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12.とうばつかんりょう。

「……あー。

 管制、聞こえますか?

 こちらシナク」

『はい、聞こえます。

 なんでしょうか? シナクさん』

「こちら……最奥の門の部屋、かなりの人が集まってきています。

 現状で、五百名以上はいるんじゃないでしょうか?

 迷宮の方からも続々流れてきていますから、これからまだまだ増えるでしょう。

 それでお願いしたいのが、武器や弾薬、医療品、水や食料などの消耗品の搬入。それと、簡単な休憩所を少し離れた場所に設置してください。

 あの大物、かなり強くて何度か倒しても別の形で蘇るそうで、長期戦、持久戦になりそうです。

 おそらく、この場にいる全員、交代で攻撃を継続することなります。

 ギルドの方も、それが可能な体制を整えるよう、お願いします」

『……迷宮内で分散した多数の敵を相手にするか、一カ所で強敵を相手にするかの違いでしかなくなったわけですか……。

 もともと持久戦になるとみていましたから、各種消耗品は用意していました。それをこれからそちらに搬入します』

「……あれ? その声……。

 ギリスさんですか?

 こちらは、現在のところ総じて志気が高いです。

 ただ、この先疲労がたまってくれば、それもどうなるかわからない。

 先が見えない以上、休むべきときは十分に休ませて気力を長続きさせることが重要になってきます。

 それでは、お願いいたします」


「……ふぅー……。

 やるだけのことは、やったな……。

 敵は……体中、矢とか槍とかバリスタの太矢とかが隙間なく突き刺さって、ひどい有様だ。

 そっか……ああして異物が体に刺さったままだと、再生もままならないわけか……。

 休憩が終わったら、おれも弓に切り替えるかな……。

 ……とはいえ……ふぁ。

 今は……ゆっくりと休もう。

 先は、まだまだ長いらしい……」


「……なかなかやるな、若いの!

 名はなんという?」

「ハ……ハイネスといいます、剣聖様!」

「わははははははは。

 シナクには及ばないものの、いい足捌きだ!

 よく敵を攪乱してくれる!」

「そうか!

 その名、おぼえておこう。

 無理はするなよ!」


「……お疲れ様だね、シナクくん!

 全身、汗だくだし!」

「なんだ……コニスか。

 そっちもお疲れのようだな」

「流石に、今日のこれは強行軍だったからね!

 手持ちの弓矢や武器も全部売ってしまったし、今は休憩中だよ!」

「……まあ、先にここに到着したのは、ぼちぼち休憩に入らなけりゃ保たない頃合いだよな。

 剣聖様やバッカスみたいな、体力のかたまりをのぞいては……。

 ……あっ。

 オーガもどきの首がハジケた」

「ピス族が、なにか攻撃をしたようだね!

 目には見えないけど!」

「……普通なら致命傷なんだろうが、あんな深手でもみる間に再生するからな、あの化け物は……」

「それでも……だんだん、その再生速度も鈍ってきている気がするよ!

 あの形態も、そろそろ陥るんじゃないかな?」

「……だといいがなぁ……。

 まだまだ次が、ありそうだし……」

「シナクくんと入れ替わりに入った若い子が、後退したね!」

「あいつ、動きはそこそこいいんだが、やはり体力がネックになるか。

 あっ。

 代わりに、ティリ様が入った。足をうまく使いながら、槍をとにかく相手の体に刺していく。

 ティリ様の武装は、今や半分以上術式せいだもんな。

 魔力が尽きない限り、無数にでも具現化出来るというのは、この場合強みだ」

「カスクレイド卿も、前に出たね!

 あははははは。

 あの剣……無茶苦茶だね!

 振りかぶったときに、いきなり巨大になって……」

「……欲しくなったか?」

「いやいやいや!

 あれは……まともに使いこなせるのは、あの人くらいなもんでしょう?

