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18.うけつけじょうがけついをあらたにする。のはいいけど、いいのかこんなきっかけで。

「……うーん……」

「あ、シナクくーん。

 ギリスさん、気がついたよー!」

「はいはい。

 大丈夫ですか?」

「……たぶん。

 わたし……あ。そうそう。突然、黒い仮面兜の人が目の前に現れて、シナクさんがそれを倒して……」

「倒してない倒してない。

 ギリスさん、まだちょっと混乱していますね」

「ええっと……ここは、元冒険者の方がやっている、お店、でいいんですよね?

 たしか、シナクさんに案内してもらって……」

「そうそう。

 そこで全裸のはなしになって……」

「なんですか、全裸って……。

 え? あれ?

 こんなやりとり、前にもしているような……」

「ええ。

 その全裸というのが、以前おれが助けられた塔の魔女で、あそこで大カマキリの脚の塩ゆでをくわえている黒い仮面兜です、というはなしになって……って、大丈夫すか? またふらつきだしましたけど」

「だだだだ、大丈夫です。たぶん。

 そ、そっかぁ……あれ、夢じゃあなかったんだ……。

 でも、あの人って本当に塔の魔女なんですか?」

「よくわからないけど、なんかそうらしいな。

 おれは余所者だからよくわからないけど、ここいらではけっこう有名なんだって?」

「有名というか、子供向けのおとぎ話の登場人物みたいなもんなんですけど……。

 そっかぁー……あの人、ほんとうにいたんだぁ……」

「ルリーカも保証していたが、超絶魔法使いであることは確からしいな。

 おれとしてはそんなことより、性格破綻者としての印象のが強いけど」

「普段、全裸なんですって?」

「本人の証言によれば、実験のときと外出時以外は、基本、全裸らしい。その他にもまあ、いろいろと変な人ではあるんだけど、それでもおれにとっては一応命の恩人だからな。

 おれとしては、あまり粗略には扱えない」

「あっ。

 ひょっとして、シナクさんがこの前貯まっていた報酬を一気に引き出そうとしたのも……」

「そうそう。

 あの人に、借りを返すため」

「なるほどー……おかしいと思ったんですよね。

 シナクさん、お金にはあまり執着するタイプではないし、事務所では、悪質な詐欺にでもあったんじゃないかって噂していたところなんですよ」

「はははは……。

 なんか、ギルドでおれがどんな目でみられているのか、如実に理解できる心温まるエピソードですね、それは」

「私生活ではダメダメもいいところだもんねえ、シナクくんは」

「また、コニス、お前は……」

「だってそうでしょ?

 あんだけの報酬があれば普通、家の一軒でも買ってるてのに、いまだに町外れの宿屋に狭い部屋とってるし……」

「留守がちで一人身ななおれが、家を買ってもなあ……。買ったら買ったで、別に家事とかする使用人を雇わなけりゃならないし、そういうのを管理するのも面倒だし……どうせ寝に帰るだけの場所だし、家事もしてくれる宿屋で十分だろ」

「仕事と宿との往復で、ほとんど遊びにいくことがないし……」

「無趣味なんだよ」

「いい年齢して彼女の一人も彼氏の一人もいないし……」

「ほっとけ。

 というか、彼女はともかく彼氏ってのはなんだよ?」

「シナクさん、つきあっている彼女さんとか、いないんですか?」

「ギリスさんも、そういうところだけ食いつきがいいし。

 ええ、ええ。

 誰ともつきあってはませんよ、悪うございましたね、モテない男で!」

「モテないこともないんですけどねえ。

 シナクさん、稼ぎ頭の冒険者として町でもそれなりに顔を知られてきていますし、ぼくの知る限りでも、今までに何人かの女性がさりげなく近づいてはきているはずなんですが……」

「レニーもあんま、余計なこというなよ」

「そうそう。

 シナクくん、人当たりが悪いわけではないけど、少し親密になってくるとすぐに距離を置いちゃうんだよね。

 もう少し、軽く考えてもいいのに……」

「おい、コニス。

 いい加減に……」

『それは、あれだな。

 このシナクが童貞だから、女性との適切な距離感が掴めないためだとみた』


「……おい……」

『……しゅこー……。

 しゅー……』


「みてみろよ、この空気。

 あんだけ騒がしかった店の中がすっかり静まりかえっちまったじゃねーか!」

「あ、あの……ぼっちの兄貴。

 本当に、その……」

「あー。

 もう、ヤンキーまで食いついてくるんじゃね!

