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66.ねこみみのりゆう。

「そうか。

 それでは、みな、明朝に帰ってしまうのか。

 もう少し、ゆっくりしていってもいいのに……」

「もう十分、骨休みさせていただきましたよ、剣聖様。

 明日以降は、おれたち抜きの家族水入らずで楽しんでください」

「残念だが……しかたがないか。

 もう少しだけでも、長く楽しみたかったのだが……」

「迷宮で、仕事が山積みになっているようなので、これ以上長居しても差し障りがありますので」

「では……今夜くらいは、呑んで騒げ!」


 しゅん。


「「「「「……猫耳……」」」」」」

「……え?

 あれ?

 ここ……どこ、ですか?」

「剣聖様が持っている山荘の中、だけど……。

 きみこそ、誰? それと、その耳は……」

「わ、わたくしは……と、通りすがりの女の子で……ここに来たのも、たまたま偶然通りかかっただけといいますか、自分の意志ではないことは確か……だと、思いますよ。ええ。なんといっても、わたくし自身にもまだ行き先を制御することが出来ていないわけでして……」

「まま。

 まずは、落ち着いて……。

 きみは、魔法で転移してきたのか?」

「魔法……なんでしょうかね?

 気がついたらあちこちに飛んでいまして、ここへ来たのもたまたま、だと思うのですけれども……」

「つまり……自分の意志ではない、ということ?」

「ええ、ええ。そうですとも。

 でなければ、このように食卓の上に昇るなどという不作法なことをこのわたくしがするわけが……。

 あ。

 とりあえず、ここからは、降ろさせてもらいますね。

 ええっと……畳敷き、ということは、履き物も脱いでおいた方がよろしいのでしょうか?」

「……なんか調子狂うな、この子……。

 で……今の発言をまとめると、きみは、自分の意志によらず不定期にあちこちに転移をしている最中である……ということで、いいのかな?」

「飲み込みが早くて助かります!

 今までに出会った人は、いくら説明してもぜんぜん理解してくれなくて……」

「……あー……全裸。

 こういうのは、あんたの領分だろう?

 どういう現象か、説明してくれると助かる」

「……奇妙な具合に、混ざり合っているな……。

 量子力学的に……いや、存在論的に、というべきか……」

「……なんじゃ、そりゃ?」

「これはな……猫だ」

「猫耳だ……では、なく?」

「猫と、どこぞの娘が変な風に重なって、このようなものになり果てたのであろう。

 娘であると同時にあまたの世界をさすらう猫でもある」

「……猫耳、ですか?

 あっ。

 本当だ!

 人間の耳がなくなって、頭の上にぴょこんと……」

「今まで気づいていなかったのかよ……」

「なにぶん、このような状態になってから、まだ間もないものでして……」

「小娘。

 服装からして、それなりに裕福な出であろうが……名は、なんというのか?」

「あ、はい。

 わたくしの名はミルレイ……ギニオス商会会頭の娘、ミルレイ・ギニオスともうします」

「……ギニオス商会会頭の……娘さん、ですか?」

「知っているのか? レニー」

「ギニオス商会といえば、国と国同士の通商とかにも発言力を持つくらいの大商会だね! 小売りとかはやっていなんで、一般にはあまり名は知られていないけど!」

「その、大商会のご令嬢が……なんでまた、猫耳に……」

「さ、さあ……。

 宿屋の部屋で本を読んでいましたら、いつの間にか、膝の上で猫さんがうたた寝をしておりまして……邪険に払いのけて起こすのも可哀想だなーとか思っているうちに、うとうととしていたら……その次に意識を取り戻したときには、どことも知れない薄暗い場所にいたり、あちこちに、転移、というのですか? その、とにかく、不定期にあちこちに移動しながら、今に至っております」

「小娘。

 記憶は、明瞭か? そのような状態になってから、どれほどの時間が経過している?」

「……記憶……それに、時間、ですか?

 ええっと……記憶の方は、明瞭であると思います。

 そして、時間の方は……はて?

 そういえばわたくしは、もうどのくらこのような状態になっているのでしょうか?

 つい先ほどからのような気もしますし、もっとずうっと前からのような気もしますし……」

「つまり、ぜんぜん意識は明瞭ではないと。そして不確定な要素が多すぎるようだ。

 いいか、娘。

 その漂流状態が落ち着いたら、だな。

 冒険者ギルドの窓口を訪ねろ。

 そうすれば、大金が……」


 しゅん。


「「「「「……消えた」」」」」

「おい、全裸。

 今の、どういうことだ?」

「どっかの小娘が、どうした加減が例の猫と奇妙な具合に入り交じってしまったようだな。

 古い怪談とかよっくであるだろう?

 転移魔法を使ったときに蠅が混じって怪奇蠅人間にかるとか、さ。

 あれの、猫版だな」

「わかったような、わからないような……」

「そもそも、転移魔法によって二種類以上の生物の資質が入り交じることはあり得ない」

「そうなのか、ルリーカ?」

「そう。

 現在の術式は、どこからどこまでを転移するのかという範囲指定に関する術式が、事故防止のためにとても厳格に作ってある。転移先を誤る事故は起こりえるけど、転移元の物質が混合することは、まずありえない」

「人が制御する魔法に関しては、その通りといっていいのだが……なにぶん、相手が正体不明の猫だからな。

 あれが、どういう原理や術理で世界や時空を渡り歩いているのか、根本的な部分からして、現状、まるでわかっていないわけだし……。

 こういってはなんだが、あれについては、どんなことが起こりえるのか起こりえないのか、その判断さえ、確かなことは何一ついえない。

 現に、ああして半分猫になった小娘が勝手気ままにさまよっているわけだし」

「なんか、いろいろ……どう判断すればいいのか、よくわからないな、あれは……」

「本人はあまりショックを受けた様子はないが、見つけたら保護してやってくれ。あくまで、出来そうだったら、のはなしになるがな。猫探しのクエストをギルドにも発注しているから、保護してギルドに連れて行けば、あれでも大金に化けるぞ。

 あの様子だと……小娘の意志とは無関係に、あちこち転移しているらしいし、あの小娘が自分の意志で居場所を固定できるようになるまでは、それも難しいとは思うが。

 将来……というのは、あの小娘からみて未来、ということになるわけだが……おそらく、もう少し慣れれば、あの小娘も自分の居場所や転移先を、もう少し意識的に制御できるようになるだろう。なってくれなくては、困る。わたしもだが、あの小娘が一番困る。

 あの状態だと、あの小娘自身の自己同一性もどこまで保全されうるのか、まるで予測が出来ない」


 翌朝。

「……頭、いてぇー……」

「眠い」

「……ううっ。

 吐きそう、なのである」

「ハイネス、マルサス、それに王子様。

 みんな、しゃんとしなさい」

「こんなに朝早くから、起こさなくても……」

「先輩方はなにかと準備があるっていうし、転移魔法を使える人はルリーカさんしかいないし、わたしたちも歩調を合わせる以外に、やりようがないでしょう。

 ご相伴させていただいている身なのですから、その程度のことはわきまえなくては……」

「……あれ?

 塔の魔女さんは?」

「グゼスくんを伴って、昨夜のうちに帰りました」

「塔とかいう場所へか?

 機会があれば一度、見てみたい気もするが……」

「カスクレイド卿。

 あれのことだから、なにかの機会に頼んでみたらあっさり招待してくれるのかも知れませんが……特に面白いものが見られるってわけではないっすよ、あそこ。

 意味不明なものばかりで」

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