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17.かいわだけでにゅうよくしーんをかいてもよろこぶものはいない。

「……ふぅ……。

 いいお湯だ……。

 夜に入るときには、酒を持ち込むことしよう」

「またあの酒か?

 魔法剣士よ」

「おお。

 あの酒だ、帝国皇女よ。

 たっぷりと持ち込んだからな、楽しみにしているがいい。

 最初から呑みながらだとすぐにのぼせてしまって、こちらのルリーカのようなうわばみでもないかぎりは長湯ができんからな。

 しかし、ルリーカよ。

 おぬしはいつまでたっても成長せんな」

「リンナとは違って、まだまだ成長期。

 背もそれ以外の部分も、今後育つ可能性が残されている」

「確かに拙者の場合は、年齢的にもう成長の余地はなかろうが……。

 ルリーカの場合も……さて、どうであろうか?」

「ふふん。

 この魔法使いは、ちっこいからいいのではないか!

 どれ、シナクの代わりにわらわの膝の上に乗ってみぬか?」

「だが断る」

「ふふ……。

 この中で一番熟しているのは、このあたしだ……」

「剣聖様は三人の子持ちだから当然だよね!」

「軽く十以上は、若く見えるがな……。

 聖剣とやらは、身体の老化を遅らせる機能でももっておるのか……」

「そんな機能は、ないそうだが……。

 つまり、これはすべて自前だ。

 リンナよ」

「ぬ」

「コニスのところも、子どもはまだ出来ぬのか。

 いいぞう、子どもは……」

「出来るようなことは機会がありしだいやっているけど、こればかりは運だからね!

 焦らず自然に任せますよ、剣聖様!」

「ま、夫婦仲がいいのは傍目にもわかるから、せかすつもりはないがな。

 それに引き替え……」

「な、なぜ拙者の方をみるのか、剣聖様よ!」

「……リンナよ。

 いまだに一人も落とせぬとは、女として情けないとは思わぬのか……」

「そ、そこまでいうか……」

「男なぞな、存外、単純なもんだぞ。

 こう、体を使って……」

「……それができぬから、苦労しているのではないか……」

「アレも……。

 単純なようで扱いが難しいところがあるからな……。

 よろしい。

 ひとつ、必殺の秘策を教えてせんじよう……」

「……必殺の……」

「……秘策?」

「アレ相手であれば、効果のほどは保証する。

 一度試してみたが、体中の力が抜けて骨抜きなった」

「それは……どういう……」

「少し……耳を貸せ」

「……うひゃぁっ!」


「……ということで、わたしたち、剣聖様に助け出されてここにいるわけです」

「はぁ……。

 なるほど」

「ククリル様は若い女性の身空でありながら、どうして冒険者などに?」

「……あぅー……。

 それは、なりゆきってものでぇ……。

 わたしぃ……家にいてもいろいろ窮屈だったしぃ、たまたま特性持ちでもあったしぃ……迷宮にいけばその体質も活かしようがあるかなぁ、って……」

「冒険者って、若い女性でもつとまるものなのですか?」

「基本的には向いてないんだけどぉ……最近、増えてきてはいるみたいよぉ。

 きつい肉体労働だけどぉ、実入りもそれなりにいいしぃ……。

 でも、冒険者ほど高給ではなくてもぉ、迷宮でのお仕事はぁ、外の水準と比較するとかなり高めなんじゃないかしらぁ……。

 上流階級向けのお店もぉ、もうかなり増えてきているしぃ……女性向けの上品なお店も、かなり人を募集していますよぉ……」


「……ねーねー。

 おじさん。

 剣聖様たちが、おじさんのこと殴っても手が痛くなるだけだから、絶対殴っちゃだめだよ、絶対にだ!

 ……って、いってたんだけど……」

「……試していいかな?」

「な、なぜ余のことをおじさんと呼ぶのか。

 これでも余は、こちらの世界でも二十……。

 こらこら、最後までいわせぬか」

「……おー。

 本当だぁー」

「手が、途中で止まるー」

「蹴り入れてみようかな?」

「じゃあ、おれ、ドロップキック」

「……これこれ、いい加減にしておけ!

