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36.まじょのとりひき。

『……あっ。

 気がつきましたよー』

「……んっ。

 こ……ここは?」

『ここは、剣聖様の邸宅。いわゆる、別荘というやつですね。

 記憶は、どこまでありますか?』

「記憶……。

 確か……迷宮で……ギルドとやらに手配された医師たちに治療を受けていて……。

 そこで……ああ。

 確か、おかしな夢をみて……」

『魔王に誘惑される夢……ですか?』

「そう。

 それだ。

 そのはなしを医師たちに告げたら、甘い匂いのする気体を吸わされて……」

「意識を失って、気づいたらここにいたというわけか?」

「あ、あんた……おれの言葉が、しゃべれるのか?」

「きぼりんたちとはリアルタイムで情報のやりとりをしているのでな」

「なにをいっているのかよく理解できないが……おれは、あれからどうなって、どうしてここにいるんだ?」

「あれから、お前さんは魔王の残骸とやらに半端に意識を乗っ取られた状態でここに魔法で転移してきて、そこの双子に喧嘩を売ったわけだ。

 結果は……まあ、ダブルノックアウトだな。

 どつきあっているうちに双方の魔力と体力が底を尽き、ほぼ同時に前後不覚の状態になった」

「おれが……転移?

 魔法を使ったってのか?」

「ああ。

 お前さん自身に魔法の素養がなくても、お前さんにとりついた魔王の残骸は、いくらかの魔法を無詠唱で使えているようだったな」

「……そうか。

 いや、それよりも……おれは、結局、魔王に取りつかれてしまったのか……。

 だとすれば……すぐにでも、おれごと魔王を滅してくれ。

 あの二人だけでもおれと互角に戦えたのなら……今の時点なら、もっと大勢でかかれば、おれを処分できるはずだろう?

 おれの中の魔王は……時とともに、力を増す。

 このまま放置すれば、いずれ手が着けられなくなるぞ」

「……随分、簡単にいうのだな。

 自分の命に関わることだろうに……」

「ふ。

 もともと……おれは、おれたちの命は、ひどく軽い。

 魔王と差し違えることができるのなら、むしろ本望とさえいえる。

 やつら、魔王軍は、おれの祖父の世界を蹂躙したんだぞ。俺一人の命と引き替えに、その首魁に引導を渡せるのなら、対価としては安すぎるくらいだ」

「まあ、はやまるな。

 そんなおまえさんに何通りかの提案をさせてもらおう」

「何通りか?

 魔王を滅する方法が、そんなにあるのか?」

「だから、焦るなといっている。

 一つ目は、さっきお前さん自身がいった、お前さんごと魔王を滅ぼすこと。

 二つ目は、お前さんと魔王を完全に切り離して、魔王のみを滅すること……」

「……そんなことが!」

「できるとも。いとも簡単に。

 わたしを誰だと思っているんだ?

 最後に……わたしは、これを一番おすすめするのだがな、このまま魔王の残骸をはりつけたまま、完全にお前さんのコントロール下において魔王の能力を使いこなすこと……」

「……おい!

 そんな……」

「だから、わたしなら出来ると、そういっているんだ。

 一番目の方法は、簡単すぎて面白味がない。

 二番目と三番目は、難易度としてはどっこいどっこいだが、二番目は安全に走りすぎてやはり面白味がない。

 三番目は、多少リスキーではあるが、お前さんが心配するほどには危険でもない。

 せいぜいがとこ、数日に一回、その右腕を押さえつけて、ううっ、魔王の力が! とかわめく程度のリスクでしかなく、実際的にはほとんど危険はないといっていい。

 なにより……せっかく再生したその腕や、今後使いこなせるであろう魔王の能力は、お前さんにしてみても魅力的であろう」

「……腕?

 あ。

 そういえば、いつの間に!」

「違和感なく、動かせるのだろう?