 なんだよそのなま暖かいまなざしはっ!」

「シナク、どうていって、なに?」

「ルリーカが知るにはまだはやい。

 あと二、三年もすればいやでも知ることになるから、今は教えません」

「まあまあ、シナクさん。

 たとえシナクさんが性交渉を経験していなくても、シナクさんの人格までもが否定されるわけでもなし……」

「さりげなくお前が一番キツく追い打ちかけてるよ、レニー」

「ぼっちの兄貴。

 なんだったら後腐れがない女、一人二人紹介しやしょうか?

 兄貴が相手なら、喜んでほいほいついてくる女なんて、いくらでも紹介できるんですが……」

「だーかーらー。

 そういうの、おれ、当面はいらねーから。

 もういい加減、その話題から離れてくれよ!」

「やっぱりシナクさん、女性よりも男性の方が……」

「ギリスさんはいったいおれをどういう目で見ていたんですか、今まで……」

「塔の魔女さん。

 今のはなし、本当ですか?」

「このわたしが全裸で抱きついて添い寝してもなにもしてこないからな、こいつは」

「シナク、おめえ……なんて、なんて! なんて!! もったいないことをっ!」

「マスターまで興奮するなよっ!」

「サッキカラ話題ニナッテイルノハ、アノニンゲンノ生殖活動ニツイテナノカ?」

「ええ、まあ。

 ぶっちゃけてつきつめていえば、そういうことになりますねえ」

「ニンゲンノ生態ハ、ワレラニトッテ、イマダニ理解デキナイコトガオオイ」

『身体的な機能としては、まるで問題がないのにな。

 毎朝、こんなに元気に……』

「だから、そこ、具体的なサイズを手で示すんじゃねえ、このセクハラ魔女!」


「ぷっ……」

「……ギリス、さん?」

「ぷくく。あははははは。

 いえ、あの。ごめんなさい。

 くくく。なんか、一人だけ緊張してた自分が、馬鹿みたいだなあ、って……。

 あー。

 なんて説明したらいいんだろ?

 冒険者の方々も、塔の魔女さんも、こうしてみるとわたしたちとあんまりかわんないんだなーって……」

「……これって、どういうことよ、レニー……」

「ぼくに聞かれましても……」

「だって、ですよ?

 冒険者の方々って、変じゃないですか?

 強そうな元軍人さんとか入ってバカバカ死んでいく迷宮に、毎日平然とした顔をして入っていって、あんな怖そうなモンスターを倒して帰ってくる。

 毎日顔をあわせているわたしにしたって、同じ人間とは思えませんよ。だって、普通の人があの迷宮にはいったら、十中八、九、死んでしまうんですもの。

 毎日生き延びて帰ってくる冒険者の方々は、やっぱり特別な存在なんですよ」

「……あー……。

 まあ、なあ……それについては、まるで反論できんな」

「でも、今日の様子みてたら……なんか、冒険者の人たちも、普通の人なんだなあ、って思えて……。

 そう感じたら、今まで緊張していた自分が、なんか馬鹿馬鹿しくなっちゃって……。

 怖いと思っていた塔の魔女さんも、実物はこんなにお茶目な方で……。

 あー。

 本当。

 わたし、なに一人で思いこんでたんだろう?」


『……お茶目……』

「……お茶目……」


「おお。シナクくんと魔女さんが、顔を見合わせて途方に暮れている」

「もう、いいです。

 わたし、決めました。わたし、こんな仕事をしているくせに、冒険者のみなさんのこと、まるで知りませんでした。知ろうともしませんでした。

 でも、それも、今日までです。

 こうなったら徹底的に知って調べて、冒険者のみなさんのために、全力でバックアップにまわります!」

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