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23.まじょどうしのたいけつ。ただし、たっきゅうで。

「塔の魔女!

 勝負よ!」

「勝負?

 なんの?」

「卓球!」

「断る。

 キング・オブ・インドアな引きこもりにスポーツの勝負を挑むなんて、無謀な……」

「逃げるのか!」

「……あー。

 いいよもう、そちらの不戦勝ということで……」

「その!

 いかにも投げやりないいかたがー、むーかーつーくー」

「姉さん、いい加減に……」

「……おい、全裸。

 ああいっているんだから、形だけでもつきあってやったらどうだ?

 一回だけでもつき合ってやれば、大人しくなるんじゃないか?」

「……お前さんまで、そういうのか……。

 では……ふむ。

 ひとつ、条件がある」

「……いやな予感しかしやがらねーが……。

 いいさ。

 一応、いってみろよ」

「卓球をしている間、お前さんがうしろからわたしの胸をおさえておけ」

「……は?」

「この浴衣な、着ていて楽なのはいいんだが……この格好で激しく動くと、この胸が暴れ回って邪魔でしょうがないんだよ。

 それを防止するために、お前さんがわたしの動きに合わせて背中から手を回し、卓球につき合っている間中、しっかりとホールドしてくれると約束するんなら、つき合ってやらないこともない」

「……なんという羞恥プレイ。主におれ的に。

 あんたには……常識とか羞恥心というものがないんだな……」

「常識とか羞恥心?

 一応、あるにはあるぞ。

 世間一般のそれとは、基準値が大きく異なっているだけで……。

 で、どうする?

 二人羽織り的にお前さんを背中にひっつけた状態で、あの小娘と卓球をすればいいのか?」

「……いや。

 絵面的にもおれの今後の社会生活的にも、そんな役割は頼まれても勤めたくはない」

「では……このはなしはこれまでのことだな」

「ちょっと待ったぁ!」

「……リンナさん?」

「その役割、シナクに成り代わって拙者が務めてしんぜよう!

 同性ならば、なんら問題ではない!」

「……絵的にみると、同性でもしっかり変態的だとは思いますが……」

「魔法兵のパニスどの!

 そちらも、この条件で文句はあるまいな!」

「……え?

 …………ええ。

 まあ……別に、文句は……ないんだけれど……」

「……今からでも卓球勝負を申し込んだことを、撤回した方がよくはありませんか? 姉さん。

 塔の魔女どのも……その、当初われわれが想像していたのとは、かなり違ったお人柄のようですし……」

「テリスは黙ってて。

 このわたしが挑戦して、塔の魔女が受けた。

 そう、途中の課程はともあれ、その事実こそが大切なのよ!」

「姉さんがそうおっしゃるのなら、もはや止めはしませんが……。

 この勝負、勝っても負けても得るものがないような気がします。

 それどころか……失うものの方が多いような……」

「……失うもの?」

「姉さんの……パブッリックイメージです。

 次期国王の御前で、このような喜劇を姉さんが好んで演じなければならない理由が、ぼくには理解できません」

「そ、それは……」

「……姉さん。

 今にいたるまで……そのことに、思い至らなかったのですね……」

「テ、テリスがもっと強く止めなかったから!」

「ぼくは最初から強く反対していましたよ!」


「……ふむふむ。

 ようは、この板でこの玉を打ち返せばいいと。

 ところでこの競技、魔法の使用は可能なのか?」

「可能なわけがなかろう!

 どこの世界にたかが卓球に魔法を混ぜる馬鹿がいるのか!」


「……あっちはあっちで、いろいろ不安ですし……。

 姉さん。

 意地を張らずに、今からでもキャンセルした方が……」


「ところでリンナとやら。

 お前さんは、パラメータ操作系の魔法も使えるとかいっていたな」

「……使えはするが、それがなにか?」

「速度や反射神経を加速する魔法、すべて自分自身にかけておいた方がいいぞ。

 やるからには、本気でやる」

「……塔の魔女よ。

 そこまでいうのであれば……よほどの、自信があるのだな」

「ああ。

 この薬物の力を借りれば……」

「ドーピングも駄目だ!

 卓球!

 たかが、座興の卓球だぞ!」

「……魔法も駄目、薬物も駄目。

 それでは……ぜんぜん、真剣勝負にならないではないか……。

 あっ、そうか。

 では、速度補正のアイテムを……」

「アイテムも使用不可だ!

 使えるのは、おのれの肉体とこのラケットのみ!」

「……なんとぉっ!

 そんな……なんと、原始的な……」

「……はぁ。

 原始的もなにも、スポーツとは元々そういうものであろう……」

「キング・オブインドアの引きこもりに、そんなことをいわれてもな」

「……シナクのやつは、普段からこんなのの相手をしているわけか……」


「……姉さん。

 本当に……後悔していませんね?」

「………………今さら、後に引けないじゃない……」


「……ええ。

 それでは、双方とも、準備はいいですね?

 では、はじめ!」


 ブン!


「サーブで空振りをするな」


 コン!


「……よっ……」

「なんで、体が、玉とは逆の方向を向いているのか?」

「……はっ!」


 コン!


「目を瞑ったままラケットを振っても、玉に当たるわけがなかろう」


 コン!


「……玉が通り過ぎてから振って、どうする……」


 コン!


「……あっ」

「自分の体で止めるのも、駄目……」


 ……。

「ええ。

 見たとおり、魔法兵のパニスさんの圧勝ですね。

 というか……ぜんぜん、ラリーが続かない……」

「まあ、こんなもんだろう」

「……圧倒的に負けた側が、妙に清々しい顔をして胸を張ってるんじゃないよ……」

「……」

「……」

「……満足ですか、姉さん」

「……」

「……空しい」

「……やっぱり」


「……負けた……」

「……リンナさん?」

「あの圧倒的な充実感は、反則だろう」

「……この人の傷が、一番深いような気がする」


「……一口に義勇兵といっても、いろいろですしぃ……。

 今も残っている人たちは、比較的まともだと思いますけどぉ……」

「ふむ。

 家風というか、尚武の家柄出身の者は、迷宮の環境に適合しすぎて、他の冒険者と見分けがつかなくなっておるの。

 この余にしてから、少学舎への寄付を申し込まれて、はじめて義勇兵であったことに気づく有様であるし」

「ああ。

 平民は、寄付や施しなんて発想自体、まずしないしな」

「情けないのは、最初の数日で自主的に帰還していますからね」

「少学舎を運営しはじめて気づくのは、他の種族の隠れた優秀さであるな。

 大陸共通語の読み書きを希望する者は、まず少学舎の門を叩く。

 そこで、他の知的種族とも接触する機会があるのであるが……それぞれに、ヒト以上の能力や文化を持っておる」

「能力は、冒険者やってればいやでも実感させられるところですが……」

「地の民やリザードマンに力で勝てるヒト族なんて、普通ならいないもんな。

 カスクレイド卿のような補正持ち、みたいな例外はあるにせよ……。

 しかし、文化も……ですか?」

「文化と、それに知性のありような。

 例えば地の民は、有名な金属加工技術のみならず、数十代に渡る長い一族の歴史を、叙事詩という形ですべての民が暗唱している。

 文字に起こせば数十万行以上にもなる長大なものだが、一部の貴族階級のみならず末端の平民までもが、言葉をおぼえるか思えないかという幼い年齢の時点で自然と教え込まれ、暗記してしまっている。

 文化の違いであるのか、それとも頭脳の構造がヒト族とは根本から違うのか……いずれにせよ、侮れない相手であることは確かだ」

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