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20.おなじあさはにどとこない。

「ふぁ……」

「昨夜は……まあ、いろいろと、いろいろだったなぁ……。

 なんていったらいいのか……うーん……」

「やつら……元気だよなあ」

「夫婦とギリスさんは、将来に備えるっていって途中で帰っちまうし、ヤンキーたちはそれまでいっていたことがわかんないとかいって、おれを質問責めにするし、ギルマンはなんだかんだであの酒場ではなじんでいたし、ルリーカとあいつは隅っこでまた飲み比べしているし、あいつは悪酔いしてリバースするし……」

「あいつ、すっかり出来上がっちまって、おれと腕を組んで帰ろうとするし……ルリーカも宿まで一緒に来ようとしていたから、なんとか説得して帰って貰ったし……。

 宿に帰ったら帰ったで、おばさんにからかわれるし、あいつはあいつで青い顔してベッドを占領してマグロ化していたし……。

 おかげでおれ、床で毛布にくるまって寝て、今も体中、痛いし……」

「……ふぅ……」

「なんだか……おればっかり貧乏籤引いてないか?

 ないな。ないことにする。無理にでもそう思いこむことにする」


「とりあえず、迷宮だ。

 今日も、お仕事お仕事」


「「「「「ぼっちの兄貴、おはようございます!

」」」」」

「お前ら……昨日、あの夫婦になに吹き込まれたんだよ」

「はっ。

 ぼっちの兄貴が、ソロでの連続生還記録保持者で賞金王だとお教えいただきました!」

「あー。

 まあ、おおむね事実だが……連続生還の方はともかく、賞金王の方は、自慢になるのか?

 それだけ連続して強敵と遭遇したってことで、ただ単に運が悪いだけじゃねーの?」

「そういう状況下にあっても慌てず騒がず誇示もせず奢らず。

 ラッキーの兄貴とブラッディの姐さんは、口を揃えて冒険者の鑑だとおっしゃっていやした!」

「いろいろな意味で、素直に喜べねーなぁ……」

「あっ。

 シナクさん! ちょっとこちらに……」

「受付……じゃなかった、ギリスさんか。

 最近、あの人に呼ばれるのが怖くなってきたんだが……いかないわけには、いかないか……。

 はいはい。

 今日は、なんのご用件で?」

「シナクさん。

 昨夜はなした通り、今日から迷宮未経験な冒険者の方々向けに、迷宮についての基礎的な講義をいていただきます。

 わたし、これでも冒険者の管理に関してはそれなりの権限をギルドから与えられていますので、当然のことながらシナクさんの報酬も用意しています」

「それはいいけど……と、いうより、今となっては断れないようだからやるけど……。

 ギリムさん、大丈夫?

 顔色、だいぶ悪いよ?」

「ちょっと、徹夜で稟議書を書いてきただけです。

 わたしはこれからギルド長にこれを提出にいきますので……」

「あー。

 いいたいことだけいって、さっさといっちゃった……」

「ぼっち殿!」

「……今度はなんなんだ……って思ったら、昨日面接した兄弟かよ」

「ぼっち殿、貴殿があのクマやワニやヘビを単身でしとめたという噂は誠であるかっ!」

「頼むから、そんなに大声でどならないでくれ。

 ああ。そうですよ。

 あれ、おれがひとりでやりました。すいません。

 なんだかわからないけど、問いつめられると反射的にあやまりたくなるよな……」

「兄者!」

「おお!」

「「これほどの手練れにご教示いただけるとはっ!」」

「……なんで盛り上がっているのかよくわからないけど、ちょっと通してね。

 今朝はまだ、ギルドの受付通してないだ、おれ……。

 って、あれ?

 ギリスさん、さっきギルド本部の方にいっちまったんだよな……」


「っと。

 おお。

 ちゃんと代わりの受付の人、いるな。それも二人も。

 よしよし」

「あのー。すいません。

 おれ、冒険者として登録している、シナクってもんですけど……」

「ああ。はいはい。

 ちょっと待ってくださいね……ええっと。

 シナクさん、シナクさん……」

「これじゃない?

