118.ぴすぞく、さんせん。
迷宮内、管制所。
「……討伐専門班?」
「はい。
今までにも、シナクさんやルリーカさんのパーティに、他のパーティでは対処できないモンスターの処理をしてもらっていますが……」
「いよいよ、完全分業制にする、と?」
「そこまではいいませんが……。
例えば、シナクさんたちなんかは、パーティ全員の移動効率ランクが高いので、討伐専門に回しちゃうと、ギルドにとっても損失のが大きいし……。
ですから、シナクさんたちについては、これまで通りで結構です」
「ってことは……ルリーカは、難敵の討伐専門に回される、ってことか……」
「とはいっても……ルリーカさんも、当ギルド内では貴重な魔法使いになりますから、魔法関係のお仕事もそれなりにこなしてもらいつつ、その合間に……という形になります」
「こっちも……今までと、あまり変わらないような……。
他に、討伐専門に回れるようなやつ、いたっけ?」
「ゼリッシュさんと吸血鬼のパーティ、それに、ピス族の方々も手伝ってくださることになりました」
「人狼と吸血鬼のコンビはいいとして……。
ピス族だって?
確かに、軍隊だってはなしは聞いているけど……大丈夫なの?」
「大丈夫です。
というか……普通の冒険者パーティでは太刀打ちできないくらいの攻撃力を、彼らは有しています。
ほら。
ちょうど、来ました」
「……なに、あれ……」
「小型戦闘車両……と、彼らが呼んでいるものですね。
電気の力で動く、車だそうです。
あの、上部についている不格好なモノが、一分間に数万発とか、鉛弾を高速で吐き出すそうで……。
弾丸の再生産のめどがついたので、今日から力を貸してくださることになりました。
薬莢という部品を作るのに少々手間がかかるらしいですが……一度使用したものを拾って再利用することも可能だそうです。多少は破損するのでしょうが、迷宮内で使用する限り、その薬莢というのも、かなり拾って使えるだろうと予測されていて……」
「一分間に数万発の、鉛弾……。
正直、あまり詳しく想像できないんだけど……なんとなく、強そうだな」
「昨日、試射を見学させてもらったんですが……ものすごい、音と威力でした。
物理攻撃としては、当ギルドでも最上級の威力になるでしょう。
たいがいのモンスターは、軽く蹴散らすことが可能であると判断されています」
「……ふーん。
凄そうなんだな」
「凄いですよ、実際。
だから……攻めあぐねているモンスターがいたら、相互転移符を床に貼って、さっさと撤退してもらい……そのあと、彼ら討伐専門班に引き継ぎをお願いすることになります」
「荒事に自信が持てないパーティにとっては、朗報というわけか……」
「ええ。
お札とか武器に付加する術式とかで、全パーティの戦闘力や破壊力は、実質的にかなり底上げされていますけど……それを上回るモンスターも、このニ、三日、出没するようになっています。
ギルドとしては、ロストや怪我人を出すよりは、早めに見切りをつけて撤退してもらった方が、効率的に迷宮を攻略できると考えているわけです」
「モンスターとのパワーバランスは、絶えず揺れ動いていて、どっちが有利、っていうふうに固定してくれないからなあ。
ま、こういう強大な打撃力をギルドが得たってことは、安心要素ではあるけど。
では、今日は……おれたちのパーティは、いつもどおりの探索業務でいいのね?」
「ええ、それでお願いします。
こちらが、今日のお仕事の資料になります」
「はい、どうも。
それから……魔法を使うモンスターは、あれから、出現していないかな?」
「はい。
今のところは……ですが。
ただ……稼働している全パーティへは、警戒を求めています」
「そうだね。
前例がある以上、警戒はしておいた方がいいよな」
迷宮内、地の民商工会。
『……ということで、軽量かつ強靱な素材を求めているわけであるのだが……』
『わがピス族であるならば……そのようなときは、これを使いますな』
『……なんじゃ? これは?』
『合成樹脂……化石燃料から作る、有機化合物になります。
熱には少々弱いという短所はありますが、合成の仕方により、かなり硬く作ることが出来ます』
『もっとも基本的な問題として、化石燃料とやらが安定して入手できなければどうしようもないのじゃが……。
その……合成樹脂とやらを作るためには、どれほどの金子が入りようかな?
それと、それを作るためには、どのような施設を用意すればいいのか?』
『材料の調達経路と、コストと、設備投資の確認。
いいですね。その質問は、かなり合理的です。
材料である化石燃料と若干の薬剤さえ確保できれば、製造コストはきわめて安価、なおかつ、大量に生産することが可能です。
それに、生産するために必要な設備になりますが……これは、一概にこうと言い切ることができません。
必要とされる生産量に左右される、ということになりますな』
『大量に生産するためには、おおがかりな工房が必要となるわけか……』
『工房というよりは、工場と呼ぶべきでしょう。
機械により全工程の作業を自動化し、人件費は極力削るべきだと思いますが……』
「この素材を絶対に認めないとはいわないが……それでも、熱に弱いというのは、短所として致命的」
『そうなのですか?
小さな魔女よ。
硬度を調整できるように、ある程度までなら高温に耐えられるようにも作ることが可能ですが……』
「それでも……熱による攻撃は、魔法攻撃の中でもかなりポピュラーなものとなる」
『……ふむ。
出来れば、具体的な温度を知りたいところですが……。
それよりも、小さな魔女の口ぶりが気にかかります。
なにやら、腹案がおありになるのではありませんか?』
「腹案は、ある。
ルリーカは、迷宮内にありあまる魔力を使用した、魔力による力場を素材とすることを提案する」
『魔力による……』
『……力場、でありますか……』
「…………こういうの」
ばばばっ。
『この棒状のが……』
『物質では、ないと……』
「通常の意味での、物質ではない。
物理攻撃を防御するための結界術式を応用して、サイズを明確に指定したオブジェクト。
さわれるし、持ち上げられる。
武器の形状に固定することも可能」
『……軽いな』
『物質ではないそうですから、質量も持たないのでありましょう。
魔法というやつは……実に、なんでもありなのですな』
『嬢ちゃん!
こいつは、頑丈なのか?』
「頑丈にすることも、可能。
例えばそれは……ヒトと同じくらいのサイズの生物が発揮しうる程度の筋力をどのように加えても、壊れも欠けもしない。
仮に壊れたとしても、魔力さえあればその場で再構成が可能」
『……いったな。
では、向こうで実地に試してみる。
真鋼の台に乗せた上で、剣やハンマーでぶっ叩いてくれるわ!』
『わ、わたしも、興味があります。
見学をさせてください!』
カン! カン! カン!
ガン! ガン! ガン!
『……ふむ。
確かに、欠ける壊れるどころか、ちょいとでも歪みもせんな』
『物質ではないが、物質として扱える、とは……』
「これで、武器を作る。
その際に、必要とあれば、付加術式も混ぜる。
材料は、少し入り組んだ術式と、その術式を刻み、起動させるための媒体。
それさえあれば、いくら壊れても無限に再生できる……そんな、迷宮内しか使えない武器を製造することが可能」