 先ほども……かなり激しい運動をしていたが、少しも違和感を感じていなかったようだしな」

「……あ。ああ……。

 確かに……まるで、元から自分の腕だったかのように……普通に……動かせるが……」

「多少……施術やアイテムによって魔王の力を弱めなければならないわけだが……それでも、たかが残骸とはいえ、魔王の力は強大だ。

 お前さんにとっても、十二分なメリットがあるはず。

 なにせ、その腕だけではなく……多くの世界からかき集めた無数の魔法を無詠唱で使用できるのだからな。

 お前さんの境遇をうらやむ者も、今後多くなろう」

「……ふっ。

 うらやむ、か……。

 なにも知らない者なら、そういうのかも知れないがな……。

 で、あんた。

 みたとこと、かなり強力な魔法使いらしいが……」

「塔の魔女。あるいは、不眠の魔女。

 だいたい、そんな名で通っている」

「その、塔の魔女とやらが、なぜそこまでおれに親切にしてくれる?

 なにか、理由があってのことだろう?」

「よくわかるな。

 むろん、今まで提案してきた取引は無償ではない。

 いずれ時が経ち、お前さんの生身の部分が滅びたとき、残った魔王の残骸の部分は、このわたしがサンプルとしてもらい受ける。

 こちらとしては、今すぐ問答無用で引き剥がしてもいいのだが……今の、中途半端に混ざったお前さんの状態も、これはこれで貴重だからな。

 お前さんがよければ、寿命が来るまでそのまま経過を見守りたいという気持ちもある」

「強力な、塔の魔女さんとやらよ。

 あんたなら……こいつが、おれの中の魔王が暴走したら、そのときは……即座に、止めることが出来るんだおるな?」

「ああ、造作もないな。

 魔力量でいえば、そいつはわたしの万分の一にも満たない。手のひらで羽虫を潰すのよりもたやすいといえよう。

 でなければ、そもそもこのような取引を持ちかけたりはしない」

「あんたを、信じよう。

 なに、どうせ一度は死んだ身だ。

 今さら、ためらう理由もない」

「そういう割には……自棄になることもなく、魔王が暴走したあとの心配ばかりをしているのな、お前さん。

 自分のことは二の次、三の次にして、見ず知らずの他人の心配ばかり……。

 とはいえ、取引が成立するんなら、こちらとしても異存はない。

 まず最初に……その色違いの右腕に、こいつでもつけておけ」

「腕輪、か」

「ああ。強力な、隷属術式が組み込んである。

 当面は、それだけでも十分なはずだが……今後のことも含めて細かく調査し、施術をしていきたい。

 あとで、まとまった時間をもらうことになると思う。

 ところで……契約書には、お前さんの名前を記す必要があるのだが……」

「……名前?

 それは、臣民識別番号のことか?」

「なんでもいい。

 個体を識別するための記号、固有名詞だ」

「ゼグストォールマリャリイテルラムレイグラ……」

「ゼグス、でいいな。

 お前さんの、こっちでの名は、これからゼグスだ。

 元は数字だったのかも知れないが、ここではお前さんの名だ」

「ゼグス。おれの名……」

「ああ。

 欠損した右腕を取り戻し、名を得……さて、これから、お前さんはどれほどの事物や経験を獲得していくことになるのか?

 実に、楽しみなことであるな、ゼグスよ。

 こちらとしても……モルモットにはユニークな経験をしてもらえるほど、観察と分析のしがいがある。

 せいぜい……自由自在に暴れてくれたまえ」


「……ということで、たった今からこの慰安旅行の仲間に入ったゼグスだ。

 みんな、仲良くするように」

「おい、全裸。

 すると……あんただったら、一発でこいつを無力化出来たわけだな?」

「残骸はもとより、元の魔王とやらでも一瞬で無力化出来るけどな」

「だったら……なんで、今まで手を出さなかったんだよ?」

「だって、その方が面白いだろう?」

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