 背が低くて耳の先が尖っていて、ほっぺたが赤くて緑の目をした、いかにも女装が似合いそうな女顔の美少年……。

 うん。

 身体的特徴は一致して……って! これっ!」

「えっ! この人が賞金王? 一人勝ちのシナクさん?」

「てっきり……もっとごついおじさんだとばかり思ってた……」

「あのー。

 もしもし? もういいっすか?

 おれ、さっさと仕事に行きたいんですけど……。

 最新の地図と認識票を……」

「あっ。はい! 少々お待ちくださいね。 

 シナクさんは、ですね、今日は迷宮探索の前に、少しだけお時間をいただいて、冒険者志望の方々に簡単なレクチャーをしていただければ、と……」

「はいはい。

 ギリスさんがいっていたやつね。

 もう抵抗はしないから、おれは、どこいって誰になにをしゃべればいいの?」

「それじゃあ、セアムちゃん、案内お願い」

「はい。

 用意は出来てます。

 シナクさん、どうぞこちらに……」


「一人勝ちのシナクさん、ぼっち王シナクさんの迷宮攻略講座初心者編の受講をご希望の方は、こちらに集合してくださぁーいっ!」


「うわぁっ。

 あんな、大声で……おれ、帰りたくなってきたな……」

「ぞろぞろと……ざっと、四、五十人もいるのか。

 意外に多いもんだな。

 例のヤンキーどもと、猟師兄弟と……その他もろもろってところか……」

「シナクさん、こちらに」

「へいへい。

 って、結局迷宮の中かよ」

「外でやるのも寒いと思いまして、迷宮の安全認定地区で、比較的広い場所に移動します」


「はい。

 全員、はいりましたねー」


 ごそごそ。


「あれ、おねーさんも、この場にいるの?」

「ええ。

 わたし、これでも速記ができるんですよ。

 これからシナクさんがおっしゃることは、一語一句漏らさず記録させていただきますから……」

「あっそ。

 まあ、こっちも仕事だといわれりゃ、文句のいいようもないけどねー……。

 で、どういったことをはなせばいいわけ?」

「初心者向けの注意事項を、まずは一通り」


「と、いわれても……どっからはなせばいいかなあ……。

 あー。

 奥まで聞こえてるかぁ?」


 「大丈夫っす!」

 「声が反響して、大きく聞こえます」


「よさそうね。

 では、最初にみなさんに質問します。

 迷宮探索業務で、一番大切なことはなんでしょう?」


「はい。

 そこの最前列のヤンキーその一くん」

「うっす。

 誰よりも深く領域まで潜り込むことです!」

「ぶー!

 次、そこの猟師兄くん」

「おう。

 一匹でも多くモンスターをしとめることじゃあ!」

「ぶー!

 ほかに、答えられる人はいるかな? いたら手をあげて!」

「って、しょっぱなから壊滅かよ。

 いっきにシーンとしちまいやがって……」


「まあ、いいか。

 正解は、単純にして明快。

 生きて帰ってくること、です。


 はい。騒がない。

 そんなこと当たり前じゃないかって?

 その当たり前が当たり前じゃないのが、迷宮という場所です。とくにここ最近、冒険者のロスト率があがっています。

 ええと、そこの書記さん。

 生還率とかの詳しいデータ、貰ってます」

「セアムとお呼びください。

 ここ三ヶ月、迷宮内に潜入したギルド登録冒険者数百五十二名。

 このうち、現在も活動している冒険者は三十四名。

 死亡確定者、五十八名。

 行方不明者、四十七名。

 生還して冒険者を引退した方、十三名です」

「はい。

 さらに静まりかえっちゃいましたね。

 今お聞きの通り、ここ三ヶ月でこの迷宮から生還してきた冒険者は、全体からみればだいたい三分の一ほどです。

 三人に二人は、生きて帰ってきていない計算になります。

 ここに集まってきた人たちの多くは、一攫千金の噂を聞きつけてここにきたのでしょう。

 しかし、それだって命あってのモノダネです。

 これからはなす内容をよく聞いて、これからも命大事にお仕事をしましょうね。

 これがこれからはなすことは、おれがこの現場で実地に学んだ経験則です。

 そいつをみなさんもしっかり生かして、どうか最後まで、生き残ってくださいね……」

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