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43.さけのうえでのぐだぐだばなし。

「まま。

 お近づきに印に、おれからも一献」

『受けよう。

 どうせ、酔えぬ身だ。

 風呂に案内してくれた男だな』

「ハイネスといいます、ゼグスさん。

 ゼグスさん、風呂に入ったら、やけにさっぱりしちゃって……。

 だいぶん、若返ったように見受けられますが、実際にはおいくつで?」

『いくつ……ああ。

 年齢のことか。

 翻訳機能が、まだ十全ではないのでな。

 少し砕けたいい回しになると、意味がとれるようになるまで時間がかかる。

 年齢でいえば……十六周期と半分、になるな』

「……周期、ですか?」

『周期とは、惑星が恒星を一巡する期間のことで……ああ。

 こちらのいい方でいえば、十六才ということになるのか。

 もっとも、あちらの一年とこちらの一年が完全に一致するのか、そこまでは知らないが……』

「あっ。

 十六才……ね。

 ってぇ!

 かなり若いっすねぇ!」

『そうか?

 魔王軍の下級兵士では、標準的な年齢だと思うが……。

 十二から従軍して、二十二まで生き残れば、そこで晴れて除隊が許される。もっとも、十八才以上になれる者は、最近では師団でも数えるほどしかいなかったが……』

「……あちゃあ。また、話題が暗い方へ……。

 その年齢にしては、ゼグスさん、だいぶん、言動なんかが落ち着いているような……」

「あー。

 それは、翻訳機能の限界だな。

 今の時点では、意味を取るのに精一杯で、細かいニュアンスまで伝えるとことまで、精度が上がっていない」

「そうなんすか? 魔女さん」

『なるほど。

 みなには、そのように聞こえていたのか』

「それから、周期……一年の長さの件な。

 聞き取り調査の結果、こちらとほぼとみてよろしいようだ。向こうで十六才といっったら、こっちでも十六才だと思っても良さそうだぞ。

 一日の長さや一年間の日数については、微妙に違っているようだが……」

「そんなこと、わざわざ調べてたんですか?」

「そんなことはいうがな、大事なことだぞ。ピス族や帝国の大学関係者なんかも、その手のことには興味津々であるし、真っ先に確認しているわけだ。

 元魔王軍兵士の手帳についてたカレンダーを照合したり、それぞれの出身世界についても異同はないかどうか、確認をしたり……」

「はぁー……。

 学者さんっていうのは、細かいこと気にするもんなんすねえ」

「それが仕事だからな。

 ゼグスの言葉遣いについては、時間が経ってデータが蓄積されていけば、自然と修正されていくはずだ。

 しばらくは、それで我慢してくれ」

『心得た』

「……なに?

