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65.めいきゅうごろしのけついと、ちゅういじこう。

『調査とか調整とかには、どれほどの日時を必要とするのか?』

「やってみなくてはわからん。

 生命というのはだな、お前さん方が想像しているよりはよっぽど精妙に出来ているんだ。

 ことに、今のお前さんのように、異物を取り込んで妙な具合に混ざり合っている例というのは、ほとんどない。

 可能ならば、解剖した上で標本にでもして居間にでも飾っておきたいところだな」

『解剖されたり標本になるのはいやだな』

「だから、時間がかかるし、どのくらいかかるのかも予想できん。

 そのくらいは、覚悟して貰おう」

『ほかに、仕方がないのか?』

「ほかに、仕方がないのだ。

 第一……お前さん、そんなに急いで、これからいったいなにをするつもりだ?」

『迷宮を、殺したい』

「ほう。迷宮を、ねえ」

『ここで、様々なはなしを聞いて……あれは、やはり不自然で、平然とあそこにあってはならないものだと思った。

 あの魔王軍でさえ、見方を変えれば迷宮の魅力に抗しきれなかった被害者といってもいい』

「他でもないお前さんが、そういうか」

『おれだからさ。

 幸か不幸か……魔王の残骸とやらにとりつかれたおかげで、今のおれには常人にはふるえないような強力な力を持つことになったらしい。

 それを、全力で、迷宮にぶつけてみようと思っている。あれどこまで通用するのかは、わからないが……』

「ま、お前さんの人生だしな。

 好きにするさ。

 そうなると……当面は、やはり冒険者として過ごすことになるのか?」

『目的に合致しているし、おれ自身の生計も、なんらかの方法で立てなければならないからな。

 そのためにも、おれの力を可能な限り引き出せるよう、調整することをお願いしたい』

「日常生活を問題なく過ごせるようにする方が、こちらとしてもよけいな手間がかからなくていいのだがな。

 ま、お前さん自身が極めて珍しい標本であることは確かだし、それだけの価値はあるか。

 協力は、約束しよう。

 しかし、死後、その体は……」

『解剖でも標本でも、好きにするがいいさ』


「今日もいっぱい釣れたんだね!

 入れ食いだったよ!」

「やっぱ、レニーの幸運補正が効いているのかな?」

「それだけではないでしょう。

 もともと、人があまり来ない場所だから、魚も多いし、擦れていないんですよ」

「ところで、さっきまでマルガさんが来ててな、いろいろ打ち合わせしていたんだが、おれたちは明日、帰ることにした。

 ぼちぼち、向こうも落ち着いてきたようだし……」

「通常業務に復帰、ですか?」

「半分くらいはな。

 こっちは、例の教官の教官役、その他の冒険者は、新人さんたちの監視役に回されるから、完全に通常業務ともいえないけど……迷宮探索とモンスター討伐は再開されるわけだから、通常業務はほぼ復活だ」

「今は隔壁があるから、よほどのことがない限りモンスターが外に出てくることはないと思いますが……それでも、何にもしない日が長く続くのも、あまり関心しませんしね。

 ぼくたちも、明日、お暇することにしましょう」

「おれたちは、教官の教官役、その他は、新人パーティの監視役。

 いずれにせよ、しばらくはバタバタしそうだな」

「魔王軍なんて代物を相手にした直後でもこの程度の混乱で済んでいるというのが、実は凄いことなんですけれどもね。

 うちのギルドは、こと危機管理能力という事においては、とても優秀ですよ」

「迷宮なんて訳の分からないものを長く相手にしていれば、いやでもそうなるって」

「そうですね。

 異常な事態に慣れっこになってしまいますから……。

 ところで、教官の教官役の件ですが、リンナさんとお二人で大丈夫なんですか?」

「欲をいえば、いくらでも人手は欲しいけどな。

 誰にでも勤まるってもんでもないし、事務仕事についてはギルドにそれなりの人数をつけてもらったし、あとは実際にやってみるだけだな。

 ま、一方的にこっちが教える講習というよりは、意見交換会的な要素が多いくらいだから、そんなに不自由はしないだろう。

 不安材料があるとすれば、今回指名された連中の癖が強いこと、くらいかな?」

「……ああ。

 これは、また……」

「ほとんど、余所で冒険者の経験がある人ばかりだね!」

「つまり、そこいらのごろつきと紙一重の連中ってわけだ。

 この手の連中は、最初にこちらの実力を印象づけちゃえばかえっておとなしくいうことを聞いてくれるから、そんなに問題はないと思う。

 要は、最初に突っかかってくるやつらを黙らせればいいわけで……」

「シナクさんとリンナさんなら、確かにその点では、安心できますけどね」

「安心確実の実力行使だね!」

「あと……明日に間に合うかどうかはまだ確定していないが、近く、また、新アイテムのお披露目があるそうだ」

「今度は、どんなもんですか?」

「ピス族の歩兵用機関銃を具現化する術式、それに、縮地といって、移動効率を飛躍的に効率化する術式だそうだ」

「攻撃力と機動力が底上げされるわけですね?

 迷宮攻略が、いっそう効率化されますね」

「うまくいけば、そうなるな。

 特にまだ実力を伴わない新人たちにとっては、朗報だ。

 あくまで、使いこなせれば……ということが前提になるだけど……。

 おれもさっきはなしに聞いただけで実物を試したわけではないから、注意点その他については今のところ不明。

 多少は、想像できるけど……」

「例えば?」

「ピス族の機関銃っていったら、この間の魔王軍戦のときに使ってたやつを小型化したようなもんだろ?

 あんなにものすごい勢いで弾丸が発射されてたら……従来の、攻撃範囲を拡大する術式とは違って、すべての攻撃を使用者が制御できないと思うんだよな」

「つまり……一度、攻撃をしてしまえば、キャンセルは出来ないと?」

「ああ。

 実質、射線の前には誰も出られないと思う。でないと、同士討ちになる。

 で……あの威力だろ?」

「仮に、味方に当たったりしたら……」

「洒落にならん被害になるな。

 おそらく、生死を分けるようなことになるだろう」

「取り扱い注意、というわけですか」

「威力の大きさと引き替えになるな、そのあたりは。

 で、もうひとつの縮地についてだが……こいつは、身体の各パラメータを補正するわけではなく、足元の空間を使用者の意志で操作する術式だそうだ。

 だから、他の補正術式とは違って、使用者の体に負担をかけることがない。

 この点は、どちらかというと長所なんだが……」

「あまり気軽に使えすぎても、ですか?」

「ああ、そこ。

 ほいほいお気軽に馬以上の早さで走れるようになると、今度は細かいところに目が届かなくなる。

 ただでさえ、薄暗くてなにが待っているのか予想つかない迷宮で、注意力不足は……」

「ことによると……かなり、怖いですね。

 特に、慣れないうちは……」

「こっちがモンスターの姿を認識する前に、不用意にモンスターに接近しちまう……なんて事例が、頻発してしまうんじゃないかなあ、と……。

 ま、一応、マルガさんにもそういって、注意は即しておいたけど……」

「彼女はなんと?」

「少し前までとは違って、今、迷宮には帝国の偉い医学者や医者の卵がわんさかつめかけているから、命に関わらない程度の負傷者だったらむしろ歓迎されるってさ。

 なんでも、向こうさんは最新の治療法を試したくてうずうずしているんだそうだ」

「実験台、ですか?」

「そうなりたくなかったら、せいぜい自分たちで気をつけろってこったな」

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