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27.さいこうらんくはとぼけるのがおすき。

 ギルド本部。

「今回の大量発生、実質、魔王軍との戦闘になるわけですが……目にみえる損害こそ、軽微ですが……目にみえない損害が……」

「経済的な損失ですね、わかります。

 元魔王軍兵士をしばらく保護するために必要な費用だけでもかなりの金額になりますし……しかも、これはいつまで継続して必要になるのか、まるで見通しがたたない……」

「大量発生とは、毎回、微妙に性質が異なりますから、対策といっても完璧にはいきませんね。

 こうなると、迷宮内に隔壁述式の敷設する作業が間に合ったのが、せめてもの救いでしょうか……」

「確かに、仮にあの隔壁が間に合わなかったら、人的経済的な被害は留まるところ知らず、どこまでも拡大していったでしょうね」

「それもあるんですが……あれがあったから、せっかく軌道に乗りはじめた迷宮内共用部事業が、いいところで頓挫するところでした」

「今や、転移魔法陣の使用料徴収事業だけでも、かなりの収益になっていますもんね」

「ええ。

 あれも、これも……お金になることはいいことなんですが、ギルドがなんのためにお金を必要とするのか、本来の目的を見失ってはいけませんね。

 これが……」

「ええ。

 元魔王軍兵士救済事業にかかる予算見積書になります」

「……医療費が、予想したよりも少ないですね」

「魔王軍の損害は、そのほとんどが軽傷か戦死でり、重傷者が思いのほか、少なかったので。

 もっとも多かったのは、ギルドへの投降者ですが」

「戦死、ですか……。

 われわれにはどうしようもない状況でしたが……重い、ですね」

「その数少ない重傷者の、最後まで目覚めなかった方が……たった今、目覚めたそうです。

 これで、ギルドが救助した負傷者は、全員、健在が確認されました。治療のめどがついた、とのことです」

「治療のめど、ですか?」

「ええ。

 その、目覚めなかった方、というのは……確かに重傷を負っていましたが、それでも頭を打ったような形跡はなく、なぜこれまで意識を失ったままであったのか、医師の方も原因がわからかったもので……」

「原因不明の昏睡、ですか?

 でも……意識を取り戻したということであれば、喜ぶべきなのでしょうね。

 その方は、今……」

「目覚めたときは取り乱したそうですか、すぐに現在の状況を軽く説明され、落ち着いて眠りについたそうです」

「……取り乱した?」

「その方は……右手の肘から先を、失っておりましたもので……」

「……そ、それは……。

 他の重傷者の方々ともども、ギルドからも可能な限りの保証をお願いします。

 そのような方のために用立てこその、お金です」

「はい。

 では、そのように。

 次に、食料の買いつけ並びに輸送計画の詳細が決まりましたので……」


 剣聖所有山荘内。

「……そういや、バッカスと剣聖様の姿がみえないな」

「とうの昔に自室にさがったわ。

 幼子の生活時間に合わせれば、自然に早寝となろう」

「それもそうか。

 剣聖様も、今日はお酒を召し上がらなかったし、なんだかんだいって、子煩悩ないい夫婦だよな」

「そういえば、わらわは、剣聖様に一度も稽古をつけてもらってないのであるが……」

「ああ。

 どうせ時間もあることだし、明日にでもお願いしてみてはいかがですか、ティリ様。

 もっとも……あの人のことだ。

 こっちからいわなくても、全員、強制参加の特訓とか気まぐれにおっぱじめそうな気がしますけど……」

「わたしとしてはぁ、剣聖様よりも、ぼっち王先輩に稽古をつけて欲しいのですけどぉ……」

「……おれぇ?

 いや……おれのは、思いっきり我流だからなあ。

 変な癖をつけちゃうのもなんだし、稽古ならもっとちゃんとした人とした方が、絶対、身のためになるって」

「我流だからですよぉ。

 剣聖様にせよティリ様にせよ、それはそれはほれぼれするほどの綺麗な、基本に忠実な太刀筋で……でも、そうであるからこそ、次の一手が容易に予測できます。

 でも、ぼっち王先輩のはぁ……」

「ああ、なるほど。

 おれのは……我流ゆえに、次の動きが予測しにくい、というわけね」

「ええ。

 わたしぃ、今はなんでも吸収したい時期なのでぇ……」


「ここのギルドと、他の土地のギルドの差異、であるか……。

 それはやはり、迷宮があるかどうか……」

「リンナ、それだけでは不足。

 リンナはロストしていた時期があるから、いろいろ見逃している」

「そ、そうなのか? ルリーカ」

「そう。

 うちのギルドとよそのギルドの違い。

 それは、ギルドの職員が、本気で冒険者をフォローしようとしているのか、どうか。

 最初に事務方筆頭のギリスが本気で動き出し、その本気が他の職員にも伝染した。

 そして、そのギリスを本気にさせたのは、あそこにいるシナク」


「こら。

 ずるいぞ、ククリル。

 おまえだけなんて……。

 そもそもだな。

 軽戦士であるぼっち王先輩のスタイルは、このハイネスに近く……」

「このマルサスもつき合う」

「……うっさいわねぇ。

 ハイネスもマルサスも、自分で直接頼んだらいいじゃない。

 伝説のスリーエスランクと手合わせする機会なんて、これを逃したら、今度いつ巡ってくるのかわかりはしないんだから……」

「……ちょっ……ちょっと待て!

 ククリルさん。

 今……スリーエスとかいったか!」

「ええ、いいましたけど……。

 大量発生の際、一日で千体以上のモンスターに手をかけるという記録を樹立。その、他の冒険者と隔絶した成績から、本来ならAまでしかないランクの、そのさらに上に位置する者とギルドに認定され、三つのSランクを冒険者カードに刻印されたシナクさん。

 今でさえ……他の冒険者は、ただの一つも、Sランク評価を得ていない。

 他にも……賞金王だったり、知的種族とか、ドラゴンとかグリフォンとかのレアなモンスターとの遭遇率が異常に高かったりするけど……それよりも、わたしが興味あるのはぁ、やっぱりぃ、もっぱら戦闘能力になるわけでぇ……」

「ええと……それ、有名なの?」

「なにか?」

「おれに関する噂、全般。

 とくに……あー。

 ランクについて」

「ああ。

 ランクについて、ね。

 割と、有名ですよぉ。

 研修生くらいなら、あまり耳に入らないかもしれませんが……放免されて冒険者として働き始めると、いやでも耳に入ってくるしぃ……」

「……そうなの?」

「そうですよぉ。

 ぼっち王先輩は、いつも両手に花だったりぃ、そのうち一人が帝国皇女でぇ、もう一人が貴重な魔法剣士だったりぃ……このパーティはぁ、とかく、目立つ組み合わせだしぃ……」

「……嘘だろ……。

 おれのことなんか、誰も気にとめないかと思ってた……」

「ぼっち王先輩、それはないですよぉ。

 あれだけ派手に活躍していてぇ……冒険者の間で噂にならないわけ、ないじゃないですかぁ……」

「っていうか……ぼっち王先輩。

 本当に……目立っていないつもりだったんですか?」

「周囲を騒がすだけ騒がして、当人はどこまでもマイペース。

 台風の目のようなお人だ」


「……あの……シナクさんという方が……」

「ギリスを動かし、ギリスがギルドを動かして……変質させた。

 他にも、研修制度の黎明期に大きな貢献をしたり……ことに、現在でも使用されている座学の教本の七割方は、あのシナクの発言をもとに口述筆記したもの。

 いろいろあるけど……シナクがいなかったら、ギルドの形も今とはかなり違っていたはず」

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