11.つどうものたち。
迷宮内、某所。
かんっ!
「……武器の付加術式が通用しないのは、相変わらずか。
ま、期待してはいなかったし、一応確認してみただけなんだがな。
おっと!
こいつの攻撃は下手に受け止めようと思うなよ! リザードマン!
受けるよりは、避けろ!
魔法使いを抱いて、避けろ!」
『了解した、ぼっち王!』
「おれは……っとぉ!
グリフォンの羽根!」
ごぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「……やべぇ……。
間一髪。
まさか、火を吐くとは思わなかった……」
「……つべこべ抜かす前に、足を使え!
軽戦士の名が泣くぞ、ぼっち王!」
「そうはいいますがね、剣聖様……。
こっちはこっちで、いといろと……。
ええい面倒だ!
おれのメインウエポンで近接戦、やってやらぁ!
そういう方が性にあっているしな!」
「それでは、ぼくらは援護に回りましょう」
「おお。
遅かったな、レニー!」
「隔壁を突破したり、途中で危なっかしい人たちを助けたりなんだりで遅くなりました」
「無事着いたんなら問題ない!
魔法使いたちの護衛に、うまく采配を振ってやってくれ!
おれは……」
びゅんっ!
「……わっはぁー!
やっぱ、この短剣だと刃が通るやぁー……」
「例え浅手でも、ヒットアンドアウェイで着実にダメージを蓄積させる……。
シナクさん本来の戦い方、ですね。
今回は剣聖様とバッカスさんが正面からオーガ形態と切り結んで注意を引きつけてくださるから、死角から近寄って急所をひと突き……という技も有効ですし……」
「わたしも肉弾戦でいいね!」
「コニスちゃんは、いつも通りでお願いします。
管制、聞こえますか?
こちらの通信機の翻訳機能をオンにしていただきたいのですが……」
「……どっかーん!」
「わはははははは。
今日はいつもと違って、ずいぶんと大勢の命知らずが集まってきそうだな、かーちゃん!」
「まったくだ、とーちゃん!
正義の味方稼業では数日ぶっ通しで戦うことも珍しくはないが、この様子では一日だけで終わりそうだ!」
「わはははははは。
ここの冒険者は、性根が座っているのが多いからな!」
「……くっ。
いくら標的があれほど大きいといっても……単体の敵を攻撃する魔法は……」
「確かに、パスリリ家の得意とする軍用攻撃魔法の中には、そんなのはほとんどないけど……。
なければないで、真似をすればいいのよ、テリス。
……ウィンドバード、ファイヤバード、アイスバード……」
「……姉さん!
……ウィンドバード、ファイヤバード、アイスバード……」
「……束縛呪……は、一応、効くようだな。若干、動きが鈍くなった。
では……柔甲呪弾!」
「……はぁ、はぁ……。
どうにか、間にあったか……。
おお。
巨人に群がる小人……いや、蟻といった風情よの。
わらわも、ひとつ……。
強弓、具現化!
この爆裂弾で、参戦するとするかの。
……放つ!」
「……変形剣のカスクレイド、参る!
……いやぁぁぁぁ!」
「「「「「……シナク教官!
支援します!」」」」」
「……なんとか、いけそうか?」
「ああ。
この配線をつなげば……おそらく……」
「ミサイルとかはうち尽くしたが、おれたちにはまだこのメーザーが残っている!」
「こいつは、供給する電力さえ確保すれば、永遠にだって放射し続けられるからな」
「あらあら、出遅れちゃったかしらぁ」
「……はぁ、はぁ。
ククリル、お前……急ぎすぎだろう」
「だって……ここにくれば、少なくとも退屈しそうにないしぃ」
「……はぁ、はぁ。
ティリ様、足、早すぎ。
ぜんぜん、追いつけねー……」
「「……マルサス……」」
「……おっと、口を開いた!
シナク!」
「はいよっ!
……グリフォンの羽根!」
「わはははははは。
これがあるから、迂闊に近寄れないんだよな」
「兆候があれば避けるなりなんなり出来るだろう、これくらい!」
「シナクやわれらほどの反応速度を皆に求めるのは酷であろう!」
「できるだけ、フォローはしますけどね!