 ゼグスくん、本当に十六なの?」

『どうやら、そうであるらしい』

「ど、どうしてここで食いつくかな。

 ククリル」

「だってわたしぃ、年下萌えだしぃ。

 おー。

 そういや、よくみるとまだあどけなさを残したちょうどいい顔立ちをしているしぃ、灰色っぽい髪の色も、エキゾチックでいい感じだしぃ……」

『そ、そうですか。

 それは、どうも……』

「お、おい……。

 マルサス。

 ククリルって、こういうのが趣味だったのか?」

「ククリルの男の趣味など、知らん」

「そりゃ、おれだって知ったこっちゃないけどな。

 かわいそうに。

 ゼグスくん、すっかりどん引きしているよ……」

「よかったら、ちょっと、その、魔王の右腕っていうのを見せてもらえるかなぁ、なんて……」

『……構わないが……』

「……あー。

 はっきりと、肘から先が……色分けしているのねぇ……」

『一度、焼け落ちているはずなのだがな。

 この色が変わった部分が、魔王の残骸が、勝手に再構成した部分なのだろう』

「まだ……痛いの?」

『痛くはない。

 普通の、元通りの自分の腕としか思えない』

「うん。

 なら、よかった」

『よかった……のか?』

「そうよぉ。

 感じなくていい苦痛を感じることなく、しなくていい苦労をしないんで済んだんだからぁ。

 それをいったらぁ、魔王軍にはいるしかなかった場所に生まれついたこと自体、不運ではあったんでしょうけどぉ……。

 それでもぉ、ゼグスくんの最悪の時期は通り越したんだからぁ、あとは昇り調子になるだけだしぃ……」

『本当に、そうだといいがな』

「そうなるよぉ、絶対ぃ。

 だってぇ、現に、こうして……九死に一生を得てぇ、その先でも魔王の力とかぁ、それを抑制する方法を知っているっぽい塔の魔女さんと知り合ったりぃ……ずっと、幸運続きじゃない」

『そ……そういう考え方も、出来るのか』

「出来るのぉ。

 それに、魔王の力だってぇ……他のことはよく知らないけどぉ、こっちの世界にはあっちのいる王子やカスクレイド卿のようにぃ、特殊な能力持ちが少ないながらもいるからぁ、比較的やんわりと受け止められるでしょうしぃ……」

「……今、さりげなく自分自身を除外してたな、マルサス」

「そこはあえてスルーしてやれ、ハイネス」

「外野、うるさい!

 とにかく、そういう能力持ちか、ってことが周知してしまえばぁ、こっちではあとは気にしなくてもいいわけだからぁ、その意味では気楽なもんよぉ」

『……な、なるほど。

 そういう世界なのか』

「そういう世界なのぉ。

 こっちのぼっち王先輩の場合のように、特性持ちが必ず優位に立つばかりではないっていうのが面白いところでぇ……」

『ぼっち王……先輩?』

「こちらの、シナク先輩のこと。

 あだ名、っていうか、二つ名?

 とにかく、そんなもん」

『なるほど。

 シナク……先輩は、特性持ちとやらではないのか?』

「……と、思う。

 少なくとも、そんなはなしは聞いたことがないけどぉ……。

 ぼっち王先輩!

 先輩、特性持ちではありませんでしたよねぇ?」

「……あー。もう、うるせえな。

 特性なんざ、一個も持っていないはずだぞ」

「自覚がないだけ、っていうことは、ありません?」

「特性持ちってのは、王侯貴族に多いってはなしだろ?

 おれは、両親の顔さえ知らないんだぞ。

 特性持ちなんかで、あるわけがない」

「……どっかの王族の、隠し子とか?」

「この耳で捨てられたってか?

 はなしとしては面白いのかも知れないが、証明できない以上、真偽についてはなんともいえんな」

「……ですよねぇ。

 にしては、いろいろと人間離れしたところがおありになるなぁ、と……」

「ほっとけ。

 幼い頃から走り回ってれば、誰でもおれくらいには走れるようになるの。力や体力だって、せいぜい人並みがいいところだぞ、おれは。

 その証拠に、ティリ様をみてみろ。素で、おれと同じくらいに走れるから」

「……比較の対象がさりげなく帝統、あたりで、すでにただ者ではないんですけどぉ……」

「……あっ。

 先輩。

 おれからも質問、いいっすか?」

「なんだ、軽いの」

「軽いの、って……まあ、いいっすけど。

 前々から気になっていたんですけど、先輩のその耳って、ひょっとして、風の民の……」

「らしいな。

 帝国大学の先生が、なんかそんなことをいっていた。

 ただ、おれの両親が何者であったかを確認するすべがない以上、それも証明する手段がない」

「おお!

 ファンタスティック!」

「……なんだって?」

「では、先輩。

 魔法とかも、ばぁーっと……」

「使えるかも知れないが、今のところ使えない。

 体内魔力はあるそうだけど、おれは魔法の勉強とかしたことがない」

「ああ……なる。

 そうっすよね。

 そこまでオールマイティだったら、ちょっと不公平すぎますよね。

 あははははは」

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