120.ていきほうこく。
ギルド本部。
「新式の馬車用板バネ、ピス族と地の民との協力を得て、量産体制にはいりました。
それから、ピス族より提案のあった懐中時計、試作品がいくつか仕上がったので、王都班その他主要な渉外さんに向けて転送しました。こちらも、量産が可能な体制を構築中です。
本日より実践投入したピス族の戦闘車両は、予想以上の戦果をあげています。現在稼働しているのは一台だけですが、ピス族はまだ何種類かの戦闘用車両を有しており、必要に応じて出動させてもいいとのこと。
ただし、連発式質量弾以外のもっと強力な武装は、現在のところ再生産をするめどが立っていない高度な工業製品なので、可能な限り使用したくないともいっています」
「虎の子、というわけですね。
あの連発式質量弾だけでも、かなりの威力だと思うのですが……あれ以上の武器で戦っていたというピス族の戦場は……さぞかし、騒がしかったのでしょうね」
「凄かったですもんね、昨日、試射をしたときのあの音。
標的にした金属硬外殻大型型モンスターがあっという間に蜂の巣になり、半分消し飛んでいましたが……」
「当面は、あの連発式だけでも十分な戦力になります。
戦闘以外でもピス族にはお世話になっていることですし、あまり高望みはしない方がいいでしょう。
彼らの技術は、われわれより数百年分、進んでいるそうですから……こうして積極的に協力してくださるだけ、ありがたいと思わなくては。
他の知的種族の動きは、どうですか?」
「地の民は……金属加工と冒険者、引き続き、二つの分野で活躍してくださってます。
工業分野ではピス族との連携や迷宮内魔力を使用した合理化を活発に押し進め、ヒト族の職人さんたちとの交流や相互協力も増えてきました。
板バネか懐中時計のどちらかが輸出向け迷宮産合作製品の第一号になりそうですが、今後も多種多様な製品が生み出されることと予想できます。
冒険者としては、先ほども言及しました超打撃力を持ったピス族の戦闘車両、以前より参入していた地の民の戦士階級の他に、数日前から参入したリザードマンの活躍が目覚ましい成果をあげています。
地の民以上の筋力とヒト族の平均よりふた周り以上大柄な体格、鱗に覆われた硬い皮膚を持つリザードマンは、生まれながらにして強力な戦士でした。参入してから日が浅いのにもかかわらず、前衛職として他のパーティから引く手あまたな地の民にも負けないくらいの人気ぶりとなっています。
身体能力に優れ勇猛果敢な反面、アイテムの使い方や迷宮に不慣れな部分もありますが、今のところリザードマンのみでパーティを組む例はあまり多くなく、実際的にはあまり支障にはなっていません。リザードマンはわれらヒト族の、女性や経験の少ないパーティに入ることが多く、これは、これまで人数的に地の民の戦士階級だけではフォローできなかった部分を、リザードマンが埋めてくれた形となっています。冒険者として働いているのは、地の民のごく一部でしかない戦士階級だけですので、幼体をのぞいてほぼすべての個体が先天的にヒト族以上に戦えるリザードマンは、実質的に動員できる人数だけでも大きな商品価値を持つものと判断できます」
「知的種族も三者三様に、当ギルドにとっては大切なパートナーです。
出来るだけ彼らの要求にも耳を傾け、ギルドが実現可能な要求であればすぐにでも応じられるような体制づくりを、今後も心がけてください。
次期知的種族担当として指名した二名の、現在の業務の引き継ぎ状況はどうなっていますでしょうか?」
「マルガさんとキャヌさんですね。
転移魔法陣に加え転移符まで導入したおかげで、迷宮内の流通事情はちょうど転換期を迎えております。
タイミング的にその再構築作業と重なったマルガさんの引き継ぎ作業の方はかなり進行しており、ほとんど終わりかけています。
マルガさんは現在、いくつか同時進行している迷宮内施設の内装工事の調整役に、ほぼ専念している形です。各工事の監督役は職人頭がいるのですが……マルガさんはその監督役に、各種族や帝国側、義勇兵などの関係者の声や要望を聞いてまとめて伝える役目を、目下のところ行っています。
反対に、多くの役割を単身でこなしていたキャヌさんの引き継ぎ状況は、芳しくありません。
分業化、細分化をしつつ、後継者一人一人に丁寧に仕事内容を説明しているのでペースそのものは早いとはいえませんが……その分、細やかなところまで配慮し、引き継ぎついでに細かい部分での合理化や省力化を推進しているようです」
「気質も性格も異なりますが、二人とも有能な方ですので、あまり心配はしていませんが……なにか現場で判断できない問題があったら、すぐにこちらに伝えるよう、再度確認しておいてください」
「では、次は王国軍の動きから。
グリハム小隊が迷宮内ではじめた新兵訓練が本格化しています。グリハム小隊長によると、一ヶ月後をめどに、数十から百前後のパーティを放免し、軍籍冒険者として迷宮に入れる予定だそうです。その後も、順次、投入していくとか」
「彼らがこちらでいう実習課程まで進んだら、後片づけなどのお仕事も担当してくださるよう、今のうちから交渉しておいてください。
いずれ迷宮に入ることが前提となっている以上、彼らにとっても有用な経験となるはずです」
「はい。
では、さっそくそのように交渉を開始します。
派遣軍本体の方では、城塞工事が本格的に開始。
現在、新式工法による土台設置作業が進行しています」
「この……セメント、ですか?
これは、いったいどういった工法なのですか?」
「なんでも……粉と砂と砂利と水を混ぜあわせて型にいれて、よく乾かすと……かなり頑丈な、石のようなものになるそうです。
原理や詳細については軍機に相当するそうで、一般には公開されていなません。なので、よくはわかりません。
ただ……型枠の形を変えれば、仕上がる形や大きさをかなり自由に変えられるのが、従来の建築との大きな違いになるそうです」
「あの、逆城市ともいうべき城塞は……新工法の実験場でもあるのですね」
「そういうことになりますね。
でもそれは、あちらの都合ですし……ギルドのお仕事とは、あまり関連がないような気もします」
「そう……かも、知れませんね」
「ギルドに関係することといえば……城塞建築用の資材の搬入も本格化しはじめたので、陸続と当地にやってくる荷橇で街道がほぼ占有されている状態です。
占有……という表現は大げさにしても、街道を圧迫し、ギルドや地元商人の荷橇運行が大きな制限を受けている現状です」
「それは……予想して、しかるべきでしたね。
対策は、なにか思いつきますか?」
「はい。
わたしたちギルドは、迷宮を握っています。
当地に来る便はしかたがないにしても……当地発の便は、この際、全部魔法による転送にしてしまったらどうでしょうか?
せっかく、使い切れないほどの膨大な魔力が足元に転がっているのです。使わなくては損です。それ以前に、運賃と配送時間が、大幅に節約できます」
「……それは規範的な回答ですね、フェリスさん。
転送先の座標が判明していれば、可能なわけですし……。
さっそく手配して、その案を早急に実現化してください」
「はい。
では、そのように……」