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67.じょうずなねこのつかまえかた。

「ふむ。

 ゼグスくんが帰還したら、詳しいことを聞いてみることとしよう」

「ええっと……これで全員、ちゃんといるよね!

 それでは、ルリーカちゃん!」

「ルリーカ!

 昨日いったとおり、一日一回、こちらに経過報告をしに来るように!」

「わかった。

 それでは、転移する」


 しゅん。


「さて。

 いよいよ、お仕事再開だな……」

「シナクさん!」

「ルテリャスリ王子!」

「遅いですよ、もう。

 準備万端整えて、事務員とか教官の方々とか、総出で待ちかまえていますしから……」

「例の術式が、ようやく実用化までこじつけました!

 あとは売り出すだけとなっておりますが……」

「ああ、いきましょう。

 では、リンナさんもご一緒に……」

「では、参ろうではないか。

 いよいよ、この余の快進撃がはじまるのだ!」

「……いっちゃいましたね。

 おれたちは、どうする?」

「荷物を置いて、それから管制に出頭して指示に従う。

 いつもの通りだな、ハイネス」

「わたしたちは、放免されてからまだ三ヶ月経っていないしぃ、通常の探索業務になると思うけどぉ……」

「わらわは、新人パーティの後見役を振られそうだの」

「おれもだ」

「さて、それではみなさん……」

「……休暇はおしまい!

 慌ただしい迷宮の日々の再開だね!」


「ダリル教官にトエル教官、おひさしぶりです。

 ひょっとして、こっちを手伝ってくれんですか?」

「そうしたいのは、山々だがな。

 通常の要研修者受け入れも、止めるわけにはいかないし……」

「今でも、毎日百名以上の志望者が来ますから。

 研修をやる過程で、迷宮内の他の仕事に就く人も多いんで、そのすべてが冒険者になるわけではありませんが……」

「それにしたって、商売繁盛業務多忙、ってわけか。

 では、ここへは……」

「見学と、それに軍籍冒険者の養成方法も確認して来たので、その情報なども伝えに来た」

「わざわざ、ありがとうございます」

「あの、シナクさん。

 待機している事務の方へ、なにかお言葉を……」

「ああ、そうですね。

 では、ちょっと失礼して、まずはこっちを片づけて来ます。

 ええ、みなさん。

 みなさんにとっては急なお仕事でいろいろ戸惑う部分も多いと思いますが、お仕事自体は単純なものなので、そんなに気負わないでちゃっちゃとやっちゃいましょう。

 まず、やっていただきたい事は、籤引きを作ることです。

 これは、これから集まってくる即席教官候補者の適正を見極めるため、これから一度、パーティを組んで実際に迷宮に入ってもらいいます。その組み合わせを決めるための籤です。

 今日の流れをざっと説明しますと……」


「……術式が長くなったため、それを印刷する紙も大きくなり、いろいろ試したんですが、結局、折り畳んでこの袋にいれて持ち運んでもらう形に落ち着きました。これが一番コンパクトで邪魔にならない形にだという判断です」

「うむ。

 それは、いいのだが……前に注文した通り、この術式は、個人認証機能も間違えなく含んでいるのだな?」

「もちろんです。

 王子がおっしゃったとおり、事故や盗難防止のために必要ですし、この術式の所有者を完全に把握していることは有事の際の保険として機能するわけですから、ギルドとしましてもおろそかには出来ませんでした。

 事実上、この術式の使用者はギルドへの登録が必須となるでしょう」

「複製される心配はないのか?」

「技術的には可能ですが、この迷宮でなくては使用できない代物なわけですし、あまり意味はないでしょう。

 一応、単純な複製を防止するため、そのまま書き写してもそれだけでは機能しないような仕掛けは施してありますし、これだけ複雑な内容を完全に解析し理解するのは、知識が豊富な魔法使いでもかなりの時間と労力を要します。つまり……」

「理論的には複製可能であっても、実際にやるとなると割が合わない、ということか?」

「そういうことになります。

 それで王子、これが、販売の際に告知する注意事項になるわけですが……」

「……うむ。

 遺漏は、ないようだな。

 では、さっそく販売の開始を……」

「デモンストレーションの会場とそのための人員は、すでに手配済みです。

 王子の裁可さえいただければ、すぐにでも販売を開始いたしますが……」

「ずいぶん、手回しがいいことだ」

「これほど高価な、そして売れることがわかっている商品ですので、ギルドとしても疎かにはできませんよ。

 デモンストレーションの会場は、こちらになります」

「……なんと! 迷宮入り口か!

 多くの転移陣への通行路となり、外来者も多く通りかかる場所であるが……」

「実際に使用する冒険者だけではなく、この際、外から来たお客様に対しても、こちらの実力をアピールしたいと思いまして……」

「音は出る。破壊力はある。

 それを実際に、目の当たりにする。

 ……なるほど、確かに……まぎれもなく、これは……デモンストレーション、であるのだな」


「帝都行きの転移陣の前は、こんなに朝早くから行列待ちですか?」

「転移自体は一瞬で済む。

 この行列も、すぐに捌けることだろう」

「これだけの人数が決して少額とはいえないお金を支払っているのですね、お父様。

 それも、今日だけではなく、毎日のように……」

「そういうことになるな。ここのギルドにしてみれば、迷宮様々だろう。

 われら利用者にしても、長旅が一瞬で終了してしまうのだから支払うだけの価値はある。

 よほど急ぐ場合でもない限り、いちいち魔法使いを雇うわけにもいかないし……」

「……あ」

「どうした? ミルレイ」

「あんなところに……あの子が……。

 お父様、少し、列を離れても大丈夫ですかね?」

「ううん?

 あの……猫のことか?

 どこから紛れ込んできたのか知らないが、どうせ野良だ。放っておきなさい」

「いえ、お父様。

 少し、確かめたいことがあるだけですから。

 ちなみに……お父様にとっては、あの子、どう見えます?」

「灰色の毛皮の……みすぼらしい、痩せこけた猫に見えるな」

「そうですか、やはり……」

「あっ! ミルレイ!

 こら! いくんじゃない!

 ああっ! くそっ!

 今、列を離れるわけにはいかんし……」


「やはり、あの子、少し……いいえ。

 かなり、おかしいですよね?

 急に、現れたり消えたりしますし、どうやら、見る人によって、違う姿に見えるようですし……猫に見えるということは、共通しているようですが……。

 こうしていると、のんびり毛繕いをしている真っ白い子猫にしかみえないんですが……。

 こんなに大勢の人が行き来しているのに、わたくし以外の人たちがあの子に注意を向けない……それどころか、あの子を避けるようにして歩いているのも不自然ですし……。

 驚かさないように、そぉーっと、そぉーっと……」


 「……あー、あー。

  ただいまマイクの試験中、ただいまマイクの試験中……」


「……わっ!

 なんです?

 ……ああ、音声を拡大する魔法、なんですか?

 あっちの方で、なにかイベントでもするんですかね?

 こんなことにもいちいち魔法を使うなんて、迷宮というところは本当にやりたい放題です。ここに来るまではピンと来ませんでしたが、魔力を使い放題、って、こういうことなんですね。

 それより……あの大声でも、あの子、相変わらず、のんびり毛繕いしています。

 これは……ひょっとすると、ひょっとするかも知れませんよ?

 うまくすれば……あの子を、捕まえることが出来るかも知れません」

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