3.せっしょくさくせん。
しゅん。
「……おわぁ!」
どさっ。どさっ。どさっ。どさっ。どさっ。
ふわぁっ。
「あははははは。
いきなり、高いところに転移したもんだね!」
「モンスターがひしめいていることを想定して、重合転移を避けるために、高度を取って転移した」
「……ルリーカ。
そういうことは、転移する前にいえ」
「そんなことよりも、シナクさん。
お仕事の方を……」
「おお、そうだったそうだった。
この中で、一番えらいやつって誰だ?
言葉は、通じているはずだが……。
おれたちは、向こう側の使いっぱしりみたいなもんだ。
一番えらいやつ、命令を出しているやつとはなしがしたい!」
『この中で……なら、おぬしの足元にいる』
「おお、これは失礼!」
『いきなり空中に出現したと思えば、人を足蹴にしおって……いったいなんなんだ?
おのれらは……』
「おれは冒険者のシナク。
ギルドの依頼を受けて、この集団の頭領とはなしをするために来た」
『……はなしを?
ほほっ。
それは、さい先がよい。
われらの軍勢におそれをなし、早速降伏をしに参ったのか。
ふむ。
殊勝なことである』
「……なにをいっているんだ?
このおっさん」
「どうにも、行き違いがあるようで……。
シナクさん、まずは相手の名前と立場、それに、なんのためにここにいるのかを尋ねてみてはいかがでしょうか?」
「基本、そこだよな。
ええと。
この中で一番偉いとかいうあなたさまのお名前と、それに、この中で務めていらっしゃる地位ありなんなりをちょうだいしてもよろしいでしょうか?」
『いいだろう。
わが名は*******。
栄えある****魔王が配下、***師団を束ねる四天王のひとりよ!
直に面談できる栄光を噛みしめながらひれ伏すがよい、現地人ども!』
「シナクさん。
この人、なんていってます?」
「なんとかって魔王の配下で、四人いる幹部の一人らしい。
固有名詞は翻訳不能らしくて聞き取れなかった」
「……魔王……幹部……。
どこの軽薄草紙ですか、それは……」
「最初にでてくる四天王って、最弱って決まっているんだよね!」
「そうすると……。
魔王様……とかいうとても偉い方が、別にいらっしゃるわけで?」
『そのとおりだ、現地人よ。
迷宮の性質を利用し、あまたの世界を支配下において幾星霜。
われら魔王軍は向かうところ敵なし、破竹の勢いで全世界を制覇しつつある。
反抗しても無駄というものだぞ』
「……と、いってますが?」
「わはははははは。
殺してもいいんじゃないか、こいつ」
「でも、迂闊に殺すと、もっと強いのがあとから最低三人は出てくるんだよね!
打ち切りにならなければ!」
「逆に、下手に人気が出過ぎると、もっと大勢の幹部が出てくるわけですが……軽薄草紙のことはともかく……。
シナクさん。
相手が軍隊だとわかれば、交渉の余地はあります。軍隊なら軍隊なりの、損益分岐点というものがあるわけですから。
どれくらいのダメージを与えれば撤退してくれそうなのか、さりげなく探ってもらえませんか?」
「さりげなく、ったって、レニー、お前……。
ま、やってみっか。
ああ。
魔王軍の四天王さん、仮に……この迷宮にいるやつらが全滅したとしても、撤退って線はありませんかね?」
『ないな。
物量戦こそ魔法軍の常套手段。
門の外にはさらに数十倍の様々な種族が待機しておる。
一時的におぬしら現地人が優位に立つことがあっても、最終的には膝を屈し、魔王軍の麾下に入ることであろう。
辛酸を舐めてからそうなるよりも、傷が浅いうちに全面降伏した方が身のためであるぞ』
「万が一にも……こちらと講話をなさるって線は、ありえませんか?」
『ないな。
魔王軍が侵攻した世界でその手の条約を結んだ例は皆無だ。
考えてもみよ。
われらが魔王軍はすでにあまたの世界を蹂躙したあとであるということを。
世界、数十分の資源、人材、知識、技術、魔法……などを存分に投入できるのだということを。
仮におぬしら現地人に、この迷宮にいるものを瞬時に鏖殺できる能力があったとしても……その程度の損害は、われら魔王軍にしてみれば実に軽微なものであるのにすぎん』
「……だ、そうですが……」
「交渉の余地なし、ですね」
「シナクよ。
これから拙者がいうことを、コインの能力が及ぶ限り広い範囲にわたってはなしかけるがよい」
「……リンナさん?」
「いいか、こう告げよ。
魔王軍配下の諸君。
われら冒険者ギルドはその登録において前歴は問わぬ。
たとえ……この世界に侵攻してきた侵入者の一員であったとしても、だ。
諸君らは、本当に今の待遇に満足しているか?
