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52.はこいりむすめはめいきゅうにむかう。

 迷宮へ向かう豪華な客車橇内。

「……ああ、退屈」

「またそれか。

 さっき、休憩をしたばかりだろう」

「退屈もしますわ、お父様。

 はるばる何日も船に揺られて、ようやく陸に上がったかと思えば、今度は客車に雪隠詰め」

「迷宮に到着しさえすれば、そこから帝都までは一瞬で到着する。転移陣を使えば、旅程が何十日も短縮できるわけだからな。

 第一、屋敷で留守を守っていればいいものの、わしの商談に無理矢理に着いて来たいといったのはお前ではないか」

「だって、屋敷に籠もってばかりだと、もっと退屈なんですもの。

 今の迷宮にいけば、他国で流行している服やグッズも売っているそうですし……」

「それはな。

 わしのような迷宮を通過する商人向けに、あくまで見本として置いてあるだけだ。

 多少の小売りも、してはいるのだろうが……」

「……お客さん方。

 前方に、王国軍の城塞が見えてきましたよ。

 あれを通過すれば、目的地の迷宮まではすぐそこです」

「おお。

 窓を開けても、大丈夫かね?」

「外はだいぶん、冷え込んでおりますが……それでもよければ、窓を開けてごらんになってくださえ」

「では……」


 ぎぃぃぃ。


「……みなさい、ミルレイ。

 あれが、王国軍が国威をかけて建築中の城塞だ。

 実に、立派なものじゃあないか……」

「……確かに、大きさだけはたいしたものだと思いますけど……灰色一色で、なんだか味気ない建物ですわね、お父様」

「大きいだけではなく、新式工法を実験的に取り入れ、通常の城塞の何倍もの頑強さを誇るそうだ。

 いざというときには、あれが、われら人類の最後の砦になるそうだよ……」


 剣聖所有山荘内。


 ぱら。

  ぱら。

 ぱら。


「なあ、小さい魔女よ。

 ずいぶんと熱心に読み込んでいるが、そんなに面白いか?」

「面白い。

 ルリーカは普段、迷宮内ではシナクと行動をともにしていない。

 だから、新鮮」

「そういえば、そうか。

 しかし、この内容だと……わらわたちは、完全にシナクの添え物じゃな」

「主役以下の活躍が省略されるのは、仕方がない。紙面も限られていることだからの。

 レニーたちのはなしではいずれ拙者らが主役を張る書物も刊行されることであろう。

 そのときを、楽しみにするより他、なかろうな」

「シナクと同じパーティを組んでいる以上、いつまでも脇役のままの気がするが……」

「その点、この拙者などはシナクよりも迷宮とのつき合いが長いくらいだからな。

 このような書物の題材となる挿話には、事欠かぬ」

「一度ロストしていることとかか?

 それに、キャリアが長いとはいっても、それらは自己申告の期間も含めてのことであろう。

 こちらのギルドの記録には残っていない期間のことであるし……」

「……む。

 それより……いいのか、帝国皇女よ。

 このような書物の題材となれば、家出して来ておることが衆目に晒される結果となるわけであるが……」

「そ、それは……ふむ。

 まあ、実家も黙認していることであるし、問いつめらることがあれば、義勇兵ですとでも答えておくことにしよう」

「義勇兵、か。

 便利な逃げ口上だな。

 しかし、そのようなはなしが広まると……今度は、大陸全土から義勇兵が押し掛けてくるようなことには、なりはせぬか?

 帝統がみずから義勇兵に……などという噂が広まれば、諸王国の王族どもも、威信や面子にかけて腕自慢を送り込んで来そうなものであるが……」

「……あ。

 そ……そうなればなったで、じゃな。

 大陸中から選りすぐりの勇士が集うことになるわけであるから、結果的にはギルドの戦力アップに繋がることとなろう!