 おぬしら……。

 余の無事は保証されているが、おぬしらの方がなにかのおりに怪我をするではないか!」

「……おーしっ。

 子どもたち、注目!」

「おい、ハイネス!

 やめろ!」

「マルサスは、黙って見てろ。

 せっかく温泉に来て、これをやらずにおれるか!

 さて、子どもたち!

 おにーさんとこれから、温泉に入りにいかないかー!」

「……そのはなし、乗った!」

「うぉうっ!

 お……王子!」

「いかにも。

 のぞきという姑息な手段を通り越して、一気に混浴を迫るおぬしの心意気、余は深く感じ入ったぞ!」

「わかってくれますか、王子!」

「わからいでか、ハピネスとやら!」

「……自分、ハイネスです、王子」

「聞けば、ここの湯殿は私的な邸宅であり、男女別との区別もないとか!

 これは……どうぞ混浴してくださいというサインに他ならぬ!」

「そうですとも、王子!」

「こうしてはおられぬ!

 ゆくぞ、ハイネス!」

「お供します、王子!」

「……馬鹿が増えた……」

「……ねーねー。

 おにーちゃん。

 あの人たち……」

「ま……すぐにタコ殴りにされて帰って来るさ。

 今入浴中なのは、大陸でも有数のおっかないおねーさんたちだし……」


「……卿ではないか?」

「今は、平民の冒険者、レニーですよ。

 カスクレイド卿」

「それはそれとして、こうして顔を合わせても他人の振りとは、いささか水くさくはないか?

 あれをぶん殴ったことについては、すでに十分以上の償いをしておるではないか?

 そもそも、アレを殴る者はそれまでにいなかったのは、アレを殴れる者がおぬし以外におらなんだだけであって、アレを殴りたいと常々思っていた者は宮中にもあふれておった。

 表向きはともかく、おぬしがアレを殴ったことについて公然と非難する者は皆無であったし、むしろ皆、内心で喝采を叫んでおったほどであるぞ」

「それは、ぼくが捨ててきた世界でのお話ですね、カスクレイド卿。

 今のぼくにはなされても、詮無きことでございます」

「はぁ……。

 おぬしも、つくづく頑固というか不器用というか……にこやかな物腰を崩さずに、意外に根に持つタイプであったか……」


「……剣聖様にご招待に預かった者ですが……」

「パスリリ家のお二人でございますね。

 こちらにどうおぞ」

「……ほう。

 これは……」

「少し古いけど……見事な造作。

 流石は剣聖様の……」

「お荷物をお預かりします。

 まずはお部屋にご案内いたしますので、先に到着したみなさまへご挨拶は、また後ほどに……」


「……んっ……。

 ちょっと、うたた寝していたか……。

 って、おい……。

 なんだって、こんなところにまで……。

 おい! 起きろ全裸!」

「……なん……。

 もう、朝か……」

「寝ぼけてるなよ!

 どうしてあんたまでもがこんなところにいるんだよ!」

「……あー、そのことか。

 わたしも、きぼりん経由でな、剣聖にお呼ばれしたのだ。

 ちょうど、先の魔王軍のことなどについても聞き取り調査をしたかったところでもあったので、渡りに船かと……」

「だったらせめて、ちゃんと服を着て普通に訪問してこい!

 それが礼節ってもんだろうが!」


 こんこん。


「……シナク様。

 なにかございましたでしょうか?」

「……い、いや、なにも!」

「お食事の用意が整いましたので呼びにきたのですが……。

 いきなり、大声をあげておられましたので……」

「……ちょっと、うたた寝をしていたら夢見が悪くて……悲鳴をあげちゃったかなぁー、って……」

「……お食事をいただくさい、こちらの衣服に改めていただきたく……」


 がちゃっ。


「……」

「……」

「……」

「浴衣、もうひと揃え、用意してきますね」

「理由さえ聞かれない、その配慮が怖いよ!」


 「「……うわぁー!」」


「ん?

 野郎の悲鳴?」

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