4.ぶんだんこうさく。
「……あー。
ドラゴンのコイン、って、そーゆー……」
「これまでは、翻訳機能ばかりに目がいっていましたが……どうもそれ、もっと広汎に、意志を伝えあうためのアイテムらしいですね」
「なるほどなぁ……」
「ということで、事態の推移についてはわかっています。
あとは……さらに混迷しているこの場で、われわれがどう動くか……ということなんですが……。
まず、シナクさんには引き続いて、魔王軍内の反乱分子の人たちと連絡を取ってもらいます。
可能なら、彼らを誘導してこちらに合流させてください」
「……出来るのかな……」
「試してください。
魔王軍の内部が今の扇動で分裂した可能性がある以上、こちらも今までのような無差別攻撃が出来なくなっています。
そこで、シナクさんの交渉と平行して、最初にでた案、迷宮の内部に引きずり出して、敵戦力を分断する作戦を決行します。
敵の命令系統が混乱している今は、大きな好機でもあります」
「……なるほど。
では……やってみますか?
……えー……魔王軍内部で、反抗を考えているみなさん」
迷宮内、全部。
『……こちらは、ギルド所属の冒険者のシナク、さきほど、みなさんに呼びかけたシナクです。
これから、迷宮の隔壁を一部、解放します。
これは、魔王軍の戦力を分断しようというギルド側の作戦です。いったん迷宮の中にはいったら最後、区画ごとに再度隔壁によって分断され、こちらの冒険者によって個別に撃破されていくことになります。
もし、みなさんの中でこちらのギルドに合流したい方がいましたら、積極的に迷宮に出てきて、少人数に分割されるときを狙ってください。
他からの救援がこない環境であれば、他のときよりは容易にことを運べるでしょう。
確かに魔王軍は強大かもしれませんが、入り口が限定されている以上、その戦力すべてをここに投入するわけにはいきません。
こちらに侵攻してきた魔王軍が一掃されたら、こちらの魔法使いが門に手を加え、今後永遠に元の世界と連絡できないようにするつもりです。
え? なに? ルリーカ、それ、本当か?
えー。
訂正。
そちらの門は、すでに壊されているとのことです。こちらの魔法使いが、先ほどの交渉時に手を加えて、二度と作動しないようにしているとのことです。
疑問があるようでしたら、何度でも試してみてください。
いいですか。もう一度いいます。
異なる世界へ通じる門は、閉ざされました。
魔王軍本体との連絡は途絶え、これ以上の援軍も、もう来ません。
みなさんは……こちらの世界に孤立しているわけです。
それでも……魔王軍に忠誠を誓わなければならない人は、どれくらいいますか?
今、そちらから迷宮内に出てくる通路が開いたそうです。
ただし、その先には複雑に折れ曲がり分岐した迷宮が待っています。そして、そこまで出た魔王軍は、少数に分断されます。
現在、魔王軍の指揮系統がどれほど生きているのかは、こちらでは把握していませんが……迷宮の内部まで出てくれば、こちらに合流できる可能性が、ぐっと増えます』
迷宮内、ピス族居留地。
「やるなあ、あのヒト族。
確か……」
「シナクっていってな。
こっちの冒険者の中では、ちょいとした顔だそうだ」
「……戦時中に、あんなのにであってったら、おれも軍を抜け出してたかもしれん」
「おれもだ」
迷宮内、羊蹄亭支店。
「また……目立つことになっているなあ、シナクよ」
「彼、そういう運命にあるんじゃないの?
迷宮に愛されているっていうか……」
迷宮内、管制所。
「ふむ。
さすがは、余の好敵手」
「ほら、お呼びだぞ、余の人。
こういう状況だと、あんたみたいな便利な体質は引っ張りだこだ」
「はははは。
やりやがった。
こんなに短時間で、状況すべてをひっくり返しやがった!」
「ハイネス、はしゃがない。
わたしたちにとってはぁ、ここからが、正念場なんだからぁ……」
「増援が来ないとしても、残った敵の数はまだまだ多い。
個別撃破には、われら冒険者も全力で当たらなければ間に合わぬだろう」
「わたしたちぃ、下っ端の出番もぉ、たっぷりあるわよぉ」
「……無差別攻撃が、出来ないのですか?」
「あら、残念。
もう少し、楽しめるかと思ったのに……」
「敵味方がはっきり分かれていないと……乱戦の場で使うのには、われら魔法兵の力はいささか大きすぎる」
「でも……王国派遣軍として面目を施すくらいのお仕事はもうしたんだから、十分なんじゃない?」
「そのようにも、考えられますね。
しかし……まだまだ何が起こるのか、わかりません。
われら魔法兵は、しばし、待機させてもらいましょう」
「もう。
テリスってば、真面目なんだから」
「出番じゃ!
やっとわらわの出番じゃ!」
「……冒険者のみなさん、お待たせしました。
これから名前を呼ばれた方は、前に出てください。
順次、待機する場所まで転送させていただきます。
転移したら、その場で魔王軍が現れるまでお待ちください。
その魔王軍も、これからはわれわれと敵対している人ばかりとは限りません。こちらと交戦する意志のない人を見かけたら、脱出札を渡してこちらまで送ってくださるよう、お願いいたします。
それでは、みなさんの名前を読み上げます……」
迷宮内、某所。
「ふむ!
ここに配置されたのは、三十人といったところかの!」
「……おい、あれって……」
「ぼっち王と組んでる……」
「わらわの顔を見知っている者も多いようじゃが、わが名はシュフェルリティリウス・シャルファフィアナ。
親しみを込めて、ティリと呼ぶがよい!
この中ではわらわが一番長く冒険者をやっおるそうで、ギルドよりこの場での指揮を仰せつかった!
なれぬことゆえ至らぬ点も多々あろうが、なに、短い間の辛抱というものじゃ!
すでに聞いておると思うが、わらわたちがやるべきことはたった二つ。
敵と味方を識別することと、敵を倒すこと。
この二つのみじゃ。
わらわたちと魔王軍とを隔てる隔壁が開いたとき、刃を向ける者は蹴散らして戦意のない者は後方に送ること、これだけじゃ!」
迷宮内、某所。
「みなさんの指揮を任されました、冒険者のレニーといいます。
今回の仕事を簡単に説明しますと、敵なら殺して味方になるなら助けろ、と、こういうことになりますね。
敵味方の識別は、実際に対面したときにいやでもはっきりとするでしょう。
今、この瞬間にも聞こえてくるシナクさんの呼びかけの意味が理解できれば、知性がある者ならば素直に投降してくるはずですが……」
迷宮内、某所。
「わははははははは。
とはいえ、魔王軍が物わかりがいいやつらばかりとも限らんしなあ。
門のある部屋に転移したときも、人型の種族よりもモンスターの方が多かったくらいで……。
ま、素直に両手をあげてこっちに来てくれるのに関しては、こちらも手間がかからなくていいが……。
反抗的なやつらとか知性のない残党の処理については、意外と手こずるかも知れん。
そのつもりで、覚悟を決めておいてくれ」
迷宮内、某所。
「とはいえ、心配するには及ばない。
拙者をはじめとして、場数を踏んだ冒険者が数名、必ずや諸君らの動きを補佐すべく、配置されておる。
諸君らの多くは冒険者になりたてか、それとも研修中の者たちであろうが……諸君らの経験の不足については、必ずや拙者らがフォローいたす」