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115.ぜげんのよこりやり。

「集団誘拐、ねえ。

 なんとなく想像がつきそうな気がしますが……一応、説明願います」

「お察しの通り……標的は、あそこだ」

「町外れ……ってえ、ことは、はやり……」

「おうよ。

 軍隊相手の移動売春宿を相手にする、女衒の馬車を襲って、婦女子を拐かす」

「志は買いますが……それって、普通に犯罪ですから」

「女衒は、特定用途に限定された、人身売買だ」

「そうですね。

 でも、特に軍隊相手なら、別段珍しいことではありません」

「売買をするのが商売なら、金さえあれば買い取ることもできよう」

「……剣聖様……まさか……」

「その、まさかよ。

 ほれ、これをみろ」


 じゃらじゃらじゃら……。 


「これだけあれば、売約済み商品の十や二十、無理にでも買い取ることもできよう」

「……白金貨……。

 むしろ、多すぎるくらいだと思いますけど……。

 仮に、可能な限り合法的にことを運ぶとしても……際限がありませんよ。

 売られてきた娘たちにも、相応の事情ってもんが……」

「別に、この世のすべての人身売買をなくそうとは思っておらん。

 ただ……わたしの目と鼻の先でやられるのが、不快なのでな。

 子どもたちへの教育にも悪いし……」

「……つまり……剣聖様の気が済むまで、この町に売られてくる人たちを……力づくで、買い取っていくおつもりで……」

「そのとおりだ、シナクよ。

 ためこんだ金なぞ、このような時にしか散財のしようがないからな。

 なに、最近ではとーちゃんもなかなか稼いでくるし、これしきのことではうちの家政は傾かん」

「……はぁ。

 この分だと、おれが協力しなくてもやり通すつもりでしょう。

 いいですよ。

 やるかやらないかはともかく。

 とりあえず……聞くだけのことを、聞いてみましょうか。

 で、おれに……どんな役をふろうって魂胆なんですか?」

「それでこそ、シナクよ。

 おぬしにはな、その脚力を生かして……」


 王国軍、野営地外部。

「……へぇ……。

 派遣軍の工事って、ここまで進んでたんだ……」

「なんだ、知らなかったのか?

 土台作りも、ぼちぼち佳境といったところだな」

「迷宮と宿とを往復する毎日ですから。

 で、この工事現場の、さらに外にあるのが……」

「あの明かりが見えるであろう。

 あれが……兵士向けの移動慰安施設よ。

 酒、女、賭場……そんなものが一通りそろっておる」

「馬車……いや、今の時期だと、橇が多いか。

 とにかく、移動できるようになっている店ですね」

「何十台かが集まって、小さな町のようになっておるな。

 あれでも五万人相手では、まだまだ足りぬくらいだろう。

 これから、まだまだ膨れると思うが……」

「で……そこの売春宿に売られてくる子たちを、横槍いれて、無理にでも買い取るわけですか……」

「そういうことになるな。

 女衒の橇が来るのは、もう少ししてからになる。

 その橇があの明かりに到着する前に乗り込んで、商品を総取りして、証文も焼く」

「おれたちなら大した距離ではありませんが……ここいらから町中まで、女子どもの足だと、かなりかかると思いますよ。

 雪もこんなに積もっているし……」

「橇ごと奪う……いや、買い取るつもりだ」

「で、その後、追っ手がかかるようなら……」

「おぬしが囮となって、引っ張り回すなりなんなり……ともかく、誘拐した婦女子から、注意をそらせ。

 方法は、まかせる」

「アバウトな……。

 作戦以前の、すいぶんと杜撰な案ですね……」

「こういうのは、緻密に計画するよりは、アバウトすぎるくらいちょうどでいい。

 どのみち……なんやかんやでトラブルがあって、予定通りには進まん」

「そうなんですけどね……あ。

 あれかな?」

「……あれらしいな。

 どれ、乗り込むぞ」

「お……おれもいくんですか?

