71.かくしょのせんとう。
「……動いた!
意外に早いぞ!」
「こいつ……天井に張りついたまま、走ってやがる!」
「くそ!
動きに、追いつけねー!」
「……このぉっ!」
ごん。
「……落ちた!
いや、落としたのか?」
「攻撃範囲を拡大した楯で、鼻面をぶん殴った」
「上出来だ、グダイ。
このまま……」
ぶぉんっ。
「っち。
はずしたか!」
「いきなり頭は無理だ、ガイム!
まずはこの動きをどうにかしないと……」
「ちょこまかと……このぉっ!」
「ガイム、鎚を大振りしないで!
すぐ隣に仲間がいるのに……」
「頭に血が昇って、聞こえていないみたいっすね」
「……そこっ!」
ざっ!
「見事だ、ヒラズ」
「喉元に、一突き……か」
「そのまま、押さえ込んでおけよ。
今から、頭を叩き潰してやる……」
「やるんなら、早くしろ、ガイム!
こいつ、意外に力が強い!
長くは、抑えておけない!」
「……よっしゃぁっ!」
ぶぉんっ。
ぐしゃ。
「もう一丁!」
ぶぉんっ。
ぐしゃ。
「……は、は……やった!
やったぞっ!
こいつの頭を、叩き潰してやった!
みろよ、ピクピク痙攣してやがる……」
「……ふぅ。
どうにか、しとめられたようだな。
どれどれ。
ふむ。
この吸盤で、天井に張りついて……うぉっ!」
「グダイ! カラスを守って!」
ひゅん。
「……このぉっ!」
ざしゅっ。
「馬鹿!
こういうときは、体ごとぶつかっていけ!
斬りつけたって、突進する勢いは止められねーって!」
「いや、大丈夫」
がんっ!
「こういうのには、慣れている」
「楯持ちのグダイ、か。
見事」
「このまま……」
ぶぉぉぉんっ!
「……地面に、叩きつける。
みんなで、取り囲む。
合図したら、楯をはずすから、一斉に攻撃を加える」
「お、おう」
「任せろ」
「今度こそ」
「こいつ、頭を潰しても動いた。
別の場所に、副脳かなにかがある可能性がある」
「完全に動かなくなるまで、袋叩きにしろってことだな」
「では……楯を、はずす」
「おりゃあっ!」
「せいっ!」
「よっ!」
「……はぁ、はぁ。
流石に、ここまでやれば……」
「もう、ピクリとも動きませんね」
「はは。
見かけは……大蜥蜴だったのにな。
天井に張りついていたり、頭を潰しても平然と動いていたり……」
「流石は大量発生直後、ってところ、なのか?
初めて経験したが……確かに、質的に、これまでのモンスターとは少し違うような……」
「……終わりました?
終わりましたら、列の一番最後まで、下がってくださいね。
そのまま脇に寄って、休憩していてもいいですが……ちゃんと、最後について来てくださいね。地図もそのまま、書き続けるように。それもあとで参考にしますから。
では、後続の人たちは、このまま前進します。
今度は、第二班が最前に来ることになりますね。
このまま、油断なしでいきましょう」
迷宮内、某所。
「……やばい!
左右に避けよ!」
……ぶもぉー!
「わっ!
「……ひゃっ!」
ドドドドドドドド……
「……い、今の……」
「大きな……猪、みたいな……」
「頭が、金物で出来ていたけどな」
「あんなのにぶつかったら……」
「吹き飛ばされるか、ひき殺されるか……」
「初めてだな。
向こうからあんな勢いで突進して来るモンスターというのも……」
「そんなことより……いいのかな、あのまま通過させちゃって。
このまま放置すれば、別の所で被害を出すんじゃあ……」
「そうはいっても、おれも命は惜しいからな。
ギルドからも、無理はするなといわれているし……」
「その心配は、いらぬようじゃぞ。
ほれ。
よく、耳を澄ませてみよ」
ぶもー……ドドドドドドドド……
「「「「「「引き返してきた!」」」」」」
「応戦準備じゃ。
相手の姿形を確認しておるのだから、それだけ対応も取りやすかろう」
「そ、そんなこといわれましても……」
「ええい!
