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32.おんせんさつじんじけん?

「……という夢をみてなあ」

「あははははは!

 そういや、温泉といえば殺人事件がつきものだよね!」

「……どこの世界のはなしだ、それは?」

「軽薄草子では定番ネタだよ!

 湯けむり女学生連続殺人事件シリーズなんかは百八巻まで刊行されてるし!」

「どっからどうつっこんでいいのかわからないシリーズ名だな」

「累計四百万部の大ヒットだよ!

 毎回、何度も描写される必然性のない入浴シーンの挿入と、終盤で犯人が崖っぷちで自供する安定したパターンが人気の秘密だね!」

「そーか、そーか。

 しかし、この炊いた米……焼き魚によくあうのな。

 この黒い紙のようなのも……食えるのか?」

「食える。

 それは、海草を集めて天日で干した、海苔という食べ物だ」

「……リンナさん。

 食べるのか泣くのか、どちらかにしてください」

「ここでモロ、東方風の食事にありつけるとは……」

「これ、リンナさんの故郷風の料理だったのか。

 この茶色いスープも、少し塩分がきつい気がするけど、炊いた米によく合うし……」

「……銀シャリに味噌汁……ううっ」

「感涙にむせんでいる魔法剣士はおいておいて、だな。

 よくも奇っ怪な夢をみたものだな、シナクよ」

「というか、たとえ夢の中とはいえ、この余を殺すなよ!

 不敬罪であるぞ!」

「夢の中のはなしで、不敬もなにもないわよねぇ」

「ああ、それだ、剣聖様。

 ひさしぶりに一人で寝たから、それも影響しているのかな?」

「あれ?

 珍しいですね、シナクさん。

 昨夜はだれも夜這いにいかなかったんですか?」

「来ると思ってな、メイドさんに頼んでこっそり使われてない部屋に寝てたんだ。

 そしたら、なんのことはない。

 こっちに夜這いしてきそうな女どもはみんなして一晩中、花札大会やってたんだど」

「……負けず嫌いの人、多そうですもんね」

「全裸とルリーカ、リンナさん、ティリ様の四人でやってたそうなんだけど、途中から誰もぬけられなくなったそうで……」

「さては……相互に監視ししあって、容易に抜け出せなくなったとみた」

「魔女さんとルリーカちゃんは、今、温泉につかっているところだね!」

「あの二人、他のとは違って体力ないからな。徹夜は堪えるんだろう。

 あの二人も、意外に仲いいよな」

「それよりも、夢の中とはいえこの余を殺したことについて謝罪せよ! 陳謝せよ!」

「まだいってる。

 王子様、王子様。

 王子様は仮にも第一位王位継承者であらせられます。

 持っている特性がアレなんであまり心配されないんでしょうけど、普通なら常に暗殺の危機に晒されていらっしゃるお身柄なのでは?」

「いや、これは……特性のことをおくとしても、性格が性格であるからなあ」

「そうなんですか? カスクレイド卿」

「おうよ。

 直系の世継ぎが他にいないというのもあるが、このおれをはじめとする他の王位継承者にしても癖が強すぎるのでな。

 同世代の他の者が次期国王になるよりは……といった比較で、まだしも安全な王位継承者であるとみられておる」

「……ははぁ。

 つまり……この王子様、普段の言動のナニさばかりが世評に高いけど、その実、官僚だか重臣だかからみれば無害で比較的御しやすい人柄、安全牌だと評価されているわけなのですねぇ」

「同世代のライバルからもまともな競争相手と思われていないわけっすね」

「まあ、そういうことだ。

 だから、現実にはこのルテリャスリ王子が暗殺の的になる心配は、まずない」

「……随分と不本意ないわれようだな……」

「……あらぁ。

 違うんですのぉ? 王子様ぁ……」

「違わぬ。

 はは。

 王位を継承するまでは無害な男と、周囲にそう思わせておくのも賢い手だてというものよ!」

「そのかわり、王位についたときには周囲からまるで信頼されてなくなっていて、国政には参加できないお飾りの王になりそうですけど」

「だから!