 おれ……囮じゃあ……」

「いい機会だ。見学しておけ」

「見学って……」


 ばさっ。


「……動くな」

「うひぃ!

 あ、あんた……。

 まさか……動いている場所の上に、飛び乗ってきたのか?」

「そういうことになるな。

 御者どの。

 橇を停めて、御者席から降りてもらおう」

「……わ、わかったから!

 その……おかない刃物を、下ろしてくだせえ……。

 老い先短いこの身でも、命は惜しいんで……」

「物わかりがよくて助かるな。

 では、失礼して……」

「な、なにを……ふごっ」

「騒がれると、面倒なんでな……少々の間、猿轡をかませて貰う。

 ほれ、下に降りよ」

「……なんか、手馴れすぎていませんか?」

「おぬしも余計なことをいわず、御者が地上に降りたら手足をふん縛れ」


「……あん?

 停まったか?」

「みたいなだ。

 あと、ほんの少しだっていうのに……。

 ちょと、様子みてくるか……」

「おお、頼むわ」


 ばたん。


「外にでるのは、少々待ってもらおうか」

「……女?

 なんで、こんな時間、こんな場所に……」

「単刀直入に用件を告げる。

 商談に来た」

「商談……だと?」

「おぬしらにとっても、悪いはなしではないぞ。

 積み荷を……なんだったら、この馬車ごとでもいい。

 買い取りたいということだ」

「は。

 はは……。

 冗談も、休み休みいいやがれ!

 おい!」

「……おう!」


 キンッ!

 ガッ!


「……嘘だろう……」

「剣が……斬られた……」

「みての通り、うちの用心棒はすご腕でな。

 商談がお気に召さないようなら、腕ずくではなしをつけてもいいのだが……」

(……ノリノリですねえ)

(しっ。

 しばらく、黙っておれ!)

「わ、わかった!

 とりあえず、はなしは聞いてやろう。

 受けるか受けないかは、それから決める」

「積み荷は、十三から十八までの人間、十八人。

 それに、相違はないな」

「あ、ああ……。

 しかし、なんでそんな正確に……」

「では……一人につき、白金貨一枚、十八人分で十八枚、この馬車もくれるというのなら、さらに二枚……いや、三枚つけて、いまここで、即金で白金貨二十一枚を進呈しよう。

 相場よりは……かなり、お得な取引のはずだが……」

「は……白金貨、二十一枚……だとぉ?

 そんな、法外な……」

「納入先への違約料と、各方面へのいいわけに費やしても、まだまだ余ろう」

「た、確かに……。

 い、いや、駄目だぁ!

 この商売……舐められたり見下されたりしたら、食い物にされるばっかりだぁ!」

「面子、か? くだらぬな。

 後始末をつけてからさっさと足を洗って、楽隠居をできるくらいは払っているつもりだが……」

「だ、だが……おれたちの都合だけでは……」

「なんなら、グヤラヌへ渡りも、つけてやらんこともない」

「お、親分の!

 あ……あんたあ、いったい、何者だぁ!」

「この場で、名乗れるわけがなかろう。

 ただ、グヤラヌとは少々、いきさつがあってな。

 つなぎは、取ろうと思えばとれんこともない。

 なに。

 おぬしらはここでわれらに襲われ、積み荷ごと馬車を奪われた……とでも、いいぬけておけばいい。

 グヤラヌには、わたしが直接、はなしをつけておく」

「そ……それは、本当だろうな?」

「今さら、虚言を吐いてどうなる?

 問答無用でおぬしらを片づけ、強引に事を運んだ方が、われらにとってはよど簡単なのだぞ。

 それを、こうして紳士的な商談にしているところに、是非とも感じ入って欲しいところだな……」

(……よくいうよ……)

(うるさい!)

「そ、そうか……。

 では……」

「その前に。

 積み荷の証文類は、すべてこの場で焼き捨ててもらう。

 どこかにこっそり残していたりしたら……この場にいる者みならず、グヤラヌに少しでも関わりがある人間すべてに災いが訪れるとしれ!」

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