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13.まおうぐん。

「ええ。

 目下、リリス博士と学者さんたち、それにきぼりんとかピス族の機械を総動員して、翻訳のための準備を整えているとことですが、シナクさんのコインがあるのとないとでは、効率にかなり差がでるとかで……」

「……でしょうねー……。

 ま、その様子だと、こいつはしばらく預けて置いた方がいいだろう。

 でも、やつら……実質、難民みたいなもんじゃないですか?

 本当に、大丈夫ですか?」

「各種労働力が欲しいというのは、決して嘘ではありませんし……たとえ彼らがいなくても、今では、この迷宮で消費される食料の量は、かなり膨大なものになります。

 それこそ、大陸中から買いつけて毎日運び込まないと間に合わなくくらいになっています。

 いざというとき、その搬入路が絶たれたときのための備蓄分もそれなりにありますので、当面はそれを切り崩しながら、徐々に彼らをこちらの社会に適合させていこうかと思っています。

 でも……まず最初のお仕事は、迷宮内に放置された、魔王軍の人たちの、埋葬になるかと……」

「ああ……そりゃ……確かに、早急に手配をしないとな……」

「出身世界や民族ごとに、葬儀の手順やタブーなどは異なることでしょうから……今は、手分けしてそこへんの聞き取り調査をやっている最中です」

「では……このコインを、是非お役だてください」

「はい。

 あと……シナクさんの方で、なにか欲しいものとかありますか?」

「おれは別に……。

 もう、帰って寝たいだけですし……」

「ここの浴場を使うのなら、今のうちですよ。

 今はまださほど混んでいないようですが、もう少しするとどっと人が増えそうなんで……」

「……あっ。

 そっすね。

 ではさっさと、汗を流してから帰ります!

 では……お疲れ様でした!」


 迷宮内、簡易浴場。


 ざばあぁ……。


「……今日は、かなり汗まみれになったからな。

 ギリスさんがはなしていたとおり、まだ人は少ないが……。

 おおかた、大部分のやつらが、その場でへばっているんだろうなあ……。

 どれ。

 手早く汗を流して、さっさと帰ろう……」


 商人宿、飼い葉桶亭。

「……よっ……と」


 がちゃ。


「……こんな夜更け……というより、ほとんど明け方だからな。

 正面入り口は、空いてないし……。

 窓から……と。

 ん?

 全裸が寝ている。

 けど……構っているほど余裕がないので……ふぁ……さっさと布団の中に潜り込んで……」

「……んー……。

 ……つーめーたーいー……」

「うるせ。

 こっちは……ふぁ……。

 くたくたに、疲れ切っているんだ……。

 もう……ぐぅ……」


「……はっ。

 えっと……。

 あ。

 相変わらず、全裸に抱きつかれてる。

 ……おれも、全裸になっているし……。

 今……何時だろう?

 窓の外は……暗いし……。

 …………腹、減ったな。

 物音はするし、下もやっている時間だろう。

 服を着て、腹ごしらえをしてくるか……」


「……あら、シナクさん。

 もう疲れはとれたのかい?

 迷宮の方が、いろいろと騒がしかったようだけど……」

「ええ。

 それで、疲れ切って、帰ってくるなりぐぅ、ってなもんで……。

 おばさん。

 今から食事の用意できますか?

 腹に入れば、なんでもいいんで……」

「はいはい。

 ちょうど夕食の時間だからね。

 空いた席に座っておくれ。

 シナクさん、また大活躍したってはなしだから、今、サービスでたっぷりと持ってくるよ。

 そのかわり、同席した人たちに騒ぎのことをはなしてあげてくれるかい?」

「ああ、まあ。

 食事がてらに、おれが知っている範囲内でいいんなら……」

「ここに長く宿泊しているという、冒険者の方ですか?」

「お、早速。

 ええ、まあ。

 冒険者のシナクといいます」

「行商人のガザックといいます。

 こっちは、相棒のザイム」

「よろしく、シナクさん」

「あ、どうも」

「この宿はよく利用しているのですが、こうしておはなしするのははじめてになりますね」

「おれは……夜は、外で食べることが多いので」

「なるほど。

 われらは、朝早くには出てしまいますしね。

 活動する時間が、ちょうど入れ違いになるわけですか……」

「そう……なんでしょうね」

「ところでシナクさん。

 聞くところによると……あの迷宮で、また、大量発生があったとか……」

「そうです。

 今度は……いっちゃっていいのかな?

 無事鎮圧したから、別に隠す必要もないのか……。

 あの迷宮の性質を利用して、いくつもの世界を占領してきた……つまり、こちらの世界も意図的に侵略してきた敵軍との交戦となりました。

 いや、もちろん、撃退し、他の世界に通じる門も閉じ……捕虜となった人たちも、おとなしいもんです。

 今では、なんの問題もありませんがね」

「当然でしょう。あのギルドが差配することです。万が一にも間違いはないでしょう。

 過去の例からいっても、われわれ商人は、防衛力ということに関して、当地のギルドを信用しています。少なくとも、町の外に無用の長物を設えている王国軍よりは、よっぽど心強く思っています。

 それより……今度、接触してきた人たちは……どのようなものを、得意とする種族なのですか?」

「……はぁ?」

「ですから……当地のギルドは、今度は、なにを売り出すことになると思われますか?

 そうした情報を早くつかめば掴むほど、われらの仕事も実り多いものになるのですが……」

「……あっ……はは。

 そうですね。

 得意技とか、そういうのは……まだ接触したばかりですし、お互いの言語を習得しはじめたばかりですので……そこまで詳細なことは、おれには知らされていません。

 お役に立てないようで、申し訳ありませんが……」


 どさっ。


「……今度は、なにを売り出すことに……。

 か。

 彼らにとっては……迷宮は、新手の魅力的な商品を次々に売り出す工場……みたいにしか、認識していないのかもな……。

 中と外では、危機感が違って見えて当然……とは、思っていたけど……」

「……どうした、抱き枕。

 丸一日寝ていたかと思ったら、今度は独り言か?」

「……丸一日だって?

 おれ、そんなに寝てたの?」

「ああ。

 一昨日の明け方に帰ってきて、寝て……つい先頃まで、目をさまさなかったようだな」

「本格的に、疲れてたからな。

 そんくらい寝てても、不思議じゃないか……」

「迷宮で、なにがあった?

 はなしてみろよ」

「あんた……。

 どうせ、きぼりんから情報がいっているんだろうし、たいがいのことは、もうわかってるんだろうに……」

「抱き枕の口から聞くのが重要なんだよ。

 いいから、さっさと吐け」

「わかったから、両手両足で羽交い締めにするなよ。

 少し、放れてな……。

 ええと……。

 休憩が終わって、おれたちのパーティがまた迷宮に入ろうとしていた矢先……」


「……で、この宿に戻って、窓から入って、ばたんきゅーしたわけだ」

「魔王軍……か」

「なんだ?

 心当たりでもあったか?」

「いや、陳腐なネーミングだなと思ってな」

「同意するが……思わせぶりなリアクションは、するな」

「そいつらは……ある程度、迷宮の攻略に成功して……そこで、路線を変更した口だな」

「……路線を変更?」

「迷宮をなくそうとするより……迷宮を活用して、もっと豊かになろうとしたんだろう。

 侵略戦争も……モンスターの力をうまく利用しさえすれば、少ないコストで成功させることができる。

 大量のモンスターを暴走させて送り込み、ほどほどに疲弊したところで本隊で迷宮周辺を占拠する、ってところじゃないか?」

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