表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/550

25.もとまおうぐんのげんじょう。

 迷宮内、元魔王軍仮説居住区。

「……くしゅっ!」

「マルガさん、風邪ですか?」

「……ではない、と思う。

 とりあえず、これが追加注文分のリストね」

「えっと……最初の荷が入るのが、八日から十日前後、ですか……。

 これくらいなら、備蓄分でなんとか間に合いそうっすね」

「間に合いは、するけど……栄養バランス的には、ちょっと問題ありね」

「討伐したモンスターの肉類は、それこそ売るほどあるっすからね。

 餓えはしないと思うっすけど……」

「穀物とか野菜類は、少し節制しないとどうしようもないね。

 食堂や保存食工場にも協力してもらって、どうにかするしかないか」

「ここいらにはまだまだ雪が残っているっすけど、暦の上では春っす。

 ぼちぼち、少し南下した地方では春物の農産物が収穫されてくる時期っすから、そちらでだぶつき気味の作物を中心に渉外さんに調達してもらって……」

「ほかに選択肢もないしね。

 あとは……効果が出るのは少し先になるけど、キャヌが企画書だしていたあれ、この際、やっちゃおうかってはなしがギルドの上の方で出ているみたい」

「マジっすか?

 それは……うれしいなあ」

「もともと、迷宮内飲食店から出てくる残飯、ヒトの排出物、モンスター解体工場、保存食工場とかの有機廃棄物はひとまとめにして発酵させて、肥料として利用する予定だったけど……現状、それが当初の予定よりもずっと大量に出来上がってきているしね。

 そのまま売りに出しても、輸送費やらなんやら考えると、ちょっと利益率薄いし、ここに来て使える人手が一気に増えちゃったし……なにより、今後もこんなことがあるんなら、近場で農産物を確保しておくのはリスクヘッジとして当然になってくるわけだし……。

 ただ、この辺の地質は砂礫が多くて含水量が少なく、栽培できる品種も自然と限られてくるわけだけど……」

「自分が、責任を持ってここの地質にあった作物を探すっす!」

「いずれにせよ、ギルドによる農地経営計画については少し先のはなしになるし……それよりもも目先の、元魔王軍兵士たちの言語解析状況はどうなってんの?」

「語彙ならびに文例収集が、ピス族の通信機と知性機械、それにきぼりんさんたちの協力のおかげで、急速に進展しているっす。

 言語数は多いんですけど、その分、使用者も多いんでサンプル採集に困ることはないっす。

 元魔王軍兵のみなさんも、もともと片言とか身振り手振りでコミュニケーションは取っていたわけで、そのに通信機通訳というより便利な道具を貸し与えられたわけで、関連づけられたり意味が特定できたりする単語数は急速に増えているっす。ピス族の通信機を中心とした小コミュニティ、みたいなものがこの仮説居住区のそこここにできている状況っす。

 彼らにしてみても、こちらとうまく意志疎通することが今後の待遇に直接響いてくるって直感的に理解しているんで、身内同士で、あるいはギルド側との交渉には積極的っす。

 一応、自分たちの立場とギルド側の意向は、理解してくれているようっすけど……」

「戦争に負けて実質、捕虜みたいな立場になっていることと、出来るだけ早い段階で、自分たちの食い扶持は自分たちで稼いで欲しいこと、この二点さえ理解してもらえば、今の時点では十分だしね」

「ええ。

 その二点については、ドラゴンのコインを持ったギルド職員が繰り返ししっかり伝えていることもあって、十分に理解してくれているみたいっす。

 迷宮内のお片づけや、残された死体の埋葬作業も積極的に手伝ってくれたし……なにより、一方的に命令するだけだった魔王軍とは違って、いちいち希望や意見を聞いてくるギルドのやり方に感激してくれているようで……ギルド側が指示することについては、全般的に協力的っす」

「他の知的種族とは違って、意志統一のされていない烏合の衆だから、帝国側としては今までよりもよっぽど扱いにくいみたいだけど……」

「でも、帝国大学の先生方は、人員を大幅に増やして、積極的に彼らの中に入っているっす」

「そりゃ……先生方にしてみれば、他の世界の言語や種族なんて、貴重なサンプルでもあるわけだから……。

 とはいっても、今ここにいるのは、髪や肌の色こそ多少風変わりではあるけど、外見的には、ほとんどがヒト族みたいだけど……」

「どうやら、こちらでいう異族みたいな存在をいれるより、比較的均質で、それだけに扱いやすいヒト族を中心にして、足りない部分はモンスターや魔法で補ったのではないか、と帝国大学の先生方がいっていましたっす」

「……運用コストの問題、か……。

 個体の能力では見劣りするものの、異族よりはヒト族の方が数が揃えやすいだろうしね。

 食料確保の問題もあるし、異種族混合の軍隊はよほどのメリットが無いとあえて運用しようとは思わないか……」

「数万体にも及ぶ、複数種類のモンスターを軍事行動に活用していたことも、先生方を驚かせていたっす。

 餌もばらばらだったはずだし、長期的に密集させていても暴れることがなかったこと、衛生状態や健康状態の維持方法など、不思議な点、不可解な点が目白押しだとかで……独自の運用体系を開発していたことは確かなんすが、その具体的な点になると、わからないことばかりと嘆いていたっす」

「確かに、いわれてみると、考えれば考えるほど無茶な点ばかりだよね、魔王軍って。

 こちらの常識で照らしてみれば、どうやったってまともな軍隊にはなりっこないはずなのに……」

「そういった点も含めて、たとえ断片的なものであってもなにか事情を知っている人がいないかと、先生方が何十人か、こちらの仮説居住区の人たちに混ざって聞き取り調査を開始しているっす」

「……まともな翻訳もできなていい、今の状況で?」

「身振り手振りと、通信機の断片的な単語翻訳で、なんとか聞き込みをしているようっすね。

 先生方の根性も、半端ないっす」

「……そんくらいやった方が、相手も信用してくれるだろうし、言葉も覚えるだろうし……。

 一見無茶なようでいて、かえって効率よかったりするのかな?」

「そうかもしれないっすね。

 ギルド側としては、さきほどいった迷宮内のお片づけやこの居住区内の各種施設設営、それに食事の用意や配膳などに必要な人手は、なるべくここの人たちにやってもらうようにしているっす。

 ドラゴンのコインで希望者を募ると、すぐに大勢の人たちが集まってくださるので、居住区内のお仕事だけではなく、少しづつ迷宮内の他のお仕事も、徐々に増やしていってもいいかと……」

「ぼちぼち落ち着いてきたし、現金収入になる仕事を割り振っていけば、今後の変化も加速するか……」

「そう思うっす。

 言葉こそ通じないものの、変に特別扱いしない方が、彼らもはやくこちらになじむんじゃないかと……」

「ん。

 そのへんの差配は、キャヌに任せるわ。

 あんたももともと、短期仕事の受注関係をやっていたわけだし、それだけに慣れたもんでしょ?」

「大学の先生方とも含めて、任せてくださいっす。

 そのかわり、マルガさんは……」

「ええ。

 引き続き、ギルド本部とこっちのパイプ役ね。

 今後も、要望とか提案があったらどんどんいってきて」

「了解っす」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