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19.いつのまにやらさくせんかいぎ。


「ええっと、ですね……。

 まず前提として、今のギルドは急造の部分が大きい、ということを強調しておきます。

 もともとは、時折出没する害獣退治とか商隊の護衛程度しかお仕事がなかった弱小ギルドが、例の迷宮が出現して以来、急速に規模が膨れ上がって今にいたる。

 迷宮は、そのまま放置すればかなりの脅威になりますから、国からも多額の補助金が出ています。だけれども、それをうまく生かし切れていない。

 ……というのが、現状なわけです」

「迷宮捜索とか中から出てくるモンスターへの対処とか、そういうノウハウがないまま、場当たり的に周辺地域から人を募集してきて、適性も見極めないままとにかく人海戦術でやみくもに迷宮の中に送り込んで……」

「そして……未曾有のロストをだしてしまった、と。

 まあ、ギルドはともかく、町の人たちにとっては、モンスターが外に出てこないことが重要だもんな。

 冒険者なんて、多かれ少なかれ、どこにいっても消耗品扱いなわけだし……」

「迷宮内の危険性を過小評価していて、それに気づいたときにはすでに手遅れで、軌道修正する時期を逸していた……ということでもあります。

 今になってあわてて冒険者の安全性を高めようとしはじめてはいますが。

 でも、今のまま、冒険者さんたちを使い捨てにし続けますと……短期的にはともかく、長期戦になっていくと、じりひんになっていくわけですね。冒険者もギルドも地元の人たちも、誰も得しない。

 こういってはなんですが、冒険者だけに限らず、人材というものは、安易に消耗していいものではありません。

 人道的な見地とかを度外視しても……ベテランで、知識や経験を蓄積してきた人たちが、単純なミスでロストするのは、われわれ全員にとっての損失です。

 とにかくロストする人を、可能な限り少なくするのが急務なわけです」

「ギリスちゃん。熱血するのはいいけどさ。

 冒険者の支援、って……具体的に、なにができるの?」

「そうですね。ざっと考えつくのは……。

 まずは、迷宮付近に常勤のお医者さんを誘致。

 あわせて、冒険者さんたちへの、各種応急処理の講習。

 効果が認められた各種解毒剤など、医療品の配布」

「その場で血止めをする方法を広めるだけでも、それなりにロストする人が減りそうですね」

「おおぴらに予算をかけて医療行為に力をいれておけば、ギルドは冒険者を見捨てないぞ、ってアピールにもなります。

 あとは、迷宮入りを経験している冒険者さんたちへの、地道な聞き取り調査と、それを資料として蓄積していくこと」

「あー……それは、つまり……」

「攻略本ってやつだね!

 生き残った冒険者たちからはなしを聞いて、ギルドぐるみで迷宮攻略本を作るってことだね!」

「まるで未知の事態に遭遇したら、その人自身の判断で対処するよりほかに、しかたがないけど……過去に誰かが遭遇した危機なら、うまく脱することができるようになる」

「だから、情報の共有化して危険を減らそうといって前々から声をかけているのに、ほとんど相手にされていないんだもんなあ……」

「シナク、落ち込まないで」

「迷宮内の情報、例えばモンスターの効率的な倒し方などを、ギルドがお金で買います……と告知すれば、少しづつ集まってくるかと。

 あとは、読み書きが出来る人を何人か雇って聞き書きして、蓄積、整理していく」

「それから、特に初心者に向けて、迷宮探索に必要なグッズをセットにして、出来るだけ安価にしてギルドで販売する。内容はこれから吟味しますが、動きやすくて丈夫な衣服、実用的な価格と性能の武器、救急用品各種、筆記用具……といったところですか。

 大量に発注すれば、単価はいくらか抑えられると思いますし……駆け出しで持ち合わせが心許ない冒険者の方々には、先々の報酬を担保にしてギルドがスターターキットを提供してもいい」

