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60.むりげーこうりゃくかいぎ。

「もとより、量がネックになることは、想定済みであろう。

 やはり昨日、はなしたように、二百人で分担して選考していくのが効率的であると思うが……」

「ですね。

 とりあえず、この場では一通り目を通しておきますが……人数がいないままそれ以上のことをやろうとするのは、やはり無謀だ。

 しかし……ここに書かれた情報、すべてを教本に盛り込むことは無理にしても、なんらかの形で活かしたいという気持ちもあるなあ。

 限られた状況でしか活かせないものも多いけど、みんな、それなりに有効ではあろうし……」

「整理して、修練所の資料室にでも置いておくしかないの。

 索引のつけ方次第だが、後続が攻略に困ったときに、そこで調べれば打開策を知ることが出来る……かも、知れない。

 とかいう環境を、作ることができる」

「あ。

 あるんですか?

 資料室っていうのが」

「あるな。

 今のところ、使われなくなった書類をぶち込んであるだけで、あまり活用されていないようだが……。

 あそこに置いてあるものは、確か、誰でも閲覧可能であったはずだ」

「……ははぁ。

 そういうのがすでにあるのなら、まだしもやりようがあるのか……」

「整理してそうした場所に放り込んでおくにしても、だ。

 こちらの言葉を読み書きできるものにとっては有用になろうが、元魔王軍兵士たちは、言葉については不自由しているはずであるからな。

 翻訳機能つきの通信機も、会話を拾って変換するだけであるし……」

「……他にいく当てがない限り、彼らもこちらの言葉と文字をおぼえないとどうにもならないわけか……」

「そんな先のことを心配するよりも、拙者らはもっと目先の、即席教官どもにどのような指導をすべきか、その指針を決めなくてはならん。

 即席教官どもが相手をするのは万人単位の元魔王軍兵。しかも、そやつらは使用言語も、能力も、かなりばらつきがある烏合の衆であると判明している。

 それをどう、可能な限り短期間で使える冒険者に仕立て上げていくか……」

「……考えれば考えるほど、無理ゲーに思えてきた……」

「やつら……自分たちの言語では、読み書きが出来るものかの?」

「……さあ?

 今のうちに、そのへんも、ギルドの人に確認してもらいますか。

 現在、身体能力を測定中だとかいってましたが、人数が人数だから、まだ終わっていないでしょう」

『読み書きは、出来る者も出来ない者もいる。

 比率としては、読み書きが出来る者は、三人か四人のうち、一人程度だ。

 運がよく同じ言語を使う者が同じ隊にいれば、文字に限らず知識を交換し、教えあう習慣があった』

「お。

 元魔王軍兵士からの有力な情報が。

 その習慣ってのは、魔王軍の一部であったものですか? それとも、全般で行われていた、普遍的なものですか?」

『おれが見聞した限りでは、どこに配属されても似たような習慣があったな。

 上級臣民は一方的に命令するだけであったから、われら下級臣民は生き残るため、必死で知ったことを伝えあったものだ』

「なるほど。

 情報分断政策に反抗するため、それ以上に厳しい環境で生き残るために、ね……。

 すると、上級臣民の統制から解放された今は……」

『昨日までは、おおむね、同じ言語使用者で固まっている傾向もあったが……それでも、ギルドから貸与された翻訳機も活発に使用していた……ようだ。

 なにぶん、寝台で前後不覚でいた期間なので、おれも、耳で感じ取れた雰囲気でしか把握していない』

「いや……それまで、意志の疎通が取れなかった連中と、不意にコミュニケーションが取れるようになった……とすれば……そうなる可能性も、あるでしょう。

 この翻訳機っていうのは、使えば使うほど翻訳が正確になると聞いていますから、ギルドとしてもばんばん使ってくれと推奨するでしょうし……。

 すると……やはり、同じ言語を使うもの同士で分類して、その上で教練をおこなうなり、パーティを編成するなりした方が効率的か?

 翻訳機の数だって、無尽蔵にはないだろうし……」

「そのあたりのことは、ギルドも考えているであろうな。

 拙者らよりも、よほど彼らのことを知っているはずであるし……」

「ですね。

 それよりも、こちらは……どうやって彼らに必要な情報を効率的に手渡すかを、考えるべきですか……。

 ああ、ゼグスくん。

 ひとつ、聞きたいのだが、魔王軍の兵士たちはどれくらい戦えるんだ?

 普段の軍務では、どのような戦い方をしていたんだ?」

『端的にいえば、魔獣が通ったあとの、後始末だな。

 戦いというより……介錯役に近い。

 まだ息があるものを見つけだして、弓矢や槍でとどめを刺す仕事が多かった』

「魔獣? ……ああ、モンスターのことか。

 魔王兵たちが、数人がかりでその魔獣を相手に戦うことは可能ですかね?」

『適性のあるものが、ある程度時間をかけて訓練を積めば、あるいは、可能になるかも知れないが……。

 普通に考えれば、自殺行為に等しいな』

「……そこからかぁ……」

「これは……通常の新人研修と同じと考えておいた方がよさそうだな。

 元軍人というイメージに吊られない方が、無難なようだ」

「どうも、そのようで……。

 そうなると……ギルドが、研修期間をどの程度と想定しているのかが、問題になってくるなあ……。

 それも、研修一本槍にして、短期間でがっーっとやっていくつもりで考えていいのか?

 それとも、ギルドの他の仕事をしながら、ゆっくり育てていくつもりなのか……」

「……その両方で、考えておいて」

「おや?

 マルガさん……」

「一応、キャヌと一緒に、知的種族担当なんでね。

 生活環境整備が一段落したから、打ち合わせに来たんだけど……今、いい?」

「あ、そりゃ、助かります。

 いくつか、確認したいことも出てきたところだし……」

「そう。

 でも、こちらから元魔王軍兵士たちの現状を説明させて貰った方が早いと思う」

「はい。

 説明をしていただければ、こちらとしてもありがたいです」

「まず……希望者全員をすべて、一挙に研修受けさせて冒険者にするっていうのは、明らかにギルドの処理能力を超過するだろうから、ギルドとしても考えてはいない」

「そんなことしても、混乱しかうまないものな」

「わかってるじゃない。

 今、管制方面を中心として人を増やして、ギルドの処理能力も強化しはじめたところだけれども……これから仕込む子たちが実際に使えるようになるまでは、少し時間が必要になると思う」

「でしょうね。

 で、その具体的な時間は、どのくらいで?」

「管制業務だけで絞れば、一週間もあれば十分なんだけど……その他の冒険者相手の対応とか、細かい部分まで含めると、いくら時間があってもおぼえきれないくらい……とか、管制の子たちはいっていたけど」

「冒険者、癖が強いのが多いからな。

 その相手をしていくとなると、やはり例外処理ばかりになるだろうし……」

「そ。

 型どおりの、手順書通りにこなしていけばいいだけの仕事だけなら、すぐにでも教えられるの。

 でも、そうではない仕事のが、よほど多いから……」

「受け入れ体制は目下整備中、ということですね。

 で、おれたちは……具体的に、何人を、どれくらいの期間で冒険者に仕上げていくことを、ギルドは望んでいるんですか?」

「詳しい条件、こっちで区切っちゃっていいの?

 ギリスさんからは、あんたの裁量に任せちゃってください、としか聞いていないんだけど……」

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