ようは、正面に出なければいい!」
「このオーガ形態も、たいがいに動きが素早いからな!
ついてこれるものが、どれほどいるか!」
「……どっかぁぁぁんっ!」
「変形剣!」
「……包囲して、出来るだけ他の人がいない場所を狙って!
この巨体です!
放てば当たります!」
「次は麻痺毒の矢でいきます!」
「こっちは毒矢を試してみます!」
「あらあらぁ。
これだけの巨体だと、武芸とかはもはや関係ないようなぁ」
「どっちかというと、これ、解体作業に近いよな」
「ハイネスは、相手が攻撃することを失念している」
「……割と、ついてこれてるやつが多い気がします……」
「ここのギルドは馬鹿者揃いだな!」
「わははははは!
同感だ!」
「まったくだ!
こんだけ馬鹿野郎が揃っていると、こいつがどんだけ変形しても、何度でも破壊出来そうな気がしてくるぜ!」
「……………はぁ。はぁ。はぁ。
ようやく…………ついたぁ……」
「遅かったではないか、ルテリャスリ王子」
「……はぁ。はぁ。
カス兄ぃ?」
「今、おぬしにしかできない仕事がある。
それ、さっさとこっちに来い」
「……ちょ……カス兄ぃ!
どこに!」
「それ。
こやつは、ルテリャスリ王子といってな。
噂くらいは聞いていると思うが、ほとんどの攻撃を弾く特異体質の持ち主だ。
女子しかいないおぬしらのよき楯となろう。
こやつも、これで不器用ながらも女好きであるからな。
可憐な乙女たちに、少しでも役立てられれば本望であろう」
「……ちょっ。
カス兄ぃ!」
「ルテリャスリ王子、しっかり楯役を務めろよ。
なに、あのオーガもどきとこの子らの間につったっておればいいのだ。
楽な仕事であろう」
「……相変わらずねえ、あの二人……」
「姉さん、なにか?」
「別に」
「……ふぅん……。
剣聖様とバトラックスのおじさん、それにぼっち王の三人でうまく連携して、オーガもどきの注意を引きつけて……。
他の人に攻撃しないようにさせているわけかぁ……」
「おれたちも参戦しなくていいのか? ククリル」
「今のわたしの実力ではぁ、足手まといになるだけよぉ。
今はせいぜい観戦して、今後の参考にすることねぇ。
予備兵力というか、今後誰かが抜けるようなことがあったら、すかさずそこに入ればいいわぁ」
「……おれは、せめて、弓で援護をしてくる。
それならば、他の誰かの邪魔にはなるまい」
「そういう生真面目なところは好きよ、マルサス。
あくまで、幼なじみとしてだけどぉ。
ほら、ハイネスもいきなさい」
「え?
今、予備の兵力って……」
「それはわたしのはなしぃ。
あんたの敏捷性なら、なんとかついていいけるはずだからぁ、さっさと前線にでる、でる。
自称、神速なんでしょぉ?
ここで名前を売っておくと、あとでモテるわよぉ。
第一線の冒険者と肩を並べて戦える機会なんて、そうそうないんだから、こういうときは喜び勇んでいかなけりゃぁ……」
「そ、そうか……。
じゃあ……いってくるわ」
「……男って、単純……」
「……もうだいぶん、削ったような気がするけど……傷をつけてもすぐに再生するんで、先が見えない感じだな……」
「この手の敵と対峙するときはだな、シナクよ。
つまるところ……気力がどこまで保てるか、自分との戦いよ!」
「わはははははは。
かーちゃんの仕事は、一度戦いに入ったら、何昼夜もぶっ通しで戦うのがざらだからなぁ」
「……正義の味方はそれで正解なんだろうけど……おれは、冒険者だからな。
一般人よりは多少頑強に出来てるけど、そこまでの体力はないぞ」
「加勢します、先輩方!
これでも、早さには自信があるんで!」
「……おっ。
ちょうどよかった。
じゃあ、頼むな。
おれ、ちょっと休憩してくるから……」
「……え?」