111.こおりのきょじんのたおしかた。
「結果として、あれの周りの軍勢を一掃できただけでも十分な戦果といえる。
一度帰還して、策を練るなり応援を呼ぶなりしてみるか?」
「そういいながらも、リンナさん、通路に下がる様子がないじゃないですか」
「おぬしなら、何かしらの思案がありそうな気がしてな、シナク」
「ないこともないから、困るんですが……。
あ。
モーニングスター、来ますよ」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「物理攻撃に関しては、敵の動きに注意しておれば避けられそうだの」
「それも、なにかの拍子に攻撃パターンが変わることもありえますから、あまりあてには出来ませんがね」
「なにか手伝えることはないか、シナクよ」
「こいつばかりは……おれにしか出来ませんし、試してみないと成功するかどうかもわかりませんし……。
二人は少し離れた場所で、待機していてください!」
「……どうするつもりだ、シナクよ」
「あいつの苔を剥げるかどうか……ひとつ、試してみしてみたいことがあります。
苔さえなければ……熱攻撃系の魔法が通るんですよね?」
「理屈の上ではそうなるが……おい!
シナク!
どこに……」
「ちょっと近づかないと、無理な方法なんで……」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「……わはは。
おれの体よりも大きな鉄球が、すぐ横を……。
軌道は予測できるから、避けるのはわけないが……気分がいいもんじゃないわな」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「両手の鉄球を、おれ一人に集中させてきた」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「……モーションが大きいから、攻撃の間隔が空くのが難点だな」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「よし、足下に到着。
間近で見ると……つくづく、でかいな……。
おっと……」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「ははあ、足も、動くのね。
そりゃ、動くか。
危うく、踏みつぶされるところだった……」
「……なにをしておるのか、シナクよぉー……」
「はいはい、ティリ様。
そう怒らないで。
これから……ちゃんと、働きますから……ね!」
ズィィィィィィィィッ!……。
「……術式で、体表を削っても……あまり、苔は取れないか……。
いくらかは効果あるけど……体が大きすぎて……苔が取れた部分がとても小さくみえる。
術式攻撃では、やはり埒があか……おっと……」
ごぉぉぉぉぉぉんっ!
「そんでもって……こいつの体に近づくと……思った通り、風も気温も通常通り……吹雪の影響を受けていない。
なんらかの結界が張ってある、ってところだろうが……。
その結界の中でなら……」
「なにをやっておるのじゃ、シナクのやつは!
先ほどから、足下をちょこまかとうろつくばかりで……」
「あやつのことだから、なにかしらの考えがあってのことだとは思うが……。
この吹雪で視界が悪く、なにをしておるのかまではわからぬの……。
おっ?
おお!
あの大将の、苔が……」
「どんどん……消えていく……」
「……リンナさぁーん!
熱攻撃系の、大規模魔法をっー!」
「おう、でかしたシナク!
あとは任せよ。
………………………………火鳳! 炎凰!
召喚!」
「苔の中から氷の巨人が現れて……」
「巨大な、火の鳥が、その巨人の周囲を旋回しながら……」
「無数の、巨大な火の玉が、巨人の体に突き刺さっていく……」
「あれが……大規模、攻撃魔法か……」
「それよりも……たった三人で……」
「ああ。
倒しちまったな……全部……」
「今さらだが……。
こんなにすごい人たちだったんだな……トップクラスの冒険者って……」
「……うひゃぁー……。
どうにか、できましたね……」
「シナクよ……。
よくやった! と、いいたいところであるが……」
「その実、なにをやったのじゃ?
あの苔を消した方法は……」
「……ああ。
これですよ、この羽根……」
「「……グリフォンの、羽根……」」
「これに魔力を通すと、風を操れる……と教えてくれたのはリンナさんでしょう?
今までは、練習しても羽根の硬さを変えるくらいしか出来ませんでしたが……いやぁ。
後がないと覚悟した上でやってみると、意外に成功するもんですねえ……」
「……つまりあれか、シナクよ……。
おぬしは……グリフォンの羽根で激しい風を起こして、あれの体表に張りついた苔を一掃してみせた……」
「しかし、それが成功する確率は極めて低く、実質、ぶっつけ本番であった、と……」
「……ま、まあ……そういうことに、なるわけですが……。
ちょ、ちょっと……お二人とも、眉間に皺を寄せて、怖い顔をして……」
「眉間に皺を寄せたくもなるは、このうつけが!
どう考えても、成功する確率の方が低いであろうが!」
「そんな一か八かの方法を、なぜこんな場面で試そうと思うのか!
その頭をかち割って、おぬしの脳味噌が本当に正常に機能しているか、一度じっくり検分してみたいものじゃの!」
「そ、そんなこといったって……失敗したら、引き返して仕切り直せばいいだけのことだし、成功したらしたで、リンナさんには大規模攻撃魔法を使ってもらうことになるわけだし……おれがいった方が、はやいかなぁーって……」
「「……いいわけ無用!」」
「……うひぃっ!」
「一度帰って、懇々と問いつめてその了見を叩き直す必要があるの、このうつけめには」
「同感じゃな。
パーティを組んでいる以上、今後もこのような危ない橋を平然と渡るようであれば……こちらの身がもたん」
「どうやら、このルートはこの部屋が終着点のようだ。
一度帰るぞ、シナクよ」
「実習生の者どもは、このまま作業を続けるもよし、一度帰って仕切り直すもよし。
吹雪はとまったものの、冷気は相変わらずじゃから、わらわとしては一度帰って、防寒着を用意してくることをおすすめするとろじゃがの」
「だいたいだな、シナクよ。
おぬしは、少々、自分の身を軽んじするぎる傾向が……」
「今回の件で、冒険をしない冒険者と名乗る資格を失ったの、シナクよ……。
さて、相互転移符は、このへんに置けばいいか……」
しゅん。
迷宮内、管制所。
「アイスゴーレムの軍隊に、魔法を使う大将……ですか?」
「ええ、まあ。
なんとか、全部片づけましたが……。
あ、苔掃除にかり出した実習生の人たちは、そのまま作業を続行するそうです。
あの部屋はまだ冷気が残っていてかなり寒いので、大将とかゴーレムの残骸を調べるのならお早めに……」
「はい。
それはすぐにでも手配しますが……。
そうなると……魔法を使う敵が、初めて登場したことになりますね……」
「そうなりますね。
ますます、油断できない状況になってきた、ということで……。
しかし……ゴーレムが魔法使うんなら、もうなんでもありだよな……」
「それと……組織だった動きをする、集団の敵、と……」
「ゴーレムだけあって、動きはさほど素早くはなかったんで、まだしも対処のしようがありましたが……そうでなかったら、もっと手こずっていたはずです」
「俊敏さと機動力に優れたシナクさんのパーティでなかったら、大将戦までいく前に……と、いうことですか?」
「ぶっちゃけ、そういうことです。
五十人前後の、武装して隊列を組んで待ちかまえている、統制のとれた軍隊を相手にしても勝てるパーティが、今のギルドの中にどれほどいることか……」
「だんだん……わたしたちが知っているモンスターの枠組みから外れた存在が出現してくる……傾向がある、ということですね……。
わかりました。
現在稼働している各パーティに通達の上……ギルドでも、対応策を検討していきます」