110.ゆきのじょおうとこけむしたぐんぜい。
ざっ! かんっ!
「……かってぇ……。
やっぱ、熱を食う苔だけではすみませんか……」
「そう甘くはなかろう。
しかし……硬いな」
かんっ! かんっ!
「これは……中身がぎっしりと詰まっている感触であるな。
術式を使っても、攻撃が弾かれる」
「と、いうことは……あの苔の中身は、ゴーレムか……。
動きがぎこちないんで、生物ではないとは思っていましたが……」
「分類上はゴーレム……に、なるのであろうが……。
むしろこれは、軍隊の模造品になるのではないか?
歩兵、楯兵、騎兵、弓兵……ほっ。大砲兵までおる!」
「で……一番うしろの真ん中でデンと控えている、ひときわでかいのが……大将ですか?
そういや、頭に王冠みたいな飾りがついているようですが……」
「全身苔むしており、うっすらとしか形がわからぬがの。
とはいえ、これは……」
「ああ。
単に数が多いってだけではなく、おれたちが初めて遭遇する、統制の取れた敵集団だ」
「……手伝いますかぁ!」
「実習生のみなさんは下がっててくださぁーい!」
「防御術式も揃えておらぬ者に来られても、かえって足手まといであるしの」
「術式で攻撃をしても、反撃をしてくる気配はないようじゃな」
「おそらく……部屋に入ってきた者を、自動的に攻撃してくるような仕掛けになっているんでしょう。
みんな、入り口を監視ししているようにこっちを向いているし」
「と、いうことは……まずは、式紙でどの程度ダメージを与えられるのか、様子を見てみるか?」
「初手としては、それでいいでしょう。
しかし……術式でダメージを与えられず……あの苔を見ていると、熱もすべて苔に食われてしまいそうだし……」
「攻撃が通りにくい敵……わらわたち三人が不得手な相手というわけじゃの」
「式紙瓜坊、起動!
いけぇ!」
「ぷぎぃ!」
……どぉぉぉぉぉぉんっ!
「さて……どの程度……と」
「目にみえて確認できるほどのダメージ、なしか……」
「むしろ……熱を吸って、苔が厚くなっているような……」
「あの苔の下の中身は、やはり石か金属のようで……」
「術式で質量を増大させ、一体一体砕いていくより他に道はなさそうじゃの」
「……今度は中身入りですからね。
さっきの、がらんどうの動く鎧を叩いたときよりは、ずっと疲れるし手間がかかると思います」
「せめて冷却系の魔法を使用して、あの苔を剥いでおくか?」
「これ以上寒くしたら、逆におれたちの動きが鈍くなります」
「それもそうであるの。
では結局は、肉弾戦になるのか。
面倒ではあるが、しかたがない」
「それとも……応援、呼びますか?」
「まずは一度実地に試してみて、どれほどの打撃を与えれば崩せるのか試してみることにしよう。
いざとなったらこの通路まで下がって、専守防衛の長期戦に持ち込み、一体一体着実に倒していけばよい」
「あやつらがどれほど動けるかはわからぬが、わらわたちが逃げ切れぬほど素早いとは思えぬしな」
「おれたちより早い敵とは、数えるほどしか遭遇していませんしね。
さて、どっから崩します?」
「騎兵からじゃな。
構造的に、あの馬の足は脆そうじゃ」
「次に、大砲兵、弓兵の順。
この防御術式であれば、たいていの攻撃はしのげるはずであるが……飛び道具は、はやめに潰しておきたい」
「では、その順に。
ちょっと待ってください。
発破の準備をします」
「わららも、出しておこうかの。
火をつけて、飛び込んで、あやつらの真下に放り込む」
「その後は、乱戦に持ち込む。
劣勢になりそうな気配があったら、早めに通路に後退して防御に徹する。
そのような手順でよいな?」
「そいつでいきましょう。
はい。
発破の導火線に火をつけました……いきますよ!」
「式紙胡蝶、起動!」
ひゅん。
「……弓の一斉射撃。
やはり、部屋の中に入るのが起動の合図か」
「左右に分かれて正解だったな」
「……こっちに来たんですか、リンナさん」
「陽動と、それに試したいことが……。
ほれ、弓の第二射が来るぞ!」
「……遅い!」
ひゅん。
「さらに加速、か」
「……はいよっ!」
がんっ! どがんっ! ばがんっ!
