20.おんせんもんどう。
「……あ。
魔法使いの双子が、帰ってきた」
「くそっ!
以前にもまして密着度があがっておるではないか!
くそっ!」
「……あんまりあけすけなのも見苦しいですよ、王子」
「リア充、爆発しろっ!」
「……りあじゅう?」
「シナクどの、浴室が空きましたが……」
「あっ。
そうっすか?
じゃあ……ほらっ!
剣聖様!
いい加減……離してくださいってばっ!」
「なに? 風呂へいくのか?
そーかそーか……」
「って、なんで剣聖様まで立ち上がるんすか?」
「立たねば風呂場へ移動できまい。
とーちゃん、うちの子たちをつれてきてくれ!」
「わはははははは。
任せろ!」
「……あー。
家族水入らず、いいっすねー……。
じゃあ、おれは後で……」
「んっふっふっふっ。
逃すと思うか、ぼっち王……。
ほれ。
このまま、家の子になってしまうのだぁー……」
「……ちょっ、剣聖様!
冗談じゃすまされませんよっ!」
「わはははははは。
あきらめろ、シナク。
まあ、おれも一緒だから、めったなことはないだろう」
「では、わたしも一緒にいこうか……」
「全裸、お前もかよ!」
「わたしの全裸なぞ見飽きているであろう、抱き枕よ。
なんの問題がある?」
「……おにーちゃん、いこうー」
「いこうー」
「うちの子たちもこういっていることだし、あきらめろ、ぼっち王」
「では、拙者も」
「わらわも……」
「ルリーカも……」
「あまり野暮なことはいいたくはないが、今回のみ、遠慮してもらおうか?」
「……なにかあるのか?」
「なに、ぼっち王に用があるというわけでもないがな……おぬしらが来ると、ちょいと、子どもたちの教育上、悪影響がありそうな気がしてな……」
「……くっ」
「それは……」
「そのような側面は、否定できない」
「ということで、少々ぼっち王はこの剣聖がしばし、借り受ける」
「……脱衣所は男女別なんだな。
どうせ、中にはいれば一緒なんだろうに」
「わははははははは。
女は、男とは微妙に気にするところが違うからな。
化粧をするところとか、化粧を落とすところ、それに着替えるところとかは、あまり見られたくはないらしい」
「本当かどうかは知らないが、家庭持ちがいうと説得力あるな」
「わははははははは。
他の女のことはよく知らんが、かーちゃんとはつき合いが長いからな!」
「そーかそーか。
のろけは聞きたくねーぞ……」
ガラガラ。
「さてと、まだ誰もいませんね、っと……。
さっさと体にお湯をかけて……。
湯船に入っちゃいましょう。
……あー……。
思わず、声がでる……」
「わはははははは。
いい湯だな!」
「……うるさいぞ、とーちゃん。
お湯につかっているときくらい、大声を控えよ」
「わはははははは。
そうかそうか!」
「ほらほら。
子どもたち、走ったらあぶないぞ。
まずは、お湯をかけてからはいるぞー……」
「……ふぃー……」
「あっ。
あんた、今、お湯かけずにお湯にはいったろ。
マナーをわきまえない駄目な大人だ」
「……硬いこというなよ、抱き枕……。
こんな……気持ちのいい湯加減なのに……」
バシャァンッ!
「……おっぷ」
「こら、飛び込むな!
泳ぐな!」
「はは。
お子さまは、元気がいいや。
そら、こんなに広い風呂なら、泳ぎたくもなるやなあ」
「……あー……いいなー……このお湯……」
「こっちの駄目な大人は、すっかりとろけてるし……」
「……のぼせれば、少しは静かになるか」
「ええ。
放っておいても、すぐに静かになるかと……。
で、剣聖様。
わざわざおれを誘ったのは、なにかしらはなしておきたいことでもあったんじゃないっすか?」
「……別に、そういうわけでもないんだがな……。
強いていえば……ぼっち王、いや、シナクよ。
おぬしは……なぜ、そこまで頑なに、他人を寄せつけようとせぬのだ?」
「……あー……。
そっちに、いきますか?」
「他に、直球で尋ねるものがいなさそうなのなのでな。
おまけに……おぬし、最近、あの町を出ることを考えておるだろう?」
「……おい!
シナク、そうなのか!」
「大声を出すなよ、バッカス。
なんとなく……迷宮の方も落ち着いているし、もうおれ一人が抜けてもなんとかなるかなーって……あくまで漠然と、そう思いはじめているだけだよ。
はっきりと決心しているわけではなし、慌てたり改めて引き留められたりする段階でもないし……」
「そ、そうか……。
いや、よかった……」
「しかし……よくわかりましたね、剣聖様。
一度も口にしたことがない、おれの内心を……」
「ふふ。
流れ者の行動パターンは、それなりに把握しておるのでな。
立ち振る舞いなどから、それなりに推察が出来る。
おぬし……対魔王のおり、わざと後輩たちに活躍の場を譲っておったろう?」
「……まあ……。
どんな仕事であれ、おれでなくても出来るやつがその場にいたら、普通にそいつにやらせますけどね……。
面倒だし、おれが楽出来ますし」
「……そういうことではなくて、だな。
ぼっち王、いや、シナクよ。
おぬしは……自分を、スペックや性能でしか評価していない面がある。
代わりが効くのならば、それでいいかと……と、安易に思いすぎる。
あとに残された者が考えることを、想像できぬ。
今、おぬしを慕っておる者たちはな……おぬしが有能であるから慕っておるわけではない。おぬしがおぬしであるから慕っておるのだ。
そこのところ、想像していないのではないか?
いや……シナクよ。
おぬしは、うまく想像できないのではないか?」
「いや、まあ……そら……。
おれ、ずっと誰かを取り残す側でしたからね。
取り残された者の気持ちは、そりゃ、うまく想像できませんやね」
「おまけに……ここまで長く一カ所に居続けた経験も、ないのであろう?」
「その点は……おっしゃる通りで……」
「シナクよ。
おぬしは……これ以上、大事なものが出来るのを……無意識にか、避けはじめておるのだ。
あれだけ言い寄られていても、特定の誰かと親密になろうとしないのは……そうなると、特別な誰かが出来ると……自分が、それまでの自分ではなくなってしまうことを……。
恐れているのだろう?」
「……そういう側面も、あるのかも知れませんね。
自分じゃあ、よくわかりませんが」
「最近……いろいろな者から、せっつかれてはおらぬか?
所帯を持てとか、さっさと誰かとくっつけとか……」
「あ、はは……。
そりゃ、ありますが……。
でもそれって、前々からいわれていることで、特に最近だけってはなしでも……」
「おぬしのような根無し草をみているとな。
われら、地に足がついている衆は、そのようなこともいいたくなるものよ」
「……さいで」
「特におぬしは……所帯を持つどころか、男女問わず、間近に他人を近づけようとせぬところがあるからな。
表面上は、ひどく愛想がいいのだが……ちょっと踏み込むと、すぐに逃げ腰になる。
そういう足元がおぼつかないのをみていると、危なっかしくてしかたがない。
いったい、いつおのれの立ち位置を見失うことになることかと……」
「剣聖様は……もっと大事な……おれにとって大切な人やなにかが増えれば……足元も、確とするとお考えで?」
「少なくとも……逃げようがなくなるであろうな。
迷うのは……これは、しかたがない。
人が人である以上、迷いや揺らぎ……そうした弱みとは、無縁でいられん。
しかし、他人との絆という重みがあれば、容易には逃げ出せなくなる」