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48.きょうかんの、きょうかんやく。

「ぼっち王さんって、普段からあんな感じなんですか?」

「おおむね、あのような感じではあるのだが……。

 流石に仕事中は、もう少し緊張しているかな?

 なんだ、気になるのか?」

「わたしたちも、剣聖様とぼっち王さんに救われたもので……」

「拙者などと持ち回りで行っておるからな。

 ときおり、ルリーカやコニスが担当することもあるが……」

「……なぜわらわを呼ばぬのじゃ」

「ふん。

 帝統の方の手を、悪事のために煩わせるのは……いくらなんでも、まずかろう。

 一応、対価を押しつけてきてはいるが、やっていることは押し込み強盗と大差がない」

「……くぅ。

 生まれゆえ、このような面白そうなイベントに参加できぬとは……」

「悔しがるほど、面白いものではない。

 ルリーカのときは、助け出した子どもたちにもみくちゃにされた」

「……助ける側と助けられる側が同年輩だと、そういうことも起こりうるのだろうな、うん」

「小さい魔法使いには、思わず抱きしめたくなるような愛らしさがあるから、しかたがないの」


『お休みのところすいません。

 冒険者ギルドのギリスです。

 シナクさん。

 今、よろしいでしょうか?』

「別に、かまいませんが……また、なにか緊急事態ですか?」

『そういうわけでもないんですが、またシナクさんにお願いしたいことが出来ちゃいまして、早めに内容をお知らせしておいた方がいいかなーと、思いまして、連絡を差し上げた次第です』

「ああ、なるほど。

 緊急ではないとすると……具体的に、どういったご用件で」

『実は……先日ギルドに投降した元魔王軍の方々、そのほとんどが、冒険者になることを希望していまして……』

「ええ。

 それで?」

『そうすると、その……修練に必要な教官側の人数が、圧倒的に、足りなくなってくるわけです』

「するってぇと……またおれに、教官役をやってくれってことですか?」

『近いようで、ちょっと違いますか。

 圧倒的に足りない……ので、もはや、シナクさん一人を教官役にあてても、解消するレベルではありません。

 そこで、ですね。

 シナクさんには、これから教官として増員される人たちの教官役を、やってもらいたいかなぁ……って。

 あ。

 これは、シナクさんだけのことではなく、他の古参の冒険者さんたちにも、新人さんたちの監督役とかで、なんらかの形で教練には協力していただくことになると思うんですけど……』

「教官の、教官役、ですか?」

『はい』

「それって……具体的には、なにを教えればいいんですか?」

『それが、こちらの事務員でははっきりとわからないから……こうして、ご相談しているわけでして……』


「ギリスさん、なんですって?」

「おお。

 レニー、お前の知恵も、貸してくれや。

 実は……」


「ということで……。

 教官の、教官役って……一体、なにを教えりゃいいんでしょうね?」

「ちょうど、いい感じの面子も集まっていることですし、酒肴代わりにみなさんのご意見も拝聴したいな、ということになりまして……」

「ふむ。

 その、ギリスのはなしによると、現役の冒険者からまずは二百名を選抜して教官とする、ということであったな」

「そうです、リンナさん。

 すでに教本に書かれていることは、改めて教えるまでもないでしょうし……」

「それは……どうであろうな、シナクよ。

 修練所で一通りのことを学んだ冒険者ばかりではないから……」

「ああ、そうか。

 そっちの面倒も、みないといけないわけか……」

「面倒を、見るまでもなかろう。

 現在使用している教本を渡して、各自に自習ささればよい。

 ギルドが選抜するのであるのなら、最低限の読み書きは出来るはずであろう」

「そ、そうですね。

 すると……」

「はなしを聞く限り、今回、ギルドが意図するところは、冒険者の大量育成体制の確立、それに、現役冒険者の経験や知恵を、着実に次代に手渡すこと。

 この二点にあると思う」

「はい。

 まさしく」

「このうち、前者については、ギルドが考えるべきことだ。われら冒険者は意見を請われたときのみ、それに応じればよい。

 ゆえに、後者のことにのみ、留意すればいいのではないか?」

「つまり……現役冒険者の経験や知恵を、まとめあげろ、と」

「すでに、教本に書かれている内容は除く。

 それ以外に、後続の者に伝えるべき情報を集めて編纂し、追加の教本とする。

 とりあえずは、その選抜された二百名で、効率よく情報を持ち寄れる体制を作ればいいのではないか?」

「あ……なるほど。

 そういうことで、いいのか……。

 それなら、いくらでもやりようがあるな」

「なにか、いい思案を思いついたか?」

「ここまで方向性が絞れれば、流石に。

 まず……その二百名を……そうですね、十名、二十組の班に分けます。これは、どのような組み合わせでも構わない」

「ふむ。

 それで?」

「その班で、それぞれはなし合ってもらって、教本に追加した方がいい内容をリストアップしてもらう。

 各班がバラバラにリストアップするのだから、提出された内容は、当然、重複することもあるでしょう。むしろ、多くの班で提案された事項は、それだけ重要だというになります。

 優先的に教えた方がいい内容も、自然と、決まって来る。

 また、リストアップをする過程で、普段は接触がない冒険者の間で、自然と情報交換が促進される」

「それで……各班がそのリストを提出した後は、なんとする?」

「集計したものを、二百名全員に公開して、その上で、教本に追加する内容を選択します。

 それが決定したら、各班で分担して、具体的な内容を書いてもらったり、それを回し読みして、足りない部分を補ってもらったり、で……」

「リストアップするのは、せいぜい一日二日の短時間ですむが、その後の過程には、相応の時間が必要になりそうだの」

「とはいっても、人数がいるし、分担してやるわけだし……少人数でやるよりは、効率がいいし気が楽だ。

 そんなことをしている間にも、二百名の即席教官たちに、なにを教えるべきかという共通の意識が生まれそうな気もしますし……。

 そうだよな、うん。

 なにも、一人が全員に教える……という形でなくてもいいんだ、この場合。

 逆に、大勢の意見に耳を傾けて、なにが必要でなにが不要なのか、情報の選択をする過程が重要になってくるわけで……」

「だいたいの方針が決まったら、あとは、具体的な内容だな。

 ギルドに用意させるものは?」

「紙とペン、全員が収容できる広い部屋と、人数分の机と椅子……は、当然のこととしても、書記や写本が出来る事務員も、少なくとも十名以上、出来れば各班に一名以上、二十名は欲しい。いるのといないのとでは、作業効率がぜんぜん違ってくる。

 これは、うん。

 口述筆記ほどの専門性はない作業だから、なんだったら研修生に募集をかけてもいいだろう。ギルドの事務員はただでさえ多忙な時期なわけだし、こっちにまで人手を割く余裕はないだろうし、最低限、読み書きが出来ればいい。読みやすい字が書ける人なら、なお、いい」

「ほれ、シナクよ。

 おぬしが今までに出した案を、簡単にまとめてみた。

 これを読んで不足はないかどうか、今一度確認してみよ」

「あ、どうも。

 リンナさん。

 んー……っと。

 たぶん……これで、いいと思いますけど……」

「レニー。

 なんか、つけ足すことある?」

「いえいえ。

 リンナさんの誘導ぶりも、シナクさんの即応性も、相変わらずお見事なもので」

「んじゃ、ククリル他二名の三人組。

 最近、修練所を放免になったばかりの新人冒険者として、なんか意見ある?」

「いえ、とくにはぁ……。

ぼっち王先輩が教官をしていらした頃は、多分、こんな感じだったんでしょうねぇ……と、感服いたしましたぁ」

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