「……逃げっ!」
「シナクよ、よくやった!
騎兵三騎の前肢を砕いた!」
「……どちらを見ておる、弓兵ども!
せいやぁっ!」
ごずぅぅぅぅんっ!
「帝国皇女、術式で攻撃範囲を一杯まで延長し……弓兵一列分の弓を破壊!」
「リンナさん!
いったん退いて距離をとってください!
発破が……」
「試したいことがあると……いっておろうがぁ!
……よし、大砲兵の制御系に接続……退く!」
……どぉぉぉぉぉんっ!
どぉぉぉぉぉんっ!
どぉぉぉぉぉんっ!
どぉぉぉぉぉんっ!
「……おおー……。
発破と、リンナさんが乗っ取った大砲兵による、背後からの近距離砲撃で……」
「楯兵、歩兵、騎兵、弓兵が……一気に崩れたの」
「では、敵が混乱しているうちに……」
「ああ!
残党を個別撃破じゃ!」
「……うはぁ……」
「派手派手」
「あれが……トップクラスの冒険者か……」
「たった三人で……ゴーレムの軍隊相手に……」
「最初は……どう考えても無理だろって思ってたけど……」
「やっぱり、見学しておいてよかったな」
「ああ。
こりゃ……苔掃除なんてやってる場合じゃねーや……」
「敵さん、あの三人の動きについていいけず、おたおたしているうちにどんどん数を減らされて……」
「味方の残骸が邪魔で、さらに動きが取れなくなってきて……」
「おい!
みろよ……一番後ろのでかいのが……動き出した!」
「このゴーレム、なんで出来ているかと思ったら……氷かよ……」
「熱を吸う苔と一緒だと、それなりに硬かったのであろうな」
「部隊の半分くらいは倒しましたが……いよいよ、敵の大将さんまでが動き出しましたよ!」
「あのデカいのか!」
「足下に発破を何発も食らわせても、びくともしておらぬの!」
「……お、おい!
あいつ……」
「両手に持ったモーニングスターを振り回して、足下の味方ごと……」
「それよりも、下がれ!
あやつ……魔力を集めておる!
魔法攻撃が来るぞ!」
……ビュォォォォォ……。
「迷宮の中で……吹雪、だと……」
「急激に気温が下がったせいで、大気中の水分が凍りついているようだな!」
「それに、この風……。
視界が悪く……動きが鈍る……」
「……防御術式のおかげで、おれたちの周囲だけは比較的、マシなようですが……」
「あれが……噂に聞く、BOSSというやつかの?」
「あれって、迷宮伝説ってやつじゃなかったんですか?
確かに、こんだけ強力なのだと、BOSSと呼んでも差し支えないんでしょうけど……」
「そんなことをいっている場合か!
攻撃、来るぞ!」
……ごがぁぁぁぁん!
「……両手に持ったモーニングスター。
鉄玉部分を投げれば遠い間合いまで攻撃が可能。
近寄る敵は振り回して撃退。
おまけに、広範囲な魔法攻撃まで可能。
足下で発破が炸裂しても破損しない頑丈な巨体……」
「あの苔の下は、部下と同じくおそらく氷なのであろうが……苔のせいで、熱攻撃系の魔法は通らない」
「その苔も……この吹雪で勝手に取れてくれませんかね?」
「そこまで間抜けではなかろう。
なにかしらの、防止策を講じていると思うが……」
「さて、こいつをどう攻略するか……」