魔王軍は、諸君らを正当に遇しているといえるか?
わがギルドでは優秀な人材を常時募集しておる。ギルドは所属する冒険者を大事にしていることは保証しよう。登録冒険者の生命や身体の危険を極力排除し、やむを得ず危険な仕事を割り振るときには、相応の手当がつく。
報酬は割高で、万が一にも生活に困ることはない。
魔王軍から抜け出し、新天地で新しい人生を切り開いてはみないか?」
『……お、おい。
現地人よ。
……敵中のさなかでここまで堂々と切り崩し工作をしてのけたやつは、魔王軍史上、おぬしらがはじめてであるぞ。
剛胆さは評価するが……まあよい。
その剛胆さに免じて、最後まではなさせてやろう。
おぬしら六人を始末するのは、いずれ、たやすいこと。
この座興を最後まで演じきったら……そのときこそ、おぬしらの最後よ!』
「……おれは、翻訳しているだけなんですけどね!」
「……魔王軍を脱っし、ギルドに参じようとするものはまず追っ手となりうる者を害せ。今日までの同輩を殺せとまではいわん。負傷させるなりなんなりして、戦闘不能の状態にせよ。
魔王軍は、その構造からして上が恐怖で下を支配していものとみた。
諸君らは、魔王軍上層部に恨みはないか?
諸君らの世界を蹂躙したものも、魔王軍なのではないか?
諸君らの直属の上司は、善人といえるか?
この機会に、一矢報いたいとは思わぬか?」
『……いいたいことは、それだけか?
現地人よ。
そろそろ……この*******の度量も……』
「……乱心銃!」
ばちっ!
『なん……だと?』
「魔王軍四天王が一人よ。
それはな……対モンスター用に作った精神作用系の魔法……同士討ちが、したくしたくてたまらなく魔法よ!
直接、敵を攻撃するわけではないが、使いようによっては、とても大きな効果を発揮する。
なにしろそれは……対象が息耐えるまで効果が持続する代物であるからな!
おぬしは……侵攻した世界で乱心した四天王として魔王軍史に名を刻むのだ!」
『……ダ……ダークネビュラッ!』
『……ご乱心! ご乱心!
四天王*******様が大規模攻撃魔法を……』
「シナクは、四天王乱心の報を全力で伝えよ!
あとの者は脱出あるのみ!」
『……ス……スーパーノヴァ!』
『『『『『……うわぁ!』』』』』
迷宮内、作戦会議室。
「……はぁ、はぁ……。
えらい目にあった……」
「ご苦労様です、シナクさん」
「えっと、報告しなけりゃな……」
「その必要は、ありません」
「……え?」
「シナクさん、コインを使って、出来る限り遠くまで、言葉を伝えようとしていたでしょ?」
「まあ……途中から、そういう成り行きになりましてね」
「そのおかげで……途中からのやりとり、すべて、聞こえてきました」
「……ここまで?」
「ええ。
ここまで。
確認はしていませんが……迷宮の中にいる人たち全員が聞いていたんじゃないですかね?」