45.よもやまばなしとぎるどのなやみ。
「で、ぼっち王先輩が、二十前後……」
「推定、な。
おれ自身も正確な生年月日とか知らないから、本当のところはわからない。大ざっぱにそんなところだろうってだけのはなしだ」
「習得しているスキルとかでいったら、もっと年嵩でも不思議はないっすもんね」
「おれのことを噂だけで聞いていた人たちと対面すると、かなりイメージと違うのか、たいがい驚かれているしな」
「はは……。
そりゃ、そうでしょ。
そんでもって、そちらのパスリリ家のお二人が……」
「「十九」」
「ああ、そうか。
双子でしたね」
「十九か。
その若さで、多彩な攻撃魔法が使える上、あれだけ動ければたいしたもんだ。
おれは魔法のことはよくわからないけど、さっきのをみてて、魔法抜きでも十分に戦える人たちだと思った」
「パスリリは、代々軍務に奉職している家柄ゆえ、当然のたしなみかと」
「そういうもんなのか?
おれは野育ちの山出しだから、宮仕えってのもよくわからないんだよなぁ……。
しょせん、冒険者になるくらいしかあてのない、風来坊ですから」
「あなたならば……仕官先には困らないでしょに」
「あー。
一カ所に長くとどまった経験ってのも、あまりないし……硬苦しいのも、苦手だしなあ。
もう少し落ち着くまで、あと何年かは流れ者をしているつもりだよ」
「シナクさんの場合、いつでも楽隠居できるくらいの蓄えは、あるはすでにずですからね」
「とはいっても、こちらの全裸に支払う金がまだかなり残っているし……なにもしないで暮らすのも性に合わないので、当面はこちらのギルドの世話になる予定だけどな」
「わはははははは。
だから、シナク。
相手なんか誰でもいいからさっさと身を固めて、所帯を持ってしまえ!
子ども、かわいいぞ!」
「またそのはなしかよ、バッカス」
「わはははははは。
シナクのような……自分自身の目的があまりないタイプには、守る者が多い方が、かえって実力を発揮すると思うがな!
さっさと身を固めて、誰かの尻に敷かれてしまえ!」
「おお。
たまには、よいことをいうな、バッカス」
「……よりによって、リンナさんが食いついた」
「昨日、ギルドに過去の記録を見せてもらったのだがな、シナクよ。
おぬし、ソロでやっていたことろよりも、拙者ら三人でパーティを組んでからの方が成績がよい」
「……そうなんすか?」
「誠だ」
「ってか……ギルドの人たちも、個人情報、勝手に明かすなよな……」
「個人情報といっても、同じパーティを組む仲間であるしな。
今後の参考にするために確認したいといったら、素直に見せてもらえたぞ。
ともあれ……おぬしが、ソロのときよりも他者と一緒のときの方がよい働きをするということは過去の戦績が裏づけておる。
私生活でも、是非そうするべきであるな。
シナクよ。おぬし、仕事に取り組むとき以外は、かなり優柔不断であることだし……」
「あえて反論はしませんが、放っておいてください。
そんなことをいうと、また騒ぎ出す人たちが……」
「生活で組むのであるのなら、このわらわなどおすすめだぞ。帝統の発祥は遊牧しながら交易に従事していた民じゃ。
これで資産運用なぞも得意とするし、皇室の庇護をあてにせずとも食うに困ることはない」
「うちで婿養子になる。シナクが魔法をおぼえる気がなくても、そのまま楽隠居してもらってもかまわない。
魔法に関しては子どもたちに期待することにして……」
「やはり年上だな。
世間知と包容力があり、戦闘も魔法も一通りこなせるとなれば、これ以上お買い得な物件はなかろう」
「あはははははは!
シナクくん、相変わらずモテモテだね!」
「……ほらみろ、一気に騒がしくなった」
「シナクさん、シナクさん」
「今度はレニーか。
なんだ、いってみろよ」
「ぼくは、主人公よりも脇役向けのキャラクターですからね」
「……また、わけのわからないことをいいだしたな」
「脇役としましては、現在の時点での各ヒロインのシナクさんへの好感度などをここでチェックすることもできるのですが……」
「いらねーよ!
そもそも、各ヒロインとか好感度ってなんだよ!
意味不明だよ!」
「……ぐっ。
本来ならば、あそこはこの余のポジションであるはずなのに……」
『冒険者とは……いつも、こんな調子なのか?』
「まさかぁ。
あのぼっち王先輩だけがぁ、特別なんですよぉ……」
『そうなのか。
だが……実に、楽しそうだな』
「ゼグスくんもぉ、望めばいつでもあの輪の中にはいれますよぉ」
迷宮内、ギルド統括所。
「これまでのパターンからすると、大量発生の直後に出現するモンスターは、軒並み、強くなる現象が確認されています」
「負傷者も、その時期に集中して増加する傾向が認められますね」
「それも、経験の浅い冒険者ほど突発的なトラブルに対処するための心理的な余裕がなく、この時期の負傷者の大半もそうした初心者の方々です。
迷宮内探索業務を再開するに前に、これについての対策を取っておいた方がいいと思うのですが……」
「具体的には?」
「実務経験が長い冒険者の方々に、期間限定の監督者として新人さんたちのパーティに入ってもらうというのはどうでしょうか?
全体の攻略効率は、若干、下がるかもしてませんが……」
「安全性には変えられない、か。
もともと、冒険者候補の人数に対して教官の人数が圧倒的に足りなくなってきているところでもあるし……」
「いまくいけば、ベテラン冒険者が持つ有形無形のノウハウを、後続の人たちに教授する機能も期待できるかと」
「メリットはあるけど、デメリットはあまりなさそうだな」
「デメリットは……新人さんたちと組むと、どうしても、気心が知れたパーティで行動するときよりは、効率や報酬が下がってしまうので……古参の冒険者の方々にとっては、あまりうまみがないということですね。
かといって、強制ではなく任意で、希望者を募ってやるとなると、ごく少数の新人さんたちしかカバーできなくなりそうですし……」
「そう考えると……多少の反発は覚悟の上で、一定期間以上の実務経験を持つ人たちすべてに……たとえば、三ヶ月以上の経験を持つ人すべてに、十日間くらい新人さんたちの面倒を見てもらう……みたいなことを、制度化した方がいいかも知れませんね。
具体的な期間などは、もう少し検討の余地があるかと思いますが……」
「あともう少しすると翻訳環境も整い、そうすると元魔王軍の冒険者志望がどっと押し寄せてきます。
一万人から二万人……あるいは、それ以上のオーダーになります」
「彼らにとっても、迷宮内は慣れた戦場ですからね。
冒険者になることへの、心理的な抵抗もそれだけ低くなりますか」
「ええ。
くわえて、魔王軍の兵士に対する待遇があまりにもひどかったらしく、ほとんどの人たちが冒険者になることに魅力を感じているようです。
ともかく、彼ら、元魔王軍の兵士たちも研修を受けるようになると、教官不足はますます深刻になるわけでして……」
「その件については……短期間、大量の軍籍冒険者を輩出し続けているグリハム小隊にも協力を要請、修練現場を一通り見学させてもらって、取り入れられるところは取り入れましょう」
「協力……してくれますかね?」
「駄目でもともと、打診するだけでもお願いします。
あちらにしても、開始時にはこちらの修練所を見学して参考にしているわけですし、露骨にいやがりもしないでしょう。それで、いくらかでもこちらに得るところがあるのだったら、儲けものです」