引き返してきた、ってことは、向こうはおれたちのことを殺す気満々ってこった!
式紙瓜坊、ありったけ用意しろ!
こっちに向かってくるんなら、十でも二十でも一斉に放ってぶっ飛ばしてやらあっ!」
「それでもどうにもならなかったら?」
「あの巨体に取りついての、肉弾戦よ!
あの勢いだと、飛道具なんか、用意している間にこっちが吹っ飛ばされるわっ!」
「それしかないか……」
「来たぞ!」
「「「「「「式紙瓜坊、いけぇ!」」」」」
迷宮内、某所。
「……なんだ、ありゃ?」
「どうやら、人形のようねぇ、ハイネス」
「どうやら、踊っているようだな」
「踊る人形、か。
あんなのも、モンスターに入るのか?」
「なにを今さら。
迷宮内では、人間に敵対的なモノはすべてモンスター扱いよぉ」
「問題は、あれが敵対的な行動をするかどうかであるな」
「こんなところでふらふら踊っているだけでも、怪しさ大爆発なんだけれどもねぇ。
ハイネス、マルサス。
警戒しつつ、近寄るわよぉ」
「おう」
「いつでも」
……ざっ、ざっ、ざっ……
「……ん?
人形の輪郭が、ぼやけて……」
「……おお。
これは……」
「あらあら。
これはこれは、面白い趣向ですことぉ。
わたしちも、自分自身と戦った経験はありませんしぃ……」
「出会った者の姿を写す、複製人形といったところか」
「誰が作ったのか知らないが、悪趣味だな」
「悪趣味には同感だけど……それより先に、もっとやるべきことがあるんじゃね?」
「ハイネス、マルサス。
来るわよぉ」
迷宮内、某所。
「……第二班は、リビングデッドの大軍、第三班は、メイキュメクラオオカミの群れ。
迷宮に出てくるモンスターとしては、取り立てて珍しい部類でもなく、そのせいもあってか、難なく、とはいかないまでも、どうにか切り抜けられてはいるなあ……。
ほんの数ヶ月とはいえ、迷宮での実戦経験は、伊達ではないってことか……」
「冒険者って、いつもこんな感じなんですか?」
「ん、そう。
だいたい、こんな感じ。
今回は、彼らのやり口を観察するのが目的だから、一戦いしたら下がって貰っているけど、いつもならそのまま連戦するんだけれどもね」
「……想像してたよりも、大変なお仕事なんですね」
「そのかわり、それだけ実入りもいいからね。
報酬と等価交換の危険だと思えば、こんなもんなんじゃないかな?
とかなんとかいっているうちに、第四班、終わったみたいだね」
「……ああ。
あれだけいた、大蟷螂をすべて……。
人間よりも、大きいくらいだったのに……」
「近寄らなければ、どういうこともないからね。
飛道具と術式を活用すれば、どうとでも……」
「その割には、みなさん肩で息をしているようですが」
「ざっとみで、三十体以上いたからね。
一人頭、六体前後の計算になる。
対応が遅れれば、こちらの懐に入られてやっかいなことになるし、彼らも必死だったんでしょ。
それでは、第四班の人たちは、左右によけて前に進む人を通してくださいねー。
それでは、お待たせしました。
第五班の方、前に出てください」
迷宮内、某所。
「へっ。
犬面の小人が、山犬に乗ってやがる。
おい!
リンナさんよ!
こいつら、ヒト型で道具も使っているけど、やっちまっていいんだよな?」
「おんおん吠えて殴りかかってくるあれが、おぬしには友好的な種族に見えるのか? はなしが通じそうな相手に見えるのか?」
「みえねーな! ぜんぜん」
「では、そういうことだ。
遠慮なく、摺り潰せ」
「……ほいよ!
野郎ども、いくぜぇ!」
「「「「……おう!」」」」
「……やれやれ。
暴力的なことにしか適性がない癖に、妙なところで名聞を気にすることよの」