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41.ぼうけんしゃとはなにか?

『祖先の生き方を継承する、か。

 魔王に占領された場所では、考えられない生き方だな』

「いやなに、そこまで堅苦しいもんじゃないんだが。

 たいていの平民は、そもそも、ほかの生き方を知る機会があまりないしな。

 親が田畑を耕していれば、それを手伝う子どもも自然とそっちの知識を得るようになる。木こりや漁師、商売人だって似たようなもんさ。

 まったく予備知識のない職につくよりは、自然と親の仕事を継ぐようになっていく。

 ただ……兄弟が多いようだと、伝手をたどって別の場所に奉公にいったりもするし、とりわけ優秀な子にはそれなりの家から養子に来るように請われたりするんで、確実にそうなるともいえないんだけど……」

『では、冒険者という職業も、伝家のものか?』

「冒険者、ってのは……また、特殊でなあ。

 好んでなる、ってやつは、あんまりいないし……堅気の職業というより、どちらかというと、ほかに行き場がない連中の吹き溜まりって感じだな。

 当然、何代も続く冒険者の家系、ってのも……どっかにいるのかも知れないけど、おれは、知らない。

 ここ最近、数ヶ月はうちのギルドがかなり頑張ってくれたおかげで、マイナスのイメージも局所的にかなり払拭してきたようだけど……それでも、基本的には賤業だよ、冒険者というのは。

 好んで子孫に継がせたくなるような仕事ではない」

『それは……やはり、リスクが大きいからか』

「ま、それが一番大きいんだろうな。

 真面目にやればやるほど、寿命が短くなる稼業なわけだし……。

 優秀なやつほど危険な場所に追い込まれて……よっぽど運がよくなければ長生きは出来ないし、世間一般の基準からいっても、一生続ける仕事でもない……と、思われている」

『それでも冒険者を続けるのは、なにゆえか?』

「そんなの、決まっている。

 ほかに能がないからな、おれ」

『能が……ない?』

「おうよ。

 おれには、どっかに土地に定住して何年も畑を耕したりする根気もないし、自分で商売を始めるだけの才覚もない。

 あるのはこの体、一つっきりで、それで出来る仕事ってのは限られている。

 人夫でも別によかったんだが、冒険者の方が報酬はよっぽどいいんでな」

『報酬、か。

 こちらでは、軍票ではないのだったな』

「……軍票?

 まさか、そっち世界では、金銭までもがないってわけでもなかろうに……」

『金は、あった。

 ただ……流通するすべての物資が軍需優先で、金、軍票を持っていても購えるものの種類は少なかった』

「いろいろ、窮屈そうな世界だったんだな」

『何世代にも渡って、制限なく戦争を続けていたわけだからな。

 むしろ……あの強大な魔王軍を、よくぞ破ったものだと感心する』

「それについては、異世界と繋がる門を早めに閉じて、援軍を断ち切れたのが大きいと思うが……」

『それにしても、戦力比でいえば、魔王軍の方が優勢であったはずだ』

「数の上では、な。

 ただ、こっちは迷宮内の地理を詳細に把握していたし、術式による隔壁の数も多かったので、自由に分断できた。

 一度に戦う人数をこちらの好きに調整できたので、そちらにしてみれば大軍を活かしきれなかった」

『それに……魔王軍は総じて士気も低く、指揮官が倒れるとすぐに投降者が続出した。

 そちらは逆に、首尾一貫して士気が高かった』

「ああ、なあ。

 こちらの士気の高さについては、むしろおれも不思議に思ってたところだけど……」

「それは、あれだね!

 ドラゴンのコインを通じて、シナクくんが実況をし続けたからだね!」

「……そうなのか? コニス」

「そうだよ!

 あんなに楽しそうに実況されたら、誰だってその場に行きたくなるよ!」

「……だ、そうだ。

 おれとしては、実況しているって意識もあまりなかったんだけどな。

 ただ、管制に、細めに奥の状況を知らせておきたかっただけで……」

『……そうか……。

 あの声は、あなたのものだったのか……』

「……あ?

 聞こえてました?」

『それは、あの場にいたので。

 ただ……ほとんど意識を失っていたので、うっすらと聞きおぼえがある、という程度ですが』

「なるほど」

『こちらには……ずいぶんと楽しげに、いくさをする者がいるのだな、とは、思いました』

「……あのとき、楽しそうでしたか? おれ」

『ええ。

 声が、弾んでいましたよ』

「……そうだったかなぁ。

 特に剣聖様が来てくださるまでは、かなり苦戦していたと記憶しているんだが……」

「苦境に陥れば陥るほど、シナクくんは楽しそうに見えるんだよね! 傍目には!」

「よせやい、コニス。

 それじゃあ、まるで……おれが、危ない人みたいじゃないか」

「シナクさんの場合は……苦境を楽しむ、というより、苦境をどうやったら切り抜けるのか考え、全力で乗り越える過程を楽しんでいるのではないでしょうか?」

「レニーまで……。

 おれは、そんなマゾっぽい変態ではないと思うぞ。

 たぶん」

「違わないと思うよ!

 シナクくんは、たぶん、全力を出しきる場所にいること事態を楽しいと感じてる節があるんだね!」

『なるほど。

 これが、トップの冒険者か』

「いやいやいや。

 こいつらの意見がそのまま真実ってわけでもないから!

 そこんとこ、勝手に納得しないでね!」

「確かに、シナクさんのような方が、冒険者のすべての代表のように思われるのも困り者なのですが……。

 その他大勢の冒険者の方々は、シナクさんと比較すれば、もっと普通の人々なんですよ」

「ほい!

 レニーも、変なことを吹き込まない!」

「だから、その能力はさておき、気性や性格についてもおぬしは異常だと、さきほどからいっておるではないか」

「リンナさんまで!」

『理解した。

 このトップの冒険者は、冒険者の中でもかなり異例の存在なのだな』

「そうですね。

 かといって、今、こちらにいるなかで標準的な冒険者となると……さて、心当たりがとっさに思い当たらないわけですが……」

「当然であろう。

 普通の、当たり前の冒険者を招いてなにが面白い」

「……あ。

 やっぱ、剣聖様の選択なのね。

 今、ここにいる面子って……」

「将来化けそうなのとか、顔合わせをしたら面白い変化を起こしそうな連中をあえて選んだ」

「独断で、か……」

「なにか文句があるか?

 自分の邸宅に招く客を自分で選んで、なにが悪い」

「いえ……悪いとは、いいませんけどね……」

『異例なトップは除外して、他の冒険者たちは、なにを目的として、わざわざ危険な仕事を選んでいるのか?

 年端もいかない若年者も、少なからず混ざっていると聞くが……』

「いろいろあるんだろうが……一番多いのは、報酬の高さにつられて、だろうな。

 今、討伐しているモンスターの討伐報酬だと……そうさな。

 うまくいけば、一日で平均的な肉体労働者の、一月分の賃金を、一日で稼げる」

「いえ、それはシナクさんのような特殊な例の場合でして……。

 通常なら、その四分の一から、せいぜい三分の一程度に収まるはずです。

 それにしたって、高額であることにはかわりありませんが……」

『つまり……危険はあるが、他の場所で働く場合の賃金と比較すると、数倍の収入が見込めるというわけか?』

「簡単にいうと、そういうことです。

 事実、連日迷宮に押し寄せてくる人たちは、そのほとんどが明日の食事にも事欠く貧民階級の人たちになりますから。

 そのすべてが冒険者になれるわけではありませんが、仮に冒険者の適正がない場合でも、ギルドは可能な限り他の仕事を斡旋するようにしています」

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