「初心者といえば、初めての方には何日かにわけて、迷宮内の基本的な知識をレクチャーするのもいいですね。

 それだけでも、ぶっつけ本番よりはロストする割合がぐっと減るかと思います」

「くわえて、迷宮内の安全が確認された場所でなら、水や食料、医薬品などの消耗品を販売する売店を開くのもいいですね。

 こちらなど、冒険者の方々だけではなく、人夫さんたちにも需要があるでしょう」

「あと、迷宮の入り付近に、冒険者さんたちや人夫さんたちの荷物を預けたり、着替えたりする場所なんかも確保したいです。

 今も急造でギルドの受付業務を入り口付近で行っていますが、あんなお粗末なものではなく、もっと本格的なギルドの支部をあそこに作ります。

 ギルド内部でもそういう案は、かなり前から提出されてはいるのです。迷宮の入り口付近に、ある程度の規模の支部を建築しよう、という。

 しかし今は、内勤の事務処理業務全般がパンク気味なんで、その計画案事態がろくに検討されないまま放置されている状態です」

「ひとつひとつの案はいいと思うけど……ギリスさん、それら全部、実際に実現できるの?」

「できますし、やります。というか、やらないと、この町は全滅です」

「全滅、って、そんな大げさな……」

「決して大げさにいっているわけではありません。

 わたし……立場上、過去に出現した迷宮についての記録にも、目を通しているのですが……あれ、放置しておくと、出現するモンスターはどんどん強力になっていくし、数も増えていくんです。

 一度迷宮の外にモンスターが溢れ出すと、もう、とうとうなことをやらないと止められなくなります。

 一番酷いときで、国一つ丸ごと大規模攻撃魔法で焼きはやって、ようやく被害の拡大をくい止めた、という記述があります。

 今のうちに、長期的に渡って迷宮と互角に渡り合えるような、疲弊しにくい体制を整えておかないと、手遅れになります」

「いやあ……なんか、はなしを聞くと、まるで、大国との全面戦争みたいだなあ……」

「そう……ですね。

 これは、迷宮とわたしたちとの、全面戦争なのかも知れません。

 みなさんは、これまで通り、冒険者としてやれることをやり続けてください。

 わたしも、ギルド職員として……みなさんの後方を守るものとして、出来る限りのことをします。

 たかが受付嬢に、なんの権限があるわけでもないですが……現在のギルドに少なからず公的資金が流入している以上、正式なルートで今いったような稟議書を提出すれば、上も無視はできないはずです」

「おはなしは、よくわかりました。

 ですが……それだけだと、弱いですね。

 コニスちゃん。知り合いに、ギルドの受付業務を出来るような方はいらっしゃいませんか?」

「いるよー。

 何人必要?」

「とりあえず、三人ほどでいいでしょう。

 あとでもっと必要になるかも知れませんが……」

「ほいきた。明日の朝までに集めておく」

「読み書きと帳簿が出来る方も……そうですね、二十名ほど」

「そっちは、いきなり全部は無理っぽいな。

 すぐに集められるのは十人以下になるけど……」

「とりあえずは、それでいいでしょう。

 ぼくは、ちょっと昔なじみに会ってはなしが通りやすくなるよう、工作してきます」

「あっ……あの……。

 レニーさん、なにを……」

「これは戦争なんでしょう?

 だったら、手段を選んではいられません。

 元商人と元貴族の人脈もフルに活用します」

「もちろん、こっちもギルドの御用商人にきっちり食い込むつもりだから、変な遠慮をする必要はないよー」

「内勤の負担を軽減するための手配はこちらで考えます。

 ギリスさんは当面、新しく来る受付嬢や事務員たちの教育と、その、さっきいっていた、上を説得するための稟議書とやらの作成に専念してください」

「ほえー」

「なに、ぼうっとしているんですか、シナクさん」

「あ。いや。

 こういうことになると、おれって役立たずだなあー、って……」

「いやいや。

 シナクさんには、新人の方々に迷宮でのサバイバル技術を講習してもらいますから……」

「え?」

「適任ですね」

「ですねー」

「っちょっ! 本人! 本人の意向は無視ですかっ!」

「あと、戦闘技術の講師も欲しいところですが……」

「レニーくん、レニーくん。

 ひとり、とびっきりな人がいるの忘れてるよ!

 もうすぐ体があく予定の、ごっつ強い人が……」

「ごっつ強い人、って……あっ!

 あの……。

 いや。あの人は、確かにごっつ強いですけど……気軽に頼んでいいのかなあ?

 それ以前に、あの人、他人に教えるような適性、あるのかなあ……」

「……なんか、レニーがぶつくさいいはじめた」

「え?

 最近、体があく……って、あっ! あれっ!

 確かに……あの方、戦闘技術はずば抜けていますけど……」

「……ギリスさんまで……」


「でも……大陸にたった一人しかいない剣聖様を……冒険者ギルドの講師に誘うって……いろいろ、さしさわりがあるんじゃありませんか?」


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