんじゃねー!」
「いや、おれとしてはかーちゃんの無事さえ確認できれば、あとはどうでもいいんで……」
「マスター。
ガラムを生のまま。大ジョッキでな」
「ルリーカも、同じのを」
「はい、いつものな」
「「かんぱーい!」」
「……こっちはこっちで、思いっきりマイペース進行だし……」
「……ぷはーっ! うめー! ガラムうめぇー! ひさしぶりだからなおさらうめぇー!
マスター! おかわり!」
「ルリーカも、おかわり」
「しかし、ルリーカは、あれだな。
初めてあったときから少しも育った様子がないな。
もう少しよく食った方がいいぞ」
「食欲は十分。
それに、小さいままでも需要がある、それはそれでステータスだといわれた」
「誰に? ファンだと?
……ああ。人夫どものことか。
あのロリコンどもには、あとであたしが天誅を下しておくことにしよう。
ほかの冒険者やらは、ちゃんとよくしてくれているか?」
「みんな、親切」
「そーかそーか。
誰かにいじめられたら、即座にこのあたしに知らせるんだぞ」
「いや……ルリーカの実力を知ってて、いじめようとするやつがいるわけねーし……」
「わはははははは。
うちのかーちゃんは、あれだ。かわいいもの全般の味方だ」
「おい、バッカス。
生まれたばかりのこどもとか他のこどもとか、ほっぽいといていいのか?
たしか、今度生まれたので三人目だとかいってたろ?」
「乳母が二人住み込んでいるし、何人か使用人もいるし……しばらく留守にしても大丈夫だけどな」
「……あっ……そうか。
おまえのかーちゃん、剣聖だとかいってたな。そりゃ、使用人や乳母ぐらいいないと不自然か……」
「わははははは。
いらないといっても押し掛けてきたり押しつけられたりするんだよ。
行儀見習いとかいって、無給で」
「そりゃ……剣聖様のところにしばらく世話になっていた、っていえば、それなりに箔がつくだろうからなあ……。
縁談とかも、だんぜん、有利になるだろうし……」
「わははははは。
いわれてみれば……うちに来る子は、だいたい、毛並みが良さそうなのばかりだなあ」
「おま……今、気づいたのかよっ!」
「わははははは。
おれはかーちゃん一筋だからなっ!」
「はぁ……。
こいつらとはなしていると、頭痛がしてくるな……」
ごぞごぞ。
「……マスター、水いっぱいくれるか?」
「はいよ」
「鎮痛剤って、こういうときも効くのかな……」
「やっほー!
みんな揃っているかなぁー!
……あー! ハーシェルさんだぁーっ!
ひっさしぶりぃー!」
「おう、コニスか。
息災であったか?」
「……また、騒がしいのが来た……」
「元気げんきー!」
「ところで……コニスがレニーがいっしょでないのは珍しいな」
「ああ。あれ、レニーくんは今、迷宮の件でしばらく王都にいっているんだね!
裏工作もといロビー活動というやつだよっ!」
「なるほど。あれも貴族どもの弱みをかなり握っているからな。適任ではあろう。
国王の馬鹿息子をブン殴って出奔していなかったら、今頃、国政を左右する座にいたでろうに……」
「幸運補正持ちだから、どこでなにをしても不幸になることができないって本人はいっているけどね!
今の冒険者生活も、それなりに気に入っているようだよ!」
「……考えてみると、なんだかとんでもないやつらばっかりいるんだな、このギルド……」
「ところで、そこのぼっち王。
聞くところによると、このあたしにとんでもない人物を紹介してくれるそうじゃないか」
「紹介?
……ああ、アレのことね。
紹介するまでもなく、アレの噂をしていれば、聞きつけて勝手にどろんと現れてくれるはずだけど……今夜は、どうかなあ?」
「なにか問題があるのか?」
「問題……というか、体調が。
あの人、今朝までは完全に死んでいたからなあ……。
あ。
比喩ね、これ。まるで死んでいるみたいに、酔いつぶれていた、ってことで。
なんか、昨日、ルリーカと飲み比べしたらしいんだよね、あの人」
「二勝ゼロ敗」
「無謀な」
「無謀だよねー!」
「わははははは。
無謀だ」
「………………うっ……」
「本当に来た。
おーい! 大丈夫かぁー」
「……頼む……。
お……大声を出さないでくれ……。
頭に……」
「おお。これが噂の塔の魔女か!
ふははははは。
ちょと、どれ、この仮面兜をはずしてじかに顔をみせてみよ!」
「ちょ……そんなに揺さぶらないで……。
うっ……おぉおぉぉえぇぇぇぇ……」
「……うわぁー……。
仮面の中に吐いたぁー……」