 使うたびに重心も重さも変化する剣なんて……身体補正全部入りのカスクレイド卿でなければ、とてもではないけど使いこなせないよ!」

「まあ、あれは……みた感じ、使いこなすというよりも、有り余る膂力で強引にねじ伏せているようにしか見えないし……他のやつにはとうてい真似出来ないわな」

「魔法攻撃も、いつの間にか増えているし!」

「王国の魔法兵が、頭領以外のやつらも駆けつけたようだな。

 敵を取り囲んで、攻撃魔法を飛ばしてる。

 近接戦で敵に肉薄しているのが数名いるから、やりにくそうだが……」

「あ!

 オーガもどき、ついに膝をついた!」

「……ようやく、崩壊か?

 ここぞとばかり、剣聖様とバッカスがフルぼっこにしているし……」

「今度は、どんな形態なのかな?」

「あ……大きな、蟹だ。

 察するところ……防御力重視ってところかな?

 あの甲羅は、硬そうだ」

「でも……早速、大勢のリザードマンがとりついて、大きくて硬くて重いメイスで、甲羅を叩き出したよ!

 大きな斧を持ったリザードマンは、手足を斬り落とそうとしているし!」

「……案外、蟹が好物なのかもな。

 確かにうまそうだけど……」

「あははははは。

 それはいいね!

 でも、あんまり大勢で取りついたんで、遠距離組がやりにくそうだね!」

「ま……すぐに落ち着くだろう」


 十二時間後。

「……はぁ……はぁ……」

「まいった……。

 もう……指一本動かせない……」

「なんだよ……。

 十五回も、形態を変えて再生してくるんだよ……」

「最初に……長期戦になると踏んで、食料や水を運びこませたやつ、卓見だよな……」

「……ああ。

 こんなに……長いこと戦うことになるとは、思わなかったからな……」

「毛布も運んで来てくれたから、いくらかでも仮眠が取れて……だから、ここまで頑張れたんだ……」

「結局……最初から最後まで前線から退かなかったのは、あの二人だけか……」

「剣聖様ご夫妻……だ、そうだ……」

「……なる……。

 道理で……」

「ああ……。

 今は、ひたすら、寝台が恋しい……」


「……周囲を見渡すと……。

 膝をついたり寝っ転がったりと……とてもではないが、勝った側にはみえねーなー……」

「ほとんどが、ここ数ヶ月で冒険者になったばかりの人たちですから、しかたがないかと……」

「確かに、仕事の時は、こんなに長時間に渡って戦い続けるってことはないけどな……。

 しかしまあ、後始末も大変だな、こりゃ……」

「うちのギルドのことですから、迷宮内は、もうかなり片づけていることかと思いますが……」

「いや、そっちではなく、ね。

 そっちも大変なんだろうが……こいつら、ここまで疲れ切っていると、あと数日はまともに使いもんにならんぞ」

「あ……はは。

 確かに」

『……シナクさん。

 今、よろしいですか?』

「あ? はいはい。

 なんでしょう、ギリスさん」

『お疲れのところ、すいません。

 一度、管制所の方にお越しください』


 迷宮内、管制所。

「では……また、このコインをお預けします」

「はい。

 確かに、お預かりします」

「……難しそうですか?

 魔王軍からこっちに下った連中の扱い」

「一部の例外をのぞき、こちらのいうことをよく聞いてくださるのですが……。

 言葉の壁が、やはり一番のネックになるかと……。

 彼らの出身地も様々で、現在確認できているだけでも二十以上の言語が使用されています」

「それで……よく、軍隊をやっていけたな……」

「進め、止まれ、休憩……など、わずか数語だけの命令用言語だけは、しっかり教えていたようです。

 出身も言語も異なる人たちを混在させていたのは、どうやら叛乱防止の意味もあったようでして……」

「なる……。

 本当に、侵略しっぱなしの拡大主義を貫いていたんだな、魔王軍って……。

 それじゃあ、このコインも必須になるわけだ」

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