 そうならないためにも迷宮で実績を作り、それを地盤とするべく、だな……」

「王子を殺害するような動機を持つ者はなし、か。

 男女関係のもつれって線はまずないであろうし……」

「この王子様ですののねぇ」

「……おれの夢のはなしに、なにマジレスしているんすか、剣聖様」

「なに、軽い思考実験だ。

 どうせ休養するために来ておるのだし、その事件が実際にあったと仮定した上で、犯人や殺害方法をみなで考えてみるというのはどうだ?」

「……思考……」

「実験、ですか?」

「そうさな。余興の一環としておこうか。

 帰るまでに一番説得力のある真相を提示した者に、このあたしからなにか褒美を与えることにしよう。

 動機は、一応検討した。

 次に、王子が殺害された状況についてだが……」

「……随分と不穏な余興であることよの!」

「いくら王子でも、剣聖様には逆らわない方がいいぞ……」

「……今朝、この部屋で、喉元にナイフが突き刺さっているのを発見された……ということでいいのだな? シナクよ」

「ええ、まあ……。

 ただ、なにぶん、夢のはなしだから、細部は不明瞭でして……」

「細部、か。

 そこは、現実に準拠する……と、いうことにしよう。

 この座敷にいたのは、夜通し花札に興じていた、リンナ、ティリ様、塔の魔女、ルリーカの四名。

 それに、少し離れた場所でちびちびと酒を飲みながら歓談していた、王子、カスクレイド卿、ハイネス、マルサスの四名」

「途中までわたしもその中にいましたけどぉ、夜中に自室に帰りましたぁ」

「ふむ。

 ククリルも、途中まではこの歓談組の中にいた、と。

 ククリルが座敷を出たあと、残った四人の中で最後まで起きていたのは?」

「ええっと……寝落ちした順番っすか?

 詳しい時刻とかはおぼえてないっすけど……一番最初に王子が酔いつぶれて、その次にマルサス。

 おれとカスクレイド卿は二人で迷宮内の有効な戦い方やらなんやら、明け方まで話し込んでいまして……そのあたりで、おれの記憶も怪しくなってきているんすけど……」

「最後まで起きていたのは、このおれになるな。自室に引き上げてもよかったのだが、少なからぬ酒杯を干したあとでもあって、ひどく面倒に感じてな。このマルサスが返答しなくなったので、おれもこの場で寝ることにした。

 誰かが潰れればどこからともかくメイドが現れて毛布を掛けていたから、詳しい時刻はメイドたちに確認すればわかると思う」

「そこまでは、よし。

 少し離れたところには、四名の女子がいて、近場には寝ていたとはいえ冒険者が三名もいるこの状況下で、誰にも気づかれずにこの王子を殺害することが可能であるのか。

 絶対防御という王子特性もあるし、この場にいたのは冒険者や希代の魔女やら、いずれにせよ一筋縄ではいかない者どもばかりだ。

 これらの者どもに気づかれることなく犯行を完遂する方法があるのか、いなか?

 宿題としては、ほどほどに難易度が高いのではないかな?」

「いや、高すぎでしょう。

 王子の地位とかの要素を無視しても……この面子の、誰にも気取られることなく王子を殺害するって……あまりにも、無理ゲーっす。

 しいいていうなら……あの全裸なら、それぐらいの芸当は鼻歌交じりにやってのけるか。

 動機とか、ぜんぜん想像つかないけどな」

「駄目だな。

 ぜんぜん説得力がない」

「剣聖様に質問。

 外部の者の犯行でもいんですか?」

「説得力があればな……と、いいたいところであるが、そこまで捜索範囲を広げると、しまいには何でもありになってしまう。

 当時この邸宅内にいた人間で、なおかつ、メイドたちとうちの子どもたちは除外することにする」

「邸宅内にいた人間に限定……というのは納得できる。

 しかし、メイドや子どもらを除外するのはなんでじゃ?」

「帝国皇女よ。

 メイドや子どもたちは……われらにとっては一人一人見分けがつくが、ほとんど初対面に近い招待客たちには、名前も顔もおぼえておらんだろう。

 ここには、同じような年格好の子どもたちやメイド服のおなごがそれぞれ二十名以上が来ておる。その一人一人に動向を探っていたら、時間も足りなくなる」

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