 よきかな、よきかな」


「……」

「どうした、パスリリ弟」

「……キャラ……キャラが……」

「……さきほど、パスリリ姉にいわれたことを気にしているのか?」

「カスクレイド卿。

 キャラって……どうすれば、濃く出来ますかね?」

「そういわれてもな。

 おれの場合、自然に振る舞っても人目にたつ性分であるそうだから……」

「……あの甲冑を着て歩いていたら、否が応でも人目にはたつでしょう」

「それだ!」

「それ?」

「パスリリ弟よ。

 おぬしも、家柄といい魔法兵としての能力といい、スペック的なことをいえば現状でも十分に卓越した能力と出自を持っている。

 それでも、今一つ目立てないのは、周囲からは常に姉と一組と考えられ、おぬし個人の印象が薄いことに起因するわけだ」

「……は、はぁ……。

 なるほど」

「まずは、外見から入ってみてはどうかな?

 一瞥すればおぬしであると、誰にでもわかるトレードマークをあえて作るとか。

 こういってはなんだが、おぬしら魔法使いの服装は画一的で地味で、同じような年格好の者がぞろぞろと並んでおると、個体識別がしにくい」

「それ……もろ、うちの魔法兵隊のことですね。

 しかし……うーん。

 トレードマーク、ですか……」

「無意味に常時真っ赤なマフラーを風になびかせているとか、無意味に常時目の下に隈をつけているとか、無意味に常時指なしの手袋をはめているとか、登場時に高笑いをするとか、登場時に管楽器を吹くとか、なにかというと決めゼリフをはくとか……」

「……最後の三つは、カスクレイド卿が王都で暴れていたときにやっていたことですよね」


 迷宮内、仮説教官研修所。

「……椅子と机は、こんなもんですかね?」

「これだけあれば、数は足りるはずです。

 とりあえず、今回は」

「追加が来るようでしたら、早めにご連絡ください」

「はい。

 そのときは、お願いします」

「……職人さんたちも、ギルドが発注する急ぎの仕事にすっかり慣れっこになってますね」

「今の教官室にあるものと同じものを再度作るだけですからね。新しく図面を起こすわけでもないし、資材はこっち持ちですし、職人さんたちの体が空いていさえいれば、そんなに手間はかからないはずです」

「それよりも、新しい教官候補を選抜する作業が難航しているみたいね。

 そういうのに向いている人っていうのは、新人さんパーティの監視役にも向いているわけで……」

「そっか。

 取り合いになっちゃうんだ」

「ギリスさんの指示で、気性的に穏和な人は監視役に、少し荒っぽい人はこっちに回すように指示が出ているみたいだけど……」

「……あ。

 それ、少々難ありの冒険者さんたちも、この場で再教育しようって魂胆じゃないの?」

「やっぱ、そう思う?

 いまだに結構多いからね、ヤバそうな人たちが……」

「冒険者は登録の際に、前歴を問わないから……どうしたって、それなりの割合で難ありの人たちが混ざっちゃうんだよね。

 本当にヤバ人たちってのは、かえって普段は腰が低かったりするんだけどね」

「ランクが高い人って、普通につき合える人が多いよね。

 中途半端な実力の人が、管制の子とかに、ヘンに横柄な態度をとってたりするし……」

「冒険者の同士の横のつながりって思ったより薄いから、直接接触する機会の多いギルド職員以外には、あまり知られていないんだけどね」

「だけど、そうすると……癖が強くて他人となれ合うことが苦手な冒険者の問題児、二百名が、ここに集まってくるわけかぁ」

「スリーSが来るっていうことだから、なんとかなる……の、かな?」

「ギリスさんの秘密兵器だもんね。

 実績はダントツだし、あの人のいうことを頭から否定できる冒険者って、流石にいないとは思うから、適任だとは思うけど……」

「冒険者って、厳しい環境を生き抜いてきているから、ほとんどが実力主義だもんね。

 あの人が失敗する仕事なら、他の誰に任せても